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4-1 黒崎の誕生日
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12月10日、水曜日。午前9時。
今日は黒崎の誕生日だ。黒崎が今日、仕事の休みを取った。のんびり食事をした後、レインボーブリッジ遊歩道に遊びに行く。こっちに引っ越してきた頃に話題に出ていたのに、あれやこれやで忘れていた。常に一緒にいるからだろう。黒崎が何気なく口にした一言が嬉しかった。
この庭には薄っすらと雪が残っている。さっきプラスチックごみを出してきた時は、門の外は乾いていたのに。そういうわけもあり、身体が温まることをやっている。黒崎と背中同士を合わせて腕を組んだ後、おんぶし合っている。
「うーーーーん」
「もう一回やってみろ」
「うーーーっ」
「降参か?それでもいいぞ」
「まだまだ……」
どうしてこんな遊びを始めたのか。畑の世話をしている時に、黒崎の身体で暖を取ろうとしたのがきっかけだ。追いかけても避けられてムキになった結果、こんなことで競っている。ゴールなど存在しない。意地と根性が試されている。意地悪そうに笑われているから悔しい。
「黒崎さん……っ」
「そろそろやめておけ」
「体脂肪率……何%だっけ?」
「忘れた」
「筋肉量……何%だよ……」
「どれぐらいだったか。スポーツクラブへ通っていないからな……」
「自宅筋トレだけで維持するなよ~」
「腕立て伏せぐらいだ。大したことはしてない」
「そうだけど~~。ふぬぬ……」
「もうやめておけ」
「だったら笑うのをやめろよー」
「はいはい……」
やっぱり笑っている。黒崎は36歳の誕生日を迎えたが、大きな子供に変わりない。クソガキ度が増している。朝から意地悪なことをされたり言われたりしている。
「あと3回背負ったら……、ご褒美がほしい……っ」
「何がいい」
「身柄を寄越せ……」
「渡しているぞ」
「うへへ。そうだったね。夏樹……、もっと……こうしてみろ……」
「おい……」
「ヒョーーーッ」
この間、イチャついた時のことを思い出してイジってやった。顔がニヤけて腕に力が入らない。すると、バランスを崩してヨロけてしまった。地面が近づいて目を閉じると、ふわっと軽くなった。
「おっと……」
「う……」
「はいはい。もう大丈夫だぞ」
耳元で低い声が聞こえた。身体を支えられていた。そのまま黒崎の膝の上に腰を乗せた。お互いの吐く白い息が絡み合って、ふっと消えたのは、キスをしたからだ。ほんの軽いものでも胸がキュンとした。ふいに見せられる優しさが厄介だ。
「無理をさせたか?」
「そんなことないよー。支えてくれたじゃん。さすがだね」
「あたりまえだろう。怪我はさせない」
「うへへ。そろそろ入ろうよ」
「行こうか。……朝露か?」
「どこだよ?……雪?」
「霜が降りていたからだろう」
立ち上がった後、ナツツバキの下へ促された。背の高いものあれば低い木もある。灰色がかった木の枝に注目すると、白っぽいグリーンの葉っぱに雫が乗っていた。ポツンと。
黒崎は視力がいいから気がついたのかな?根っから絵を描くのが好きだからだろう。ちょこんと葉っぱに乗った水滴がいくつも見える。透明なはずなのに白く見えるのは、葉っぱの色が透けているからだ。差し込んできた太陽の光に反射して、いろんな色を出し始めた。
「小っちゃな虹がかかってるよ~。こことかここ……」
「ちゃんとカラーが分かれるもんだな」
「うん。三色はあるね。青とピンク?黄色っぽいね」
黒崎は絵を描く人としての視点で見ている。俺はどうだろう?景色をインスパイアして歌詞を書きたい。その視点だろう。
「ヴィジブルレイだな。可視光線のようだ。いや、プリズムか」
「この白い雫はプリズムだね。ディアドロップの名前も、こういう時に名前が浮かんだそうだよね~」
「覚えやすい。アルファベットのほうが印象に残るだろうが……」
「そうだよねー。俺も同じ事を考えてた。早瀬さんが最初、アルファベットで考えたんだってさ。でもさ。2人が別れた後だったから、さすがにそのままは引っかかるから、佐久弥がカタカナにしたって聞いたよ」
「裕理とバンドを組めばいい。今ならOKだろう。黒崎製菓もOKだ」
「そうだよねえ。仲が良いもんね」
(そうだ。このタイミングで話そうっと……)
「さっき佐久弥からラインが入ったよ。来年の活動が終わった後、”Dear Drops” で一緒にやらないか?って。早瀬さんからは使用がOKされたよ。……解散したディアドロップと同じような名前じゃん?……でも、IKU側はOK。まだ返事は出来てないけど。いつかDear Dropsでやりたいって思っていたんだってさ」
「来月から話し合うだろう?」
「うん……」
レコード会社や事務所を辞める時に芸名が使えないことがある。所属契約の条項に入っているからだ。知らないでは済ませられない条件が並んでいる。そういう中でデビューを急ぎ過ぎた結果、トラブルになるケースが多いという。しかし、どちらのバンド名でも使用可能になっている佐久弥は、プロになる前から冷静に考えていたということだ。
