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畳に体育座りして膝小僧を見つめる。
玄関を入って直ぐのユニットバスからはシャワーの音が響いて来る。
「処理してて良かった…。」
ツルツルのスネを擦りながら呟く。
初めて海くんの部屋に入った。
汚れた服でお邪魔するのも申し訳なくて、先にシャワーを使わせてもらった。
トイレの床に倒れ込んだだけのことはあり、ショーツ以外、ブラも含め洋服は全滅だった。
代わりに海くんが貸してくれた短パンとTシャツを着ているが、これが心許ない。
大きめのサイズのTシャツにノーブラなので少しでも屈んだら全て見えてしまいそうな上、短パンも短くて太腿が殆ど露出している。
好きな人の家にこんな格好で居座るなんて。
「痴女じゃん。」
声に出して自己嫌悪する。
テーブルの上に並ぶ缶チューハイを眺める。
まだ飲むのかな?
店を出る頃には完全に冷めてはいたが、海くんはお酒に弱い癖に、途中寄ったコンビニで何本もお酒を購入していた。
私のせいで酔わなければやっていられない気分にでもなっているのだろうか。
一方で私はそのコンビニでこっそりゴムを買った。
きっと使うことにはならないだろうが、その可能性がゼロでないのなら持っているべきだ。
世間では男の責任とか、男の嗜みとか言われているが、私の場合は違う。
私が好きで、私がおしかけて、私がこんな格好で居座るのだから、何か起きるなら全て私の責任だ。
キュッと蛇口を捻る音がして、シャワー音が止まる。
ドキリと心臓が鳴り、急激に緊張する。
「欲しい男できたら取り敢えず脚開いとけよ。」
突然尊先輩の言葉がフラッシュバックしてヒュッと喉が閉まる。
それが今なのか。
海くんには誠実でいると決めたことや、こんなやり方は自分には向いていないと思い直したこと等、今までに出した答えを全て吹っ飛ばしてひとつの結論を出してしまいそうになる。
「既成事実…。」
ガッチャっと音がして扉が開く。
モアッと湯気が部屋まで広がり、濡れ髪の海くんが現れた。
適当に拭いただけの髪からポタポタと垂れた水滴が、鎖骨の窪みをなぞるようにTシャツの中へ消えていく。
私はゴクリと生唾を飲んだ。
「一花さん、あんまり飲めてないと思って。」
テーブルの向かいから、缶チューハイ達を私の方に押して海くんが言った。
「これ私の為だったの?嬉しい!ありがとう。」
お礼を言って、色々な種類の中からパインのチューハイを選ぶ。
「なんかパインって一花さんぽいね。」
そう言って海くんは桃のチューハイを手に取った。
私より可愛いの選びやがって。
初めこそお互いにギクシャクしていたが、飲み始めたら普通に楽しく会話が出来た。
お酒に弱い海くんは、桃のチューハイを飲みきる前にお茶に変えていた。
私は二杯目のチューハイに手を出し、ほろ酔いで気分が良くなっていた。
濡れ髪が乾き、いつも見慣れている海くんのホワホワのくせ毛が見えてきた頃。
酔って気の大きくなっていた私は、身を乗り出すと手を伸ばし髪に触れた。
「ぽわぽわしてる。」
海くんもまだほんのり酔っているのか、ニコニコ笑いながら気持ち良さそうに目を細める。
どさくさに紛れ耳を触る。
ピクッと反応し目を開けた海くんが顔を真っ赤にして、不自然に背けた。
「ん?」
自身の状態を確認して戦慄する。
身を乗り出し前屈みの体勢で、ベロッと大きく襟口が開いている。
胸元を抑え、慌てて姿勢を正す。
見えていたかもしれない。
「ごめん!」
「あ、いや、俺も過剰反応してごめん。」
気まづい空気が流れる。
せっかく楽しく出来ていたのに、また失敗してしまった。
もうここまで来たら、焦って空気を戻すのではなく、このまま突き進んでみてはどうだろうか。
それにこんなチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
海くんに完全拒絶されない限りは、とことん押してやろう。
私は腹を括った。
「ねぇ、隣行って良い?」
「え?…うん。」
戸惑いつつも了承はしてくれた。
立ち上がり隣に座ると、海くんはあからさまに身構えるように体育座りになった。
完全に警戒されている。
めげずに距離を詰める。
「なんか、海くんっていつも良い匂いするよね。」
「え?」
肩同士を密着させ、首を伸ばして海くんの首元の匂いを嗅ぐ。
身体の接している部分から、身を強ばらせていることが伝わってくる。
私の鼻先が首を掠めると、ビクッと肩が跳ねた。
膝を抱えている手の上に私の手を重ね、首に唇を触れさせるだけのキスをすると、ガバッと身体ごとこちらを向いた。
至近距離で目が合い、胸が熱くなる。
海くんは私の目と唇を交互に見やるとゴクリと生唾を飲んだ。
これはもしかしたらキスをしてくれるのかもしれない。
私も海くんの目と唇を交互に見る。
顔が近付き、鼻と鼻が触れる距離まで来た。
その時、グイッと肩を押され離れる。
「一花さん、ふざけ過ぎだから。」
冷たく言い放たれた。
これはもう完全な拒絶だ。
「そ、そうだよね!ごめんごめん!」
泣きそうになるのを笑って誤魔化す。
この後どうしよう。
どう方向転換して元の関係に戻ろう。
瞬時に後悔とまだ完全に潰えていない関係修復の道で頭が一杯になる。
「やっぱりね…。」
「え?」
海くんがなにか呟いた。
「やっぱり、ふざけてたんだね。」
次の瞬間衝撃を受け、背中が畳にぶつかる。
そして気付いたら天井を眺めていた。
玄関を入って直ぐのユニットバスからはシャワーの音が響いて来る。
「処理してて良かった…。」
ツルツルのスネを擦りながら呟く。
初めて海くんの部屋に入った。
汚れた服でお邪魔するのも申し訳なくて、先にシャワーを使わせてもらった。
トイレの床に倒れ込んだだけのことはあり、ショーツ以外、ブラも含め洋服は全滅だった。
代わりに海くんが貸してくれた短パンとTシャツを着ているが、これが心許ない。
大きめのサイズのTシャツにノーブラなので少しでも屈んだら全て見えてしまいそうな上、短パンも短くて太腿が殆ど露出している。
好きな人の家にこんな格好で居座るなんて。
「痴女じゃん。」
声に出して自己嫌悪する。
テーブルの上に並ぶ缶チューハイを眺める。
まだ飲むのかな?
