闇の聖女は夜輝く(魔力皆無で『聖女』認定されず命を狙われた彼女は、真の力で厄災と教団に立ち向かう)

尾久沖ちひろ

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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~

#24 手配書

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 その数時間後──


「散策、でございますか?」
「はい……」


 世話役のサリーにそう申し出た所、渋い表情が返ってきた。


「時刻は十七時、既に日は没した。俺も外を出歩ける」


 あの後も、私の魔力の解放条件が何か突き止めるために、四人で思案と実験を繰り返してみたが、結局分からず仕舞いだった。


 それからは、サリーが持って来てくれたフェンデリン家の書庫の本を読み過ごして──私はこの世界の文字が読めないため、正確にはサリーに読み聞かせて貰って──、現在に至る。


「私は反対です。危険過ぎます。お二人とも、今の状況は理解できていらっしゃるはず」
「承知の上だ」


 断固たるダスクの返答に、サリーは呆れたように溜め息を吐き、私とダスクと思しき似顔絵が描かれた一枚の紙を差し出した。


「これは……手配書? 何と書かれているのですか?」
「要約すると、お二人は『黄昏の牙』の構成員で、教皇の命を狙って曙光島に侵入、多くの聖騎士を虐殺した、と書かれています。既に帝都全土にこれが出回り、この時間も聖騎士団と帝国騎士団が捜索を行っています」


 聖騎士を殺害してしまったのは事実だが、あれは止むを得ない正当防衛であり、そしてそれ以外は明らかな捏造ねつぞうだ。


「俺とカグヤの名前は出ていないが、生死を問わず、一人につき五百万マドルの賞金が懸けられている。有力な情報の提供でも百万マドルとは……やはり奴らは何が何でも俺たちを始末する気らしいな」


 マドルというのが日本円でどのくらいの価値なのかは知らないが、仮に五百万円だとしても相当な大金、『邪神の息吹』で社会が困窮している状況ならば猶更だ。
 こうなると聖騎士団と帝国騎士団だけでなく、懸賞金目当ての一般人にも警戒しなければならない。


「そのような状況下で外を出歩くことがどれほど危険かはお分かり頂けるはず。何かあったとしても、フェンデリン家は表立って助けることができません」


 罪人に加担したことが発覚すれば、ラモン教皇はこれ幸いとばかりに犬猿の仲であるオズガルドを糾弾、失脚を目論むだろう。


「ああ、君の言う通りだ。しかし三百年間死んでいた俺も、異世界から来たカグヤも、今の帝都や社会の現状を知らない。自分たちを取り巻く環境がどうなっているのか知らないまま過ごすのも、俺に言わせれば充分に危険だ。ここもいつまで安全か分からないからな」
「フェンデリン家はこの国でも上位に位置する名家、栄耀教会や評議会であろうとも、確たる証拠も無しに強制捜査に踏み切ることはできません。それに大旦那様も大奥様も、一度助けると決めた者は手厚く保護して下さる大変義理堅いお方です」


 サリーのその言葉からは強い信頼の念が感じ取れたが、身の安全の保証にはならない。


「二人の人柄を疑っている訳じゃない。だがオズガルド、エレノア、ジェフ、君以外の者は俺たちのことを知らない。他の者にバレたとしても、それでも俺たちをかくまい続けられるのか?」
「それは……」


 フェンデリン家の現当主は、オズガルドとエレノアの息子モルジェオと聞いている。
 私たちが居るこの館は、帝都エルザンパールに於けるフェンデリン家の屋敷で、フェンデリン家の本拠となる館は領地の方にあり、当主モルジェオはそちらに居るそうだ。


 モルジェオが私たちの存在を知って追い出すと言えば、オズガルドたちも匿い続けることはできないだろうし、地下室に通う彼らの様子や食料の減り具合などから、勘付いた使用人が賞金欲しさに情報を漏らす、というようなことも考えられる。


「どのみちいつまでも世話にはなれない。出て行く日は必ず訪れる。その時に備えて、外界の様子を自分の眼と耳で確かめなくてはならない」
「それに……ずっとこの地下室に籠っていると時間の感覚が無くなりますし、精神的にも好ましくありませんから……」


 異世界に召喚されて尚、運命は私に不自由を強いる。
 せめて夜の間だけでも、束の間の自由を味わいたい。


「ですが……」


 尚もサリーが渋るが、そこへやって来る人物が一人。


「話は聞かせて貰ったよ」


 ジェフだった。
 オズガルドとエレノアがこの館を空けている間は、彼が私たちの監督責任者となっている。


「まったく、状況を分かっているのかい? ダスクがヴァンパイアだから、聖騎士団は夜の捜索にこそ力を入れている。そんな所にのこのこ出て行くなんて、眠っているドラゴンの口に自ら飛び込むようなもの──」


 案の定、ジェフも異を唱えたが、


「──というのが、お爺ちゃんたちの考えだ」


 そう言って、ジェフが可愛らしくパチンとウィンクした。


「ジェフさんの考えは違うのですか?」
「いいや、同じく反対だよ。でもね、一方でこうも思うんだ。もしまたカグヤが本物のピンチに陥れば、今度こそ魔力の解放条件が判明するんじゃないか、ってね」


 ダスクの拳の寸止めでは魔力が解放されなかったのは、インパクトが強烈でも所詮は芝居、殺気が伴わなかったからではないか、とジェフは考えているようだ。


「という訳で、行くならノクターンとセレナーデを付けるよ。それなら僕も君たちの様子が分かるし、前回のように逃走経路の案内や、君たちの質問にも答えられる」
「そうして貰えると助かる」
「それからこれも」


 ジェフが差し出したのは、かつらや眼鏡など、変装用の小道具。


「手配書が出回っている以上、最低限の変装は欠かせない。そして目立つ行為は絶対にしないこと。解放条件が分かるかもとは言ったけど、やっぱりトラブル無く帰って来て欲しいというのが正直な気持ちだからね。僕にお爺ちゃんのゲンコツを喰らわせないでよ?」
「ど、努力します……」
「その時は俺も一緒に殴られてやるさ」


 好奇心旺盛で悪戯好きなジェフのことだから、動物たちを使って軽い悪さを働いては、その度にオズガルドから叱られていたのだろうと想像する。
 その悪癖に困らされながらも、オズガルドもエレノアも彼の才覚を認め、『招聖の儀』の盗み見や私たちの保護監督など重要な仕事を任せている。
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