白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 今、歌う準備をしているところだ。共演するミニオーケストラの弦楽器の旋律が奏でられた。まずは一回通して歌う。カメラの前で向かい合わせに立ち、歌いだしの最終確認した。

 俺の歌い方は喉の位置が高くて歪みがないノンビブラートというスタイルだ。勅使河原さんは深みのある声を少し歪ませて、ビブラート交じりで歌う。ここで対立関係を作り、お互いの個性を際立たせる。

「夏樹君は喉の位置を高くクリアーに。ノンビブラートで歌う。スマートなものとして聴かせる。いいかな?」
「はい!」
「そう。普段通りでいい。OKです!」

 これが合図になって演奏が始まった。左手にマイクを持ち、勅使河原さんとアイコンタクトを取った。バイオリンの深い音色と、勅使河原さんのハミングが重なり合い、ステージ全体を包み込んだ。

(……はい、このタイミング!)
(……はい!)

 画面にはどう映るだろう?先生と生徒のようじゃないか?歌声をあげていくと、不思議な事が起こった。すごく歌いやすい。高音なのに声が出やすい感覚がある。

 寄り添うような低音が絡み合った。自分のパートが分からなくなる心配はない。高校時代に礼拝の時間で歌った経験を活かせている。藤沢とのツインボーカルで讃美歌を歌う機会が多かったからだ。

 柔らかくて低い歌声が心地いい。一緒に歌っているのに、包み込まれているかのようだ。この感覚に覚えがある。どこで感じたものだろう?

(黒崎さんのピアノだ。だから歌いやすいのかな?)

 まるで家の中に居るかのようだ。振り返ればキッチンが見えそうだ。ステージに立っているのに、庭が広がっている。そう錯覚している。それだけ勅使河原さんがすごいということだ。自分もそうなれるだろうか?

「……wherever you are……遠くても、近くても、想っている……あなたが心のドアを開けた……」

 弦楽器からの旋律と勅使河原さんの声が響き渡った。自分の声とが重なっては離れていき、一つになって完成した。最後の一音が吸い込まれた。その音が完全に空間に吸い込まれた後、拍手が起こった。

 パチパチパチパチ!

 オーーーーー!

 ナツキーー!

「え……?」
「キミへの拍手だよ!」

 スタジオ内の人から歓声が起こっている。悠人と佐久弥が大きく手を振っている。顔を真っ赤にしている。頭がぼんやりして働かない。体も痺れて動かない。勅使河原さんの声すらも遠くに聞こえる。

「キーを下げて正解だったね。歌いやすかっただろう?」
「はい。原曲キーじゃ?」
「違うよ。あえて伝えなかった。低めの声がよく響く。よかった」
「ありがとうございます……」

 ここで泣いてどうする?家に帰った後でうれし泣きをしたい。涙を拭いてもらうのは、あの人がいいから。
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