店を出る頃には完全に冷めてはいたが、海くんはお酒に弱い癖に、途中寄ったコンビニで何本もお酒を購入していた。
私のせいで酔わなければやっていられない気分にでもなっているのだろうか。
一方で私はそのコンビニでこっそりゴムを買った。
きっと使うことにはならないだろうが、その可能性がゼロでないのなら持っているべきだ。
世間では男の責任とか、男の嗜みとか言われているが、私の場合は違う。
私が好きで、私がおしかけて、私がこんな格好で居座るのだから、何か起きるなら全て私の責任だ。
キュッと蛇口を捻る音がして、シャワー音が止まる。
ドキリと心臓が鳴り、急激に緊張する。
「欲しい男できたら取り敢えず脚開いとけよ。」
突然尊先輩の言葉がフラッシュバックしてヒュッと喉が閉まる。
それが今なのか。
海くんには誠実でいると決めたことや、こんなやり方は自分には向いていないと思い直したこと等、今までに出した答えを全て吹っ飛ばしてひとつの結論を出してしまいそうになる。
「既成事実…。」
ガッチャっと音がして扉が開く。
モアッと湯気が部屋まで広がり、濡れ髪の海くんが現れた。
適当に拭いただけの髪からポタポタと垂れた水滴が、鎖骨の窪みをなぞるようにTシャツの中へ消えていく。
私はゴクリと生唾を飲んだ。
「一花さん、あんまり飲めてないと思って。」
テーブルの向かいから、缶チューハイ達を私の方に押して海くんが言った。
「これ私の為だったの?嬉しい!ありがとう。」
お礼を言って、色々な種類の中からパインのチューハイを選ぶ。
「なんかパインって一花さんぽいね。」
そう言って海くんは桃のチューハイを手に取った。
私より可愛いの選びやがって。
初めこそお互いにギクシャクしていたが、飲み始めたら普通に楽しく会話が出来た。
お酒に弱い海くんは、桃のチューハイを飲みきる前にお茶に変えていた。
私は二杯目のチューハイに手を出し、ほろ酔いで気分が良くなっていた。
濡れ髪が乾き、いつも見慣れている海くんのホワホワのくせ毛が見えてきた頃。
酔って気の大きくなっていた私は、身を乗り出すと手を伸ばし髪に触れた。
「ぽわぽわしてる。」
海くんもまだほんのり酔っているのか、ニコニコ笑いながら気持ち良さそうに目を細める。
どさくさに紛れ耳を触る。
ピクッと反応し目を開けた海くんが顔を真っ赤にして、不自然に背けた。
「ん?」
自身の状態を確認して戦慄する。
身を乗り出し前屈みの体勢で、ベロッと大きく襟口が開いている。
胸元を抑え、慌てて姿勢を正す。
見えていたかもしれない。
「ごめん!」
「あ、いや、俺も過剰反応してごめん。」
気まづい空気が流れる。
せっかく楽しく出来ていたのに、また失敗してしまった。
もうここまで来たら、焦って空気を戻すのではなく、このまま突き進んでみてはどうだろうか。
それにこんなチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
海くんに完全拒絶されない限りは、とことん押してやろう。
私は腹を括った。
「ねぇ、隣行って良い?」
「え?…うん。」
戸惑いつつも了承はしてくれた。
立ち上がり隣に座ると、海くんはあからさまに身構えるように体育座りになった。
完全に警戒されている。
めげずに距離を詰める。
「なんか、海くんっていつも良い匂いするよね。」
「え?」
肩同士を密着させ、首を伸ばして海くんの首元の匂いを嗅ぐ。
身体の接している部分から、身を強ばらせていることが伝わってくる。
私の鼻先が首を掠めると、ビクッと肩が跳ねた。
膝を抱えている手の上に私の手を重ね、首に唇を触れさせるだけのキスをすると、ガバッと身体ごとこちらを向いた。
至近距離で目が合い、胸が熱くなる。
海くんは私の目と唇を交互に見やるとゴクリと生唾を飲んだ。
これはもしかしたらキスをしてくれるのかもしれない。
私も海くんの目と唇を交互に見る。
顔が近付き、鼻と鼻が触れる距離まで来た。
その時、グイッと肩を押され離れる。
「一花さん、ふざけ過ぎだから。」
冷たく言い放たれた。
これはもう完全な拒絶だ。
「そ、そうだよね!ごめんごめん!」
泣きそうになるのを笑って誤魔化す。
この後どうしよう。
どう方向転換して元の関係に戻ろう。
瞬時に後悔とまだ完全に潰えていない関係修復の道で頭が一杯になる。
「やっぱりね…。」
「え?」
海くんがなにか呟いた。
「やっぱり、ふざけてたんだね。」
次の瞬間衝撃を受け、背中が畳にぶつかる。
そして気付いたら天井を眺めていた。
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