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昔話

③昔話

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 あれから、いつまでたっても雨は止まず、かなりの日々が過ぎていった。
 さすがに、色々な事で生活に困ることがふえた。気がつけばいつも空を見上げるようになった。
 けれど、雨はやむことがなく、いつまでも降り続けていた。


 そうして、あの日がきた。
 本当に珍しく、わたしの家に村の人達が家にきた。


「巫女として行ってくれないか?」
 そう言われた。
 なぜ自分がと、思わなくもなかったけど、それでもいいかと思った。
 もう疲れたから…。


 初めて見る綺麗な白い着物、赤い番傘をもらった。
 着物を着て朝になったら、神様を祀っている祠に行き、祈りを捧げてきてくれと。
 いつまでとは言われなかった。たぶん、雨がやむまでかもしれない。それは、やむまで帰ってくるなともいえる。

 朝にもう一度来るからと、村の人達は帰っていった。両親がいたなら反対してくれたかも、でもわたしには、誰もいない。
 だからこそ、わたしに決まったのだろう。


 急に決まった最後の夜。
 くろといっしよに寝ることにした。
「くろ、元気でね」それしか言えない。
 いっしよに寝ているこの暖かさを忘れないように、くっついて寝て、最後の夜を過ごした。


 朝がきてもどんよりと暗く、相変わらず雨も降り続いていた。

「迎えにきた」
 そう外から声をかけられて、
「わかりました、準備します」と
 戸も開けずに返事して、準備を始めた。

 初めて着る新しい着物。赤い番傘を持って、外に出て傘をさした。

「すいません、くろをお願いしたいのですが」
 わたしがそう言えば
「わかった」と誰が言ってくれた。

 くろを縄で繋いで、来ていた人の内の一人に渡した。
「元気でね」最後に撫でた。


「いくぞ…」
 うながされて、何人かといっしよに歩き始める。
 最初は、よく通っていた里の道を進んでいき、だんだんと奥に行く。
 脇道にはいると、自分が通ったこともない道を通る。気がつけば、山の中なのに少し開けた道に出た。

「この先をずっと行くと、大きな木の根本に祠がある。そこに行って祈ってきて欲しい、これからは一人でいってくれ」

 ためしに聞いてみた。
「いつまでですか?」

「雨がやむまでだ」
 それ以上聞くことのできない雰囲気。

「わかりました」
 一人で赤い番傘を差して歩きはじめる。道なりに歩いていく。


 どれだけ歩いただろう。











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