41 / 42
41
しおりを挟む
「本当に手の掛かるお二人なんですから~。」
ユナちゃんはわざとらしくやれやれという顔を作り、大袈裟に振舞った。
「高橋さんにも汐さんにも、ユナは何回もヒント出して、何回も背中押したのに、くっつくまでにどんだけ無駄にウジウジウジウジやってんですか?って話ですよ。」
「はは…。」
俺はぐうの音も出なくなり、乾いた笑いを返すしかない。
横の汐も同じように微妙な顔で座っている。
「まあまあ、あんまり責めないでよ。私は二人の気持ちわかるよ。」
ユナちゃんの隣で、果歩ちゃんが優しく笑っている。
「傍から見てどれだけ良い感じでも『はい、じゃあ付き合いましょう。』っていかない時もありますよね?」
そして同意を求める様にこちらを見てきた。
俺はあの日のカフェでの告白を思い出した。
「私、高橋さんのこと初めて会った日からずっと好きでした。」
そう切り出された時は、申し訳ないことに、正直面倒だと思ってしまった。
果歩ちゃんの気持ちは薄々わかっていた上で、思わせ振りな態度はとらない様に気を付けていたし、汐のことで頭の中がいっぱいいっぱいだったから。
ただ、その後詳しく聞いてみたら、話のメインは俺への告白ではなかった。
それと言うのも、果歩ちゃんが現在好きなのは濱田さんなのだそうだ。
そして想いが通じ、つい最近付き合うことになった。
ただ、バイトと社員であった二人の関係が変わった切っ掛けというのが、俺に片思いしている辛い時期に相談に乗ってもらったことだった為、関係が進展した今でも、俺に対する果歩ちゃんの気持ちについて、濱田さんには不安が残っているらしい。
「だから、過去形だけどしっかり想いを伝えて、キッパリ振ってもらって、ケジメを付けたかったんです。そして濱田さんに、スッキリしてもらいたいんです。」
そう果歩ちゃんは話してくれた。
あの日は、その後迎えに来た濱田さんと合流し三人でお茶をして帰った。
「あの時は済みませんでした。私の自己満に高橋さんを付き合わせてしまって…。」
果歩ちゃんは申し訳なさそうに謝罪してきた。
俺は「気にすんなよ。」と笑って返す。
「汐ちゃんもごめんね。後でユナから汐ちゃんが血相変えて高橋さんの家に走って行ったって聞いてさ。まさか二人がそんな関係だって知らなかったから…。不安にさせてごめんね。」
「ううん。謝らないで。果歩ちゃんは悪くないし。結果的に私も高橋さんと付き合えたし。」
そうお互いを気遣い合う、汐と果歩ちゃん。
俺はホッとしていた。
あの日の誤解がやっと解けた。
最中に汐がゴムを取り出し「果歩ちゃんと使う予定でした?」と言ってきた時は、意味もわからなかったし、本当にどうしようかと思った。
汐は「高橋さんのポケットに入っていたゴム。」と言っていた。
その時は全く身に覚えがなかったが今振り返ると、多分あのピーコートのポケットの中に、ワンシーズン前の冬から入れっぱなしになっていた物なんだと思われる。
だから、果歩ちゃんと使う予定どころか、誰とも使う予定のない、忘れ去られていたコンドームなのだが、最悪のタイミングで飛び出してきた物だから参ってしまった。
まあ、その勘違いのお陰で、汐と想いを確かめ合うことが出来たのだから、今となっては良かったのだが。
休憩を終えた果歩ちゃんが店に戻って行った。
その背中を見送り、何となく隣の汐を見る。
汐は微妙に険しい顔をしてユナちゃんを見ていた。
「ユナちゃん。」
そして、低く落ち着いた声で呼び掛ける。
「あの日、わかってて私に嘘吐いたでしょ?」
「えー?何のことです?」
ユナちゃんは明らかにしらばっくれている。
事情を知らない俺が見ても明白なくらいのすっとぼけ顔だ。
「嘘吐かないでよ。果歩ちゃんが勝負下着買ったのは高橋さんの為だとか何とか言って私を焚き付けたでしょ?」
なに?
勝負下着だと?
