闇の聖女は夜輝く(魔力皆無で『聖女』認定されず命を狙われた彼女は、真の力で厄災と教団に立ち向かう)

尾久沖ちひろ

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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~

#23 魔法教師エレノア

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「初めまして。エレノア・デルク・フェンデリンです」


 第一印象は、名門女子大学の理事長先生、と言った所か。
 自然に伸びた背筋と、確かな知性と厳格さ、そして往年の美貌を感じさせる顔立ちの老貴婦人だった。


「は、初めまして。カグヤです……」


 雰囲気に少し気圧されながらも、私も挨拶を返す。


「あの……何か?」


 エレノアが無言でこちらを凝視しているのに気付き、問う。


「いえ、ごめんなさいね。異世界から来たと言うから、耳が尖っていたり、翼が生えていたりと、私たちと違う部分があるのかしらと思ったのですが、外見的には変わり無いようですね」
「そう、ですね。そういう人は居ません」


 魔力を持つ以外は、どちらの世界の人間も身体の構造や能力面で大きな違いは無い。


「早速本題に入りましょう。これを」


 そう言ってエレノアが布に包んで差し出したのは、


「これは……鑑定水晶、ですか?」


 大聖堂で触れた物よりも小さい、野球ボール程度の大きさだった。


「ええ。本当にあなたの魔力が無いのか、改めて確かめてみたいのです」


 前回とは違い、今回は私が魔法を使った後の鑑定であるため、違う結果が出るかも知れない、とエレノアやジェフは考えているようだ。


 差し出されたそれを恐る恐る両手で受け取る。
 しかし、やはり水晶に反応は無く、念じてみても依然としてマッチ棒の火ほどの光も灯らない。


「成程、確かに全く反応が無いな。どれ──」


 そう言ってダスクが水晶に触れると、途端に強烈な紫光がほとばしり、修練場を妖しく照らし出した。


「ダスクの闇属性魔力には正常に反応するということは、やっぱり水晶の問題ではないみたいだね」
「それにしても流石はヴァンパイア、凄まじい魔力ですね。私の十倍はあります」


 不死身、不老不死、魔力と三拍子揃ったのがヴァンパイアだが、代わりに聖水や紫外線という決定的な弱点も持つ。
 強力ではあるが、無敵という訳ではないのだ。


「私は宮廷魔術団に在籍し、皇立学術院魔法科の非常勤講師も務めています。それ故に様々な者の魔力を観察してきましたが……あなたは随分と特殊なようですね。異世界人は皆そうなのですか?」
「どう、でしょうか。元の世界には魔素マナも魔力も魔法もありませんでしたから……」


 この世界に召喚されれば、元の世界の者は誰でも特殊な魔力に目覚めるのか、それとも素質があったからこそ私とテルサは召喚されたのか──恐らくはその両方、先天的な素質が異世界に召喚される過程で強化された、というような気がする。


「カグヤの魔力が水晶に認識されない理由として、どんな可能性が考えられる?」
「そうですね……もしかすると、何か条件があるのかも知れません」
「条件?」
「これは魔力ではなく魔法の話なのですが、例えば攻撃魔法の代表格『火の飛球ファイヤー・ボール』は、空気が乾燥している所では効果が増大しますが、逆に空気が湿っていると減衰してしまい、水中では不発に終わります」
「そんな風に天候や地形、時間、気温、人数、性別、健康状態など、何かしらの条件を満たさなければ効果が低下したり、発動自体ができない魔法も結構あるんだ。その分、正しく発動できた時の効果も大きくなるんだけどね」


 ヴァンパイアの体質と同じく、長所と短所は表裏一体。


「私の魔力にも解放条件があって、今はそれが満たされていないということですか?」
「あくまで仮説ですが。条件が満たされない状態では、魔力が完全に隠れてしまって鑑定水晶でも分からないのでしょう」


 その解放条件さえ判明すれば、私も力を制御できるようになるはず。
 命を狙われている以上、自分の身を護る術くらいは体得しておかなくては不安が付き纏う。
 いつでもダスクが助けてくれるとは限らないのだから。


「カグヤ、その条件に何か心当たりはある?」
「そう言われても、あの時は命を狙われて必死で、他に何かを気に掛ける余裕など……」


 と、昨夜の体験を思い返していると、


「──カグヤ」


 背後からダスクの声がした。


「はい?」


 応じて振り向いた瞬間、私の視界に飛び込んで来たのは──拳。


 猛烈な勢いで繰り出された拳が、顔面から数センチの所で急停止。
 ヘアードライヤーのパワーを一気に全開にした時のように、巻き起こる拳圧を正面から浴びて、私の髪がブワッと後ろへ舞った。


「……ッ!?」


 悲鳴を上げることすらできないまま、驚愕と拳圧で体勢を崩し、ぺたんとその場に尻餅を突いた。


 武道の修行に、突き出す拳の風圧で蝋燭ろうそくの火を消すというものがあると聞いたことがあるが、今のダスクの拳圧は、火と言わず燭台ごと吹き飛ばしてしまえるほどの凄まじさだった。
 寸止めではなく直撃していれば、私の顔どころか頭部そのものが消し飛んでいたに違い無い。


 バクバクと心臓が激しく動き、噴き出た冷汗が身を濡らしていた。


「ダスク、何を……!?」


 彼の突然の行動に、ジェフとエレノアも呆気に取られていた。


「済まない。少し試させて貰った」


 倒れ込んだ私に、ダスクが謝りながら手を差し伸べる。


「し、死んでしまうかと、思いました……」


 手を掴んで立ち上がり、呼吸を整えて平静を取り戻そうとする。


「ダスク、今の行為の理由は?」


 咎めるような口調でエレノアが問い詰める。


「冥獄墓所への転移の時、カグヤは聖騎士団に殺されかけた。二度目は聖騎士団の攻撃から俺を庇った時、三度目は大聖堂から外へ脱出する時。いずれも彼女の身が危険に晒されていた」
「だから、カグヤに危機を感じさせれば何か起きると思ったのかい? 考え方は悪くないと思うけど……せめて事前に言ってあげても良かったんじゃないかな」
「それではインパクトに欠け、発動しないのではと思った。とは言え、突然の攻撃で怖がらせてしまったのは事実。悪かったな」
「い、いえ……」


 ダスクなりに私のためを思っての行為だったのは分かる。
 とは言え、次また同じことをする際は、ジェフの言うように一声掛けて欲しいものだ。


「確かに、危機に際して反射的に魔法を発動してしまうケースは多々あります。しかしそれは『きっかけ』であって『条件』ではありません。現に今の寸止めでも、何か起きた様子は見受けられません」
「だね。お婆ちゃんの言う通り、魔力も全く感じなかった」
「そうか……」


 ダスクは残念そうだが、私はむしろほっとしている。
 危険が迫らなければ解放されない力ということは、つまり任意のタイミングで使えないということに他ならず、はっきり言って不便である。
 力を解放する度に恐ろしい思いをしていては、心臓が壊れかねない。
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