今日は黒崎の誕生日だ。黒崎が今日、仕事の休みを取った。のんびり食事をした後、レインボーブリッジ遊歩道に遊びに行く。こっちに引っ越してきた頃に話題に出ていたのに、あれやこれやで忘れていた。常に一緒にいるからだろう。黒崎が何気なく口にした一言が嬉しかった。
この庭には薄っすらと雪が残っている。さっきプラスチックごみを出してきた時は、門の外は乾いていたのに。そういうわけもあり、身体が温まることをやっている。黒崎と背中同士を合わせて腕を組んだ後、おんぶし合っている。
「うーーーーん」
「もう一回やってみろ」
「うーーーっ」
「降参か?それでもいいぞ」
「まだまだ……」
どうしてこんな遊びを始めたのか。畑の世話をしている時に、黒崎の身体で暖を取ろうとしたのがきっかけだ。追いかけても避けられてムキになった結果、こんなことで競っている。ゴールなど存在しない。意地と根性が試されている。意地悪そうに笑われているから悔しい。
「黒崎さん……っ」
「そろそろやめておけ」
「体脂肪率……何%だっけ?」
「忘れた」
「筋肉量……何%だよ……」
「どれぐらいだったか。スポーツクラブへ通っていないからな……」
「自宅筋トレだけで維持するなよ~」
「腕立て伏せぐらいだ。大したことはしてない」
「そうだけど~~。ふぬぬ……」
「もうやめておけ」
「だったら笑うのをやめろよー」
「はいはい……」
やっぱり笑っている。黒崎は36歳の誕生日を迎えたが、大きな子供に変わりない。クソガキ度が増している。朝から意地悪なことをされたり言われたりしている。
「あと3回背負ったら……、ご褒美がほしい……っ」
「何がいい」
「身柄を寄越せ……」
「渡しているぞ」
「うへへ。そうだったね。夏樹……、もっと……こうしてみろ……」
「おい……」
「ヒョーーーッ」
この間、イチャついた時のことを思い出してイジってやった。顔がニヤけて腕に力が入らない。すると、バランスを崩してヨロけてしまった。地面が近づいて目を閉じると、ふわっと軽くなった。
「おっと……」
「う……」
「はいはい。もう大丈夫だぞ」
耳元で低い声が聞こえた。身体を支えられていた。そのまま黒崎の膝の上に腰を乗せた。お互いの吐く白い息が絡み合って、ふっと消えたのは、キスをしたからだ。ほんの軽いものでも胸がキュンとした。ふいに見せられる優しさが厄介だ。
「無理をさせたか?」
「そんなことないよー。支えてくれたじゃん。さすがだね」
「あたりまえだろう。怪我はさせない」
「うへへ。そろそろ入ろうよ」
「行こうか。……朝露か?」
「どこだよ?……雪?」
「霜が降りていたからだろう」
立ち上がった後、ナツツバキの下へ促された。背の高いものあれば低い木もある。灰色がかった木の枝に注目すると、白っぽいグリーンの葉っぱに雫が乗っていた。ポツンと。
黒崎は視力がいいから気がついたのかな?根っから絵を描くのが好きだからだろう。ちょこんと葉っぱに乗った水滴がいくつも見える。透明なはずなのに白く見えるのは、葉っぱの色が透けているからだ。差し込んできた太陽の光に反射して、いろんな色を出し始めた。
「小っちゃな虹がかかってるよ~。こことかここ……」
「ちゃんとカラーが分かれるもんだな」
「うん。三色はあるね。青とピンク?黄色っぽいね」
黒崎は絵を描く人としての視点で見ている。俺はどうだろう?景色をインスパイアして歌詞を書きたい。その視点だろう。
「ヴィジブルレイだな。可視光線のようだ。いや、プリズムか」
「この白い雫はプリズムだね。ディアドロップの名前も、こういう時に名前が浮かんだそうだよね~」
「覚えやすい。アルファベットのほうが印象に残るだろうが……」
「そうだよねー。俺も同じ事を考えてた。早瀬さんが最初、アルファベットで考えたんだってさ。でもさ。2人が別れた後だったから、さすがにそのままは引っかかるから、佐久弥がカタカナにしたって聞いたよ」
「裕理とバンドを組めばいい。今ならOKだろう。黒崎製菓もOKだ」
「そうだよねえ。仲が良いもんね」
(そうだ。このタイミングで話そうっと……)
「さっき佐久弥からラインが入ったよ。来年の活動が終わった後、”Dear Drops” で一緒にやらないか?って。早瀬さんからは使用がOKされたよ。……解散したディアドロップと同じような名前じゃん?……でも、IKU側はOK。まだ返事は出来てないけど。いつかDear Dropsでやりたいって思っていたんだってさ」
「来月から話し合うだろう?」
「うん……」
レコード会社や事務所を辞める時に芸名が使えないことがある。所属契約の条項に入っているからだ。知らないでは済ませられない条件が並んでいる。そういう中でデビューを急ぎ過ぎた結果、トラブルになるケースが多いという。しかし、どちらのバンド名でも使用可能になっている佐久弥は、プロになる前から冷静に考えていたということだ。
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