休憩室の真ん中

seitennosei

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「本当に手の掛かるお二人なんですから~。」
ユナちゃんはわざとらしくやれやれという顔を作り、大袈裟に振舞った。
「高橋さんにも汐さんにも、ユナは何回もヒント出して、何回も背中押したのに、くっつくまでにどんだけ無駄にウジウジウジウジやってんですか?って話ですよ。」
「はは…。」
俺はぐうの音も出なくなり、乾いた笑いを返すしかない。
横の汐も同じように微妙な顔で座っている。
「まあまあ、あんまり責めないでよ。私は二人の気持ちわかるよ。」
ユナちゃんの隣で、果歩ちゃんが優しく笑っている。
「傍から見てどれだけ良い感じでも『はい、じゃあ付き合いましょう。』っていかない時もありますよね?」
そして同意を求める様にこちらを見てきた。
俺はあの日のカフェでの告白を思い出した。

「私、高橋さんのこと初めて会った日からずっと好きでした。」
そう切り出された時は、申し訳ないことに、正直面倒だと思ってしまった。
果歩ちゃんの気持ちは薄々わかっていた上で、思わせ振りな態度はとらない様に気を付けていたし、汐のことで頭の中がいっぱいいっぱいだったから。
ただ、その後詳しく聞いてみたら、話のメインは俺への告白ではなかった。
それと言うのも、果歩ちゃんが現在好きなのは濱田さんなのだそうだ。
そして想いが通じ、つい最近付き合うことになった。
ただ、バイトと社員であった二人の関係が変わった切っ掛けというのが、俺に片思いしている辛い時期に相談に乗ってもらったことだった為、関係が進展した今でも、俺に対する果歩ちゃんの気持ちについて、濱田さんには不安が残っているらしい。
「だから、過去形だけどしっかり想いを伝えて、キッパリ振ってもらって、ケジメを付けたかったんです。そして濱田さんに、スッキリしてもらいたいんです。」
そう果歩ちゃんは話してくれた。
あの日は、その後迎えに来た濱田さんと合流し三人でお茶をして帰った。

「あの時は済みませんでした。私の自己満に高橋さんを付き合わせてしまって…。」
果歩ちゃんは申し訳なさそうに謝罪してきた。
俺は「気にすんなよ。」と笑って返す。
「汐ちゃんもごめんね。後でユナから汐ちゃんが血相変えて高橋さんの家に走って行ったって聞いてさ。まさか二人がそんな関係だって知らなかったから…。不安にさせてごめんね。」
「ううん。謝らないで。果歩ちゃんは悪くないし。結果的に私も高橋さんと付き合えたし。」
そうお互いを気遣い合う、汐と果歩ちゃん。
俺はホッとしていた。
あの日の誤解がやっと解けた。
最中に汐がゴムを取り出し「果歩ちゃんと使う予定でした?」と言ってきた時は、意味もわからなかったし、本当にどうしようかと思った。
汐は「高橋さんのポケットに入っていたゴム。」と言っていた。
その時は全く身に覚えがなかったが今振り返ると、多分あのピーコートのポケットの中に、ワンシーズン前の冬から入れっぱなしになっていた物なんだと思われる。
だから、果歩ちゃんと使う予定どころか、誰とも使う予定のない、忘れ去られていたコンドームなのだが、最悪のタイミングで飛び出してきた物だから参ってしまった。
まあ、その勘違いのお陰で、汐と想いを確かめ合うことが出来たのだから、今となっては良かったのだが。

休憩を終えた果歩ちゃんが店に戻って行った。
その背中を見送り、何となく隣の汐を見る。
汐は微妙に険しい顔をしてユナちゃんを見ていた。
「ユナちゃん。」
そして、低く落ち着いた声で呼び掛ける。
「あの日、わかってて私に嘘吐いたでしょ?」
「えー?何のことです?」
ユナちゃんは明らかにしらばっくれている。
事情を知らない俺が見ても明白なくらいのすっとぼけ顔だ。
「嘘吐かないでよ。果歩ちゃんが勝負下着買ったのは高橋さんの為だとか何とか言って私を焚き付けたでしょ?」
なに?
勝負下着だと?
俺は話に着いていけず目を見開いた。
「言ってない言ってない。ユナは『果歩さんが勝負下着買ったのはこの為だったのか。』って言っただけだよ!この為って言うのは、『高橋さんとお食事した後濱田さんちでお家デートする』って聞いてたから、そのことを言っただけで、『高橋さんの為に勝負下着使う。』なんて一言もユナは言ってないし!」
「絶対嘘!酷い屁理屈だよ!」
滅茶苦茶な詭弁を言うユナちゃんに対し、汐は憤慨している。
怒っている汐も可愛い。と、俺は場違いにもひっそりと心の中で惚気けた。
「てか、勝手に汐さんが勘違いしただけだし。ああ、勘違いして『今日高橋さんのところ行く!』って言い出した汐さん、可愛かったなぁ~。」
「ちょっと!高橋さんの前で止めてよ!」
汐は顔を真っ赤にし、大きな声を出した。
「今日勝負下着じゃないけど、行く!とか言ってんの。ちょー、可愛かった。」
それを尚も煽り続けるユナちゃん。
何だか色々と合点がいった。
あの日、何故汐があんな暴挙に出たのか。
それがずっと疑問だった。
真相は、ユナちゃんが汐の勘違いを誘発させた上に、思い切り煽っていたんだな。
数日経って、少しずつ納得できてきた。
しかし、ユナちゃんて何者なんだろう。
今回、俺に対しても早くから気付いて助言をくれていた。
もっと言えば、俺が一花を自覚ないまま好きだったことも気付いていたみたいだった。
一般的な女子高生とは桁違いに鋭い。
純粋であまり人を疑わない汐は、完全にやり込められている。
そしてこれから先も、この年下にしてやられ続けるのだろう。
「まあ、お陰で汐と上手くいったし、俺は感謝してるよ。ユナちゃんありがとな。でもこれからはあんま汐虐めないでな。」
笑って礼を言う。
「虐めじゃないです。可愛がってるんです。高橋さんだけの汐さんじゃないんだから、これからもユナは汐さんを可愛がり続けますよ。」
ユナちゃんも笑って返してきた。

なんて平和で幸せな時間なんだろう。
大切な彼女と、信頼できる友人達。
俺が人と向き合わないままにいたら、得られなかった物だ。
こういう時間が永く続く様に、こういう時間を過ごせる人が1人でも多くなる様に。
これからは人にいい加減にしないで、しっかりと生きていこうと、当たり前のことを思った。
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