俺は話に着いていけず目を見開いた。
「言ってない言ってない。ユナは『果歩さんが勝負下着買ったのはこの為だったのか。』って言っただけだよ!この為って言うのは、『高橋さんとお食事した後濱田さんちでお家デートする』って聞いてたから、そのことを言っただけで、『高橋さんの為に勝負下着使う。』なんて一言もユナは言ってないし!」
「絶対嘘!酷い屁理屈だよ!」
滅茶苦茶な詭弁を言うユナちゃんに対し、汐は憤慨している。
怒っている汐も可愛い。と、俺は場違いにもひっそりと心の中で惚気けた。
「てか、勝手に汐さんが勘違いしただけだし。ああ、勘違いして『今日高橋さんのところ行く!』って言い出した汐さん、可愛かったなぁ~。」
「ちょっと!高橋さんの前で止めてよ!」
汐は顔を真っ赤にし、大きな声を出した。
「今日勝負下着じゃないけど、行く!とか言ってんの。ちょー、可愛かった。」
それを尚も煽り続けるユナちゃん。
何だか色々と合点がいった。
あの日、何故汐があんな暴挙に出たのか。
それがずっと疑問だった。
真相は、ユナちゃんが汐の勘違いを誘発させた上に、思い切り煽っていたんだな。
数日経って、少しずつ納得できてきた。
しかし、ユナちゃんて何者なんだろう。
今回、俺に対しても早くから気付いて助言をくれていた。
もっと言えば、俺が一花を自覚ないまま好きだったことも気付いていたみたいだった。
一般的な女子高生とは桁違いに鋭い。
純粋であまり人を疑わない汐は、完全にやり込められている。
そしてこれから先も、この年下にしてやられ続けるのだろう。
「まあ、お陰で汐と上手くいったし、俺は感謝してるよ。ユナちゃんありがとな。でもこれからはあんま汐虐めないでな。」
笑って礼を言う。
「虐めじゃないです。可愛がってるんです。高橋さんだけの汐さんじゃないんだから、これからもユナは汐さんを可愛がり続けますよ。」
ユナちゃんも笑って返してきた。
なんて平和で幸せな時間なんだろう。
大切な彼女と、信頼できる友人達。
俺が人と向き合わないままにいたら、得られなかった物だ。
こういう時間が永く続く様に、こういう時間を過ごせる人が1人でも多くなる様に。
これからは人にいい加減にしないで、しっかりと生きていこうと、当たり前のことを思った。
ユナちゃんはわざとらしくやれやれという顔を作り、大袈裟に振舞った。
「高橋さんにも汐さんにも、ユナは何回もヒント出して、何回も背中押したのに、くっつくまでにどんだけ無駄にウジウジウジウジやってんですか?って話ですよ。」
「はは…。」
俺はぐうの音も出なくなり、乾いた笑いを返すしかない。
横の汐も同じように微妙な顔で座っている。
「まあまあ、あんまり責めないでよ。私は二人の気持ちわかるよ。」
ユナちゃんの隣で、果歩ちゃんが優しく笑っている。
「傍から見てどれだけ良い感じでも『はい、じゃあ付き合いましょう。』っていかない時もありますよね?」
そして同意を求める様にこちらを見てきた。
俺はあの日のカフェでの告白を思い出した。
「私、高橋さんのこと初めて会った日からずっと好きでした。」
そう切り出された時は、申し訳ないことに、正直面倒だと思ってしまった。
果歩ちゃんの気持ちは薄々わかっていた上で、思わせ振りな態度はとらない様に気を付けていたし、汐のことで頭の中がいっぱいいっぱいだったから。
ただ、その後詳しく聞いてみたら、話のメインは俺への告白ではなかった。
それと言うのも、果歩ちゃんが現在好きなのは濱田さんなのだそうだ。
そして想いが通じ、つい最近付き合うことになった。
ただ、バイトと社員であった二人の関係が変わった切っ掛けというのが、俺に片思いしている辛い時期に相談に乗ってもらったことだった為、関係が進展した今でも、俺に対する果歩ちゃんの気持ちについて、濱田さんには不安が残っているらしい。
「だから、過去形だけどしっかり想いを伝えて、キッパリ振ってもらって、ケジメを付けたかったんです。そして濱田さんに、スッキリしてもらいたいんです。」
そう果歩ちゃんは話してくれた。
あの日は、その後迎えに来た濱田さんと合流し三人でお茶をして帰った。
「あの時は済みませんでした。私の自己満に高橋さんを付き合わせてしまって…。」
