ついに私も異世界転生!?

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1話

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独特の薬品の匂いと大勢の人の足音がバタバタとそこら中から聞こえてくる。

新菜にいな先生!次の診察お願いします!」
「はい!今行きます!」

犬や猫の鳴き声も相まって私の職場はいつも大騒ぎだ。
私の名前は小鳥遊たかなし 新菜にいな。今日で27歳を迎えるが誕生日も仕事で忙しくしている悲しい独身女だ。
私は動物病院で獣医師として働いている。ここら一体ではかなり規模の大きい動物病院のため毎日大忙しなのだ。

「今日も大忙しですね…。」
トイ・プードルを預かり注射の準備をしていると看護師の原田さんが話しかけてくる。
「ほんとね。まあ繁忙期だから仕方ないよね。」
はあとため息をついて少し怯えているトイ・プードルの手を優しく持ち上げる。
「ちょっとだけ頑張ろうか。」
原田さんによしよしと頭を撫でられ、一瞬犬の気が逸れた瞬間を狙って針を差し込む。

(大丈夫そうかな…)

トイ・プードルは特に気にしている様子もなく、処置もすんなり終わった。
待合室で待つ飼い主のもとに犬を返してもらうように原田さんに頼み、私は診察室へ戻った。
今日の処置をカルテに書き込むのだ。
3分ほどカタカタとパソコンを動かしていると、ガラッと診察室の扉が開く音がした。

「新菜先生、おつかれ~!」

扉のほうを見ると同期で同じく女獣医師である松下がひらひらと手を振っていた。

「おつかれ。もう診察終わり?」
「うん。今日は手術オペも無いし、早く帰れそうだよ。てか、今日覚えてる?」

松下の言葉に思考を巡らせる。

(え、なんか今日あったけ?)

頭をひねっていると原田さんが戻ってきた。
「今日は新菜先生のお誕生日パーティーですよ!お店も予約してるんでちゃんと来てくださいよ!」
「ああ!!」

ポンと手を叩いた。

(そうだった。今日はみんながお祝いしてくれるんだった…)

ちらっと時計を見るとどうやら今日は一日が平和に終わったみたいで、残業はなさそうだ。

「やっぱ忘れてたんだ。言っといてよかったね。」
「ほんとですね。」
あははと原田さんと松下が笑っている。

「ごめんって。じゃあ準備して行こう。」
よいしょと椅子から立ち上がると、処置室の奥のほうが何やら騒がしくなってきた。

(なんか、嫌な予感…)

嫌な予感は2人も感じたのか、顔を見合わせている。

「早く先生呼んで!」
「オペ室の準備は!?」
「飼い主への連絡は!」

バタバタとあっという間に人が集まってきている。
私たちはもう定時を迎えているが、無視もできない。なんだろうと人が集まっているほうに近づく。

「新菜先生!」

看護師の一人が私を見て叫んだ。
すると一斉にみんなが私を見てくる。

「新菜先生!もう定時で申し訳ないんだけど、この子急患なの。処置をお願いできる?」
看護師長が私を見て言ってきた。
「この子って…?」
そう言って診察台を見ると、小さなチワワが横たわっている。

(意識レベルがだいぶ低下してる…!)
そっと体を触ってみても犬からの反応はない。

「体温も下がってきてる。」
この状況、今すぐ処置が必要だ。
原田さんと松下を見るとドンマイとでも言わんばかりの顔でスタッフルームへ向かっていくのが見えた。

(仕方ない…。今いる先生でこの子の処置ができそうなのは…)
ざっとあたりを見渡してみても、今いる獣医師は新米や若手ばかりで処置には入れない。

「わかりました。私がやります。」
そう言うと、看護師長はほっとしたようだった。

「すぐにオペの準備をしてもらえますか。」
そう言うとみんなが一斉に動き出した。

(せっかくの飲み会だったのに、みんなごめん。遅れていくから…)

松下にメッセージを送り、オペ室へ向かった。
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