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冬の日のたんぽぽ【男子高校生】【お人好し】【少し不思議】【切ない】【拙い】
前編:誰かの声
しおりを挟む(※他の作品に比べて激烈に拙い可能性があります。ご注意下さい。><)
ある寒い日の朝だった。
俺は白い息をを吐きながら、自転車を車庫から引き出した。
こんなに寒いのに、学校へなどいきたくはない。家でゆっくりと寝ていたかった。
高校生にもなって我が儘はよくないと思うのだが、それにしても寒い。
当たり前か。南半球じゃあるまいし、冬が暑かったらスキー場が潰れちまう。
つまらないことを考えながら、俺は自転車を漕いで駅へ向かった。
*
頬に当たる風が、身を切るように冷たい。耳がもげて飛んでいってしまったような気がして、慌てて手を当ててみた。
――あ、ラッキー! ちゃんと付いてる。
俺は寒いのが大の苦手だ。かと言って、暑いのも嫌いだ。
季節は春と秋がいい。それが人間の自然な反応ってもんだろう。
そんなことを考えているうちに、駅の近くの自転車置き場に着いた。ふと腕時計を見ると、電車が来るまでにまだ十分ほど時間がある。俺はニヤッと笑った。
「フッ……余裕だな」
いつもなら『あと三十秒、ダッシュだっ!』と心の中で叫んで跨線橋(鉄道の線路を跨ぐ橋)を駆け上がるところなのだから、今日は珍しい。俺は百メートルばかり先にある改札口に向かって、通りをゆっくりと歩き始めた。
*
駅の改札は会社員だのOLだの学生だのを、ひっきり無しに吐き出していた。
彼らの一部は俺の横を通り過ぎ、建ち並ぶ四角いビル群へ吸い込まれるように入っていく。向かいから来る人群れの中を、俺は泳ぐように避けながら歩いた。
建ち並ぶビル群の中に、一カ所だけくぼんでいる場所があった。そこには今にも崩れ落ちそうなボロアパートが、ひっそりと佇んでいた。
俺はいつもそこを通るたびに、奇妙な感覚に襲われる。
何かが、俺を呼んでいるような気がするのだ。気のせいか、妄想かもしれない。けれど、最近に至っては、強い危機感さえ感じていた。
一応断っておくと、俺は生まれてこの方幽霊なんぞ見たことがない。
間違っても、無縁仏が救いを求めているなどとは考えない――ようにしていた。
ちょうど、そのボロアパートの前を通り過ぎようとした時だった。
「待って……お願いだから……」
俺はその声を聞いて、思わず立ち止まった。いや、正確には声が聞こえたような気がしたからだ。
「空耳か……?」
俺はまた歩き出した。俺は忙しいんだ。高校生ってものは、朝っぱらから空耳を聞いてボケっとしていられるほど暇じゃない。学校が、電車が俺を待っている――。
「……私の声が……聞こえるのなら……」
もう一度、同じ声が聞こえた。車の排気音や、人のざわめきに掻き消されないのが不思議なほどの、小さな小さな声だった。
「何か用か……!?」
俺はぶっきら棒に振り返った。少々、ふて腐れ気味である。
用があるなら、さっさと言ってくれ。俺は忙しい。しかし、そこには誰もいなかった。立ち止まっている俺の目の前を、人々は足早に通り過ぎていくばかり。
俺の目の前にあるのは、倒壊寸前の古びたアパートだけだった。
と、下方、黄色くて小さなものが視界に入る。たんぽぽだ。
そのたんぽぽは、誰も気が付かないほどひっそりと、風に揺れて咲いていた。その割には、妙に印象的だ。
「…………」
俺はしばらくの間、そのたんぽぽを見詰めていた。
俺は電車に乗り遅れた。
幾日か、その声ならぬ声は俺を呼び止め続けた。
俺は律儀にも、その都度振り返ってしまった。振り向くとやはりあの場所で、あのたんぽぽが静かに揺れているだけである。いつしかその声も聞こえなくなり、俺も自然に忘れかけていたところ、突如としてまた聞こえだしたのだ。
しかも、今までより、ずっとしっかりした大きな声で。
(中編へ続く)
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