白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 13時半。

 悠人が我が家に到着した。早瀬さんは仕事が終わってから来てくれる。久しぶりに一人でここまで来て迷わないか心配したけれど、大丈夫だったそうだ。さっき佳代子さんがリクを連れて来てくれた。アンとリクが庭の中を走り回っている。それを眺めながら、この奥に立っているお義父さんの家へ向かっている。今日は昼過ぎに帰ると連絡があった。隣を歩く悠人がため息をついた。

「もっと良いものを用意すればよかったなー。クリスマスだし」
「そんなことないよ。悠人から貰ったら嬉しいって。アン、おいでー」

 アンのことを抱き上げた。後ろを歩いているのは佳代子さんだ。リクのことを連れ戻している。それぞれの手には、クリスマスプレゼントがある。あらかじめ知らせると受け取らないからと思って、お義父さんには内緒にしている。

「お義父さんが帰って来ているよ~」
「ふむふむ。あの窓が開いていたら帰っているのか」

 家の正面にある大きな窓はリビングのものだ。ちょうど花壇とナツツバキが見える。お義父さんが好きな景色だ。すると、悠人が言った。

「お父さんもナツツバキが好きなのー?」
「うん。昔からのお気に入りなんだ。おーい、来たよー」

 窓からリビングを覗き込むと、ソファーへ腰かけたお義父さんが手を振っていた。眉間には深い皺が刻まれている。悠人が初めて会った時には怖いイメージだったそうだけれど、すぐに優しい人だと分かったそうだ。笑うと目尻に笑い皺ができるからだという。お義父さんが悠人を見て、目尻を下げて笑っている。孫を見ている感覚かも知れないと、黒崎が言っていた。

 さっそく玄関からリビングへ入った。山崎さんが、お茶を用意してくれた。悠人がお土産のトートバッグを渡すと、お義父さんが喜んで笑いながら広げていた。渋めの柄を選んだと話すと、たしかにそうだねと笑ってくれた。

「レインボーブリッジ遊歩道か。まだ行ったことがないよ。いや、車で通ったことがあったかも知れない。イベントに招待された。何年前だったか。大勢が呼ばれていた」
「ふむふむ。いつかな?なつきー、その近くで、一昨年ぐらいにあったよね?」
「それは近くの会場だよ。IKU関連の施設のやつだったと思う」
「そっちかー。お父さんが覚えているなら、よっぽど大きなイベントですよね」

 お義父さんは色んな場所に呼ばれているのだろう。その中でも印象深いようだ。どんなイベントだったのか想像していると、佳代子さんがクスクス笑い出した。気持ちが分かりますと言いながら。

「もしかして、開通記念じゃありませんか?30年ぐらい前ですよ」
「ああそうだった。新しい観光地になる。黒崎製菓でも記念の菓子を用意した」
「ヒャーーッ、何年か前ってレベルじゃないのに~。げほっ、ごほっ」
「30年前が何年か前に感じるのよーー」

 思わず吹き出して、お茶をむせ込んだ。悠人が俺の背中を叩きながら、ティッシュケースを差し出してくれた。悠人は自分で落ち着きが無いというが、そんなことは無いと思った。しっかりしているからだ。

「なつきー、そういうものらしいよ?おばあちゃんが言っていたもん。つい最近が10年前だって」
「そうだけどさ~。黒崎さんも似たようなことを話していたし……」
「もうーーっ」
「怖いなあ~~」

 大笑いが落ち着いた後、佳代子さんがリクを連れて帰って行った。お義父さんの膝には佳代子さんからのクリスマスプレゼントがある。それを持って、キッチンへ行った。焼き菓子と洋酒が、遠藤さんと佳代子さんからのプレゼントだ。レインボーブリッジのトートバッグを、お父さんが嬉しそうに眺めている。使ってもらえそうだ。

「悠人君、気に入ったよ。仕事で使うことがある。書類を入れるのにちょうどいい」
「ありがとうございます。他にも店があるから、楽しいと思います。デートはしないんですか?誰かと……」
「恋人がいない。寂しいよ」
「へへへ……」

 悠人とお義父さんが話しているうちに、お義父さんから次から次へと質問がされた。それに悠人が答えている。質問と答えの繰り返し会話だ。お父さんの得意技だ。聞き上手だから、どんどん話が引き出される。悠人にそれを言うと、たしかにその通りだ。否定されないから、安心して話ができると言ってくれた。

「隆さんの得意技だもん。面白いだろ?」
「うん。そういえばね、裕理さんも同じことを言ってたよ。小さい頃に、知り合いのおじさんが遊びに来て、次々に質問されてたって。それに答えていると、面白くなるんだって。その人が来たら楽しいから、待っていたかもしれないって。4歳ぐらいだから、あんまり覚えていないみたいだけど……」
「へええ。早瀬さんが?それがあるから、話し好きになったのかな?」
「ふむふむ。そうかもしれない。余計なことも言うけどねー」
「三つ子の魂百までっていうやつ?隆さん、どう思う?」
「どうだろうね。今の彼は賑やかだ。会社でも」
「そうなんですねー。オフィスでは真面目かと思っていました」
「真面目な人だろ~?」
「家じゃそうでもないよ……」

 早瀬さんは物静かだと思えば、賑やかな人だった。外見からは予想外だった。悠人が言うには、家の中ではもっと賑やかだそうだ。お義父さんの方を向くと、俺たちと同じように笑っていた。悠人が今夜一緒に食事をと誘ったが、やっぱり遠慮された。やれやれと思って笑うと、お義父さんも笑っていた。

 我が家に戻った直後、佐久弥から連絡が入った。家の前に着いたそうだ。蔵之介さんも一緒にいるというから、悠人が安心していた。佐久弥だけだと苛めてくるからだというから笑ってしまった。
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