果歩ちゃんは申し訳なさそうに謝罪してきた。
俺は「気にすんなよ。」と笑って返す。
「汐ちゃんもごめんね。後でユナから汐ちゃんが血相変えて高橋さんの家に走って行ったって聞いてさ。まさか二人がそんな関係だって知らなかったから…。不安にさせてごめんね。」
「ううん。謝らないで。果歩ちゃんは悪くないし。結果的に私も高橋さんと付き合えたし。」
そうお互いを気遣い合う、汐と果歩ちゃん。
俺はホッとしていた。
あの日の誤解がやっと解けた。
最中に汐がゴムを取り出し「果歩ちゃんと使う予定でした?」と言ってきた時は、意味もわからなかったし、本当にどうしようかと思った。
汐は「高橋さんのポケットに入っていたゴム。」と言っていた。
その時は全く身に覚えがなかったが今振り返ると、多分あのピーコートのポケットの中に、ワンシーズン前の冬から入れっぱなしになっていた物なんだと思われる。
だから、果歩ちゃんと使う予定どころか、誰とも使う予定のない、忘れ去られていたコンドームなのだが、最悪のタイミングで飛び出してきた物だから参ってしまった。
まあ、その勘違いのお陰で、汐と想いを確かめ合うことが出来たのだから、今となっては良かったのだが。
休憩を終えた果歩ちゃんが店に戻って行った。
その背中を見送り、何となく隣の汐を見る。
汐は微妙に険しい顔をしてユナちゃんを見ていた。
「ユナちゃん。」
そして、低く落ち着いた声で呼び掛ける。
「あの日、わかってて私に嘘吐いたでしょ?」
「えー?何のことです?」
ユナちゃんは明らかにしらばっくれている。
事情を知らない俺が見ても明白なくらいのすっとぼけ顔だ。
「嘘吐かないでよ。果歩ちゃんが勝負下着買ったのは高橋さんの為だとか何とか言って私を焚き付けたでしょ?」
なに?
勝負下着だと?
俺は話に着いていけず目を見開いた。
「言ってない言ってない。ユナは『果歩さんが勝負下着買ったのはこの為だったのか。』って言っただけだよ!この為って言うのは、『高橋さんとお食事した後濱田さんちでお家デートする』って聞いてたから、そのことを言っただけで、『高橋さんの為に勝負下着使う。』なんて一言もユナは言ってないし!」
「絶対嘘!酷い屁理屈だよ!」
滅茶苦茶な詭弁を言うユナちゃんに対し、汐は憤慨している。
怒っている汐も可愛い。と、俺は場違いにもひっそりと心の中で惚気けた。
「てか、勝手に汐さんが勘違いしただけだし。ああ、勘違いして『今日高橋さんのところ行く!』って言い出した汐さん、可愛かったなぁ~。」
「ちょっと!高橋さんの前で止めてよ!」
汐は顔を真っ赤にし、大きな声を出した。
「今日勝負下着じゃないけど、行く!とか言ってんの。ちょー、可愛かった。」
それを尚も煽り続けるユナちゃん。
何だか色々と合点がいった。
あの日、何故汐があんな暴挙に出たのか。
それがずっと疑問だった。
真相は、ユナちゃんが汐の勘違いを誘発させた上に、思い切り煽っていたんだな。
数日経って、少しずつ納得できてきた。
しかし、ユナちゃんて何者なんだろう。
今回、俺に対しても早くから気付いて助言をくれていた。
もっと言えば、俺が一花を自覚ないまま好きだったことも気付いていたみたいだった。
一般的な女子高生とは桁違いに鋭い。
純粋であまり人を疑わない汐は、完全にやり込められている。
そしてこれから先も、この年下にしてやられ続けるのだろう。
「まあ、お陰で汐と上手くいったし、俺は感謝してるよ。ユナちゃんありがとな。でもこれからはあんま汐虐めないでな。」
笑って礼を言う。
「虐めじゃないです。可愛がってるんです。高橋さんだけの汐さんじゃないんだから、これからもユナは汐さんを可愛がり続けますよ。」
ユナちゃんも笑って返してきた。
なんて平和で幸せな時間なんだろう。
大切な彼女と、信頼できる友人達。
俺が人と向き合わないままにいたら、得られなかった物だ。
こういう時間が永く続く様に、こういう時間を過ごせる人が1人でも多くなる様に。
これからは人にいい加減にしないで、しっかりと生きていこうと、当たり前のことを思った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる