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第一章 白華の氷雨
決心
しおりを挟む持っていた手拭いで傷口を抑え、沢へと向かった。傷と手拭いを洗いたい。
脅しのための剣につけられた首の傷は浅いが血は思った以上に流れ、衣の襟元は真っ赤に染まっていた。
ズキズキと、傷表面よりも中の方が疼くーーー。
沢へ着くとぐったりとうなだれる兵士の姿があった。
「ーーーっ!柊彗ーーー…!!」
遠目に見ても間違えるはずのないその姿は、柊彗だった。駆け寄り、私の声に振り向いた柊彗の顔にギョッとする。
白く中性的な顔には何度も殴られたような傷があった。額と唇、鼻には血を拭ったあとがあり、頬は両方とも腫れ上がっていた。
よく見ると衣は刀で数ヶ所切り裂かれており、泥もついていた。
柊彗も私を見て大きく目を見開き、そして表情を歪めたーー。
「ーーごめんなさい。私があいつの所に置いて行ったせいだーーー。こんなに傷だらけにーーーっ柊彗ごめんなさいーー…!!」
ぼろぼろと、涙が止まらなかった。いくらひどい扱いを受けても、体罰を受けても、ここまで柊彗が痛めつけられた姿を見たことはなかった。
あるいは私が知らなかっただけで、こんなことはよくあったのかもしれないと思った。
そう思うと余計涙がとまらず、ぐちゃぐちゃの感情になった。
私が連れてきて、私が巻き込んだ。幼い頃出会ってからずっと王女付きの護衛兵だったから、責任感から翠までついてきてくれたのに、今度こそ捨てられる、見放されるーーー。
ぼろぼろと子どものように泣く私を柊彗は抱きしめた。
「俺が翠王を殺します」
表情は見えないが、胸元に抱きしめられ頭の上から聞こえてくる柊彗の声は、震えていた。
その言葉にまた、ひとしきり泣いたあと、
「二人で逃げよう」
私の口からそんな言葉が出た。
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