白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 ギシ……。

 家に帰ってきて、シャワーを浴びてきたところだ。今、黒崎が浴びている。小さなダウンライトからの灯りが、室内をあたたかな色に染めている。身じろぐたびに、ベッドのシーツに落ちている影が動いた。

 心臓の鼓動が高鳴りっぱなしだ。今夜の黒崎を怖いとさえ感じている。どう話しかけようか?そう思って戸惑いながら手をついて座っていると、シーツに新しい影が落ちた。

(……いつの間に?え?いきなり……)

 いつの間にか、黒崎がそばにいた。そして、覆いかぶさるようにしてキスをされた。ボディーソープの香りと体臭とが混ざりあった匂いがする。普段とは違う。別人のようだ。唇や手の熱さも同じなのに。

「んん……」
「こっちを向いてごらん」

 どうして恥ずかしいのだろう。肌を辿っていく手を眺めて、胸の鼓動が跳ね上がった。それが呼び水になり、バクバクと強く打ち始めた。

 何も着ていない肌からの感触がダイレクトに伝わった。何度も絡み合わせた視線が落とされた。黒崎の長いまつ毛が影を作った瞬間に惹きつけられしまった。目を逸らすことが出来ない。

「あ……」
「怖くない」

 ベッドに倒れされた。ぼんやりした天井が揺れている。黒崎の熱っぽい眼差しに、胸と背中が痛くなった。震えているはずはないのに、なだめるように頬やこめかみに優しく唇を押し当てられた。

「大人扱いでも優しくする。怖いことは何もしない」
「だって……。黒崎さん……ちがう……」
「大人になるのを待っていた。こんなふうに抱きたかった」
「黒崎さん……、あ……」

 見つめ合っているだけなのに、一気に体の熱が上がった。それが伝わったのか、笑い声を立てられた。そっと頬にキスをされた後の眼差しは、ベッドで向けられる普段通りのものだった。さっきとは違う。ここまで違うものだったのか。

 今まで大人扱いで抱かれていたと思っていたのに。ひたすらイヤラしく撫でられて、ベッドの中で呆れたこともある。たまに訪れるムードのある甘い夜でも、こんな風にされたことがない。

 どこが違うのか?具体的に指し示すことが出来ない。まるで食べられそうな気分だ。唇の隙間から見えている赤い舌と白い歯に、背中がゾクゾクした。

「怖いよ……」
「どこが怖いんだ?」
「今は怖くないけど。ううん、怖い……」
「やめておくか?」

 黒崎がため息をついている。そして、笑い声を立てている。やめるわけがないだろう?唇がそう動いている。動けなくなった。今度は優しく頬にキスをされた。蕩けそうなほどに優しい。どれが本当の姿なのか。

「甘い夜がいいと言っていただろう。期待に応えるだけだ」
「こんなことだって思ってなかったもん……」
「大人の世界にようこそ」
「黒崎さん……っ」

 室内の灯りが動いた。体が動いて光が遮られたからだ。顔へと暗い影が落ちた後、そっと胸元にキスをされた。腰に添えられた手の強さは優しい。

 大事なものに触れるかのように、何度も唇へのキスが続けられた。黒崎の目が肉食獣のように見えた。
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