白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 枕をベッドに置いた後、窓から空を眺めた。もっとよく見たくて立ち上ろうとすると、抱きかかえられるようにして窓辺に立った。東の空には赤い雲が見えている。それがだんだんと広がっていき、世界が一変した。

「夜明けがきたぞ。白くなり始めた」
「うん。よいしょっと。ありがたや……」
「拝んでいるのか?」
「そうだよー。生まれてよかったって。黒崎さんに会えなかったら、こうして笑うこともなかったかも。寂しい時もあったけど……。夢の中ではね、黒崎さんは笑っているんだよ。いつもそうだよ。それは覚えているんだ」
「そうか……」

 本当に短い相づちが黒崎らしい。口数は少ないものの、大事なことは伝えてくれる人だ。だったら自分も伝えよう。黒崎にはやりたい事をしてもらいたい。沢山の我慢をして来たからだ。

「黒崎さん。長谷部さんから聞いたんだけど。高校生の時に出たコンクールで有名になったって。世界のシーンで活躍できるピアニストになれるって、期待されていたんだよね?」
「そんなこともあった。あれはまぐれだ」
「そんなことないくせに。俺から伝えたいことがあるんだ。49歳まで待たなくても、今すぐに辞めてもいいんだよ。周りの人とか状況が許さなくても。家族の一員として……パートナーとしてはOK。今まで頑張ってきたんだ。バチは当たらない。お義父さんが妨害してきてもいいよ。受けて立ってやる」
「夏樹……」
「それぐらいの気持ちだってこと。あんたには笑っていてほしい。ただ……日本には居てよ。まだ国外には行けないんだ。先生に師事するなら都内にしてねー?お義父さんが寂しがるし、体のこともあるし」
「さっきは受けて立ってやると発言しただろう。どっちだ?」
「どっちもだよ~。有名になれとは言わない。ゴールは決めないでよ。一日中ピアノ三昧でもいい。やりたい事をやってください!」
「そうか……」

 答えを待っていると、微笑みが返って来た。ありがとうという意味だ。まだやめられないということだ。乗組員を放っておける人ではない。安全な航海をさせて岸にたどり着いたとき、やっと地上に上がれるのか。

「ガシーーッ」
「どうした?」
「すがりつきの刑だよ。つきまとってやる~」
「どこへでも連れていく」
「うん……」

 黒崎の胸に頬を押し当てると、お返しだと言わんばかりに、イヤらしく腰を撫でられ始めた。さっきのベッドでの黒崎とは雲泥の差だ。

「スケベじじい。調子に乗るなよー」
「さっきまで触っていただろう。今更だ」
「あんたのその触り方がイヤラしいからだよー」
「爽やかなエロは存在しない。俺の中では」
「……」

 呆れて物が言えない。バカバカしくなりベッドに戻った。今日は土曜日だからゆっくり出来る。アンのご飯を用意してこよう。そう言って、もう一度立ち上ろうとした体を押しとどめられた。

「やっておくから寝ていろ。昼まで」
「一緒にいたいもん。抱きついてやる~~」

 わがまま言い放題にしろと言われている。だったら、そうする。黒崎の後ろから抱きついた。そして、歩きづらいと文句を言われても離れてやらずに、一緒に寝室のドアを開いた。
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