白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 21時。

 湾沿いをドライブした後、大きな公園で散歩をしている。目の前にはレインボーブリッジが輝いている。日本料理店でご飯を食べた後、どこへ行こうかと話し合った。二人でゆっくりできる場所がいい。そして、たどり着いた結論が、この場所だ。いつものコースだなと、お互いに笑った。

「聞くまでもないな」
「うん。騒がしい場所は苦手だもんねえ。たまにゲームセンター系へ行きたくなるけど。遊園地とか……」
「21歳の誕生日はどこに行きたい?海外でもいいぞ」
「ドイツのクリスマスマーケットには行ってみたい。ゆっくり時間が出来た時でいいからさ。地元に帰りたいな~。二人で海岸線をドライブしただろ?それか定番の温泉」
「いい宿を探しておく」
「それよりも黒崎さんの誕生日だよ~。今月は忙しいけど……、1月でもいいじゃん」
「普通の日を過ごしたい。そこから見える橋を散歩するか?レインボーブリッジ遊歩道だ」
「いいねー。話したことあったよね」

 温かみのある白い灯りが輝いている。イルミネーションが綺麗な橋だ。都内に越してきたばかりの時に、遊びに行きたいと話したことがあった。すっかり忘れていた。

「風の強い日は揺れるらしい。苦手だろう?」
「黒崎さんと一緒なら平気だよ~」

 これで決定だね。そう言いながら、黒崎の腕にすがりついた。新しいコートからは何も匂いがしていない。そのかわり黒崎の匂いがよく分かる。もっと近づきたくて、ぶら下がるようにして抱きついた。 

 公園内を歩き進んで行くと、水辺に沿った芝生が広がっていた。さすがに12月のこの時間は誰もいない。レインボーブリッジからの光が水面に反射しているから、もっと大きな橋のように見える。

「寒いだろう。そろそろ戻るか」
「もっと歩いてもいい?少しだけ……」
「そうか。向こうへ行こう」

 手を引かれてさらに歩き進むと、橋の真下からの風景が広がっていた。レインボーブリッジが頭の上にあった。対岸にはお台場が見えている。そして、橋の下を遊覧船が通っている。

「こっちへおいで」
「うん」
「今日は良かったな。その放送を観たい。2月だったか?」
「予定では初旬だそうだよ。IKUワイズへ決定日を伝えてくれるんだ」

 もっと話したいことがある。料理店にいる間も話したのに。いつものごとく、俺ばかりが話していた。黒崎は微笑みながら相づちを打ってくれた。もっと聞かせろ。そう言われると話さずにはいられなかった。

「マフラーを巻きこんでおけ」
「うん……」

 そっと近づいた顔同士が触れ合い、お互いの白い息が混ざり合った。ここでキスをすると止まらない。帰ってからだと笑われた。

「……クルクル回ってやろうか?」
「大人扱いするんだよね?」
「クルクルは別だ。たまにはガキに戻れ」
「矛盾してるよ……」

 そう言い返しつつも嬉しい。もちろん、ぎゅっとしがみついた。すると、体へと両腕が回されて抱きしめられた。そして、掠れた声が耳元で響いた。

「……え?」
「帰ったら大人扱いする。それが交換条件だ」
「この状態で言うなよ……」
「気が変わるぞ?10秒以内に答えろ」
「……え?」
「5秒経過」
「せっかちだよ~っ」
「タイムオーバーだ。行くぞ……」
「わあ……っ」

 いきなり両足が宙に浮いた。強めに回るかと思えば、優しい回転だった。まるでダンスを踊っているようだ。水面に反射する赤と青、暖かな白い光が視界へ入った。そうかと思えば真っ暗な公園に移り、IKUのコンサート会場の灯りが見えた。変わりゆく景色の中で、黒崎だけが常に目の前にいる。

 しがみつきながら、夜空に浮かぶ月を眺めた。こういうのもアリだな。そう思っていると両足が着地した。自分で立ち上がろうとすると、顎を持ち上げられた。熱い息が顔に掛かり、目を閉じる間もなく唇を塞がれた。そして、何度目かのキスの後、囁かれた。

「帰ろう……」
「うん……」
「分かっているか?」
「うん……」
「そう大差はない」
「あ……」

 一気に顔が熱くなった。こういう黒崎を見たのは初めてだからだ。それだけ惹きつけられて返事すら出来ない。

 さあ帰ろう。優しい囁き声にぼんやりしたままで頷き、そっと肩を抱かれて公園を後にした。
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