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隣の会館へ向かっている道中だ。周りに人がいないから、黒崎に聞いてみようと思った。
「一貴さんのお母さんが喧嘩を吹っかけた相手って、瑛子さんだよね?」
「そのとおりだ。瑛子さんが出席することを知って、向こうも出てきた。本妻以外は出ないのは暗黙のルールだったが、拒む理由はない。……争いのネタは、会食での席順だった」
「ええ?そんなことで?お坊さんが一番上座だろ?後は親族が適当に……。お坊さんが会食に出ないなら施主が下座で……。予定変更したの?」
「坊さんは会食に出る。予定変更なしだ」
「急な席順変更ナシじゃん……」
「それにこだわるのが黒崎家だ。ようこそ」
黒崎が肩を揺らして笑っている。ちっとも笑える内容ではないのに。それを目の前にして緊張感がほぐれてきた。たしかに笑うしかないのか。
「笑えないだろ~?」
「俺は見慣れている。ああいう争いを見ないと、一年が始まった気がしない。去年の法事が静かすぎて、気味が悪いほどだった」
「あれが本来の姿だろ?亡くなった人に読経するのに」
「あちこちで小競り合いが起きていたぞ」
去年の法事は今日と比べると静かだった。黒崎が会場内に目を光らせていたからだ。俺が初めて出席したことが理由だ。今年はお義父さんのサポート役で目立たないし、仲裁にも入らないと知っているからこその言い争いなのだそうだ。なんてあからさまなのか。
「あんたが仲裁に入らないって分かっているから、喧嘩していたわけ?」
「久しぶりに会ったから話しているだけだ。仲が良くて羨ましい。俺には声が掛けられない」
「あんたの子供時代が想像できたよ」
「ようこそ、殺伐とした黒崎家へ」
「お招きいただき、ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒崎はタフな人だと知っているものの、最初からそうではないはずだと思った。だんだん割り切れるようになったのだと思う。拓海さんが亡くなった後の黒崎家では寂しかっただろう。晴海さんから教えてもらった話からも想像できる。
(冷たくもなるよ。それでも優しさは失くさなかったのか……。これからは晴海さんも、一貴さんも、俺もいるからね。お義父さんも……)
ここは外だし法事という場だ。いつものようにキスも出来ないし、クルクル回ってもらえない。ここでは強く手を握ることにした。
「黒崎さん。寒いだろー?コートを返すよ」
「俺は平気だ。すぐそこだ」
「だったら俺もいいよ」
「手が冷たくなっているぞ。着ておけ」
「黒崎さん……」
何気ない仕草なのに照れくさい。繋いだ手を口元へ持って行き、息を吹きかけてくれた。家の中なら普通のことでも、外ではありえない。いや、最近はそうでもないか?
「黒崎さーん。けっこう吹っ切れた?」
「何がだ?」
「素っ気ないのをやめた?外では……っていうの」
「やめていない。独占欲を出しているだけだ」
「一緒じゃん。もっとやってよ~。ひゃひゃひゃ」
「いいぞ。こっち向け……」
「あ……、黒崎さん……」
マジでキスをされそうだ。俺の方が恥ずかしくて、慌てて後ずさりをした。あっけなく捕まった後、思いきり頬をつねられた。愛情あふれるキスを受け取ると思ったのに。
「本気にするな」
「え?……いひゃいいい!やめひぇええ」
「うるさい。さっさと来い」
「なんだよ~っ」
前言撤回だ。面白くない気分になっていると、伸びてきた腕に肩を抱かれた。耳元で囁された言葉に、気分が上昇した。ありがとう。このシンプルな言葉が嬉しかった。
「一貴さんのお母さんが喧嘩を吹っかけた相手って、瑛子さんだよね?」
「そのとおりだ。瑛子さんが出席することを知って、向こうも出てきた。本妻以外は出ないのは暗黙のルールだったが、拒む理由はない。……争いのネタは、会食での席順だった」
「ええ?そんなことで?お坊さんが一番上座だろ?後は親族が適当に……。お坊さんが会食に出ないなら施主が下座で……。予定変更したの?」
「坊さんは会食に出る。予定変更なしだ」
「急な席順変更ナシじゃん……」
「それにこだわるのが黒崎家だ。ようこそ」
黒崎が肩を揺らして笑っている。ちっとも笑える内容ではないのに。それを目の前にして緊張感がほぐれてきた。たしかに笑うしかないのか。
「笑えないだろ~?」
「俺は見慣れている。ああいう争いを見ないと、一年が始まった気がしない。去年の法事が静かすぎて、気味が悪いほどだった」
「あれが本来の姿だろ?亡くなった人に読経するのに」
「あちこちで小競り合いが起きていたぞ」
去年の法事は今日と比べると静かだった。黒崎が会場内に目を光らせていたからだ。俺が初めて出席したことが理由だ。今年はお義父さんのサポート役で目立たないし、仲裁にも入らないと知っているからこその言い争いなのだそうだ。なんてあからさまなのか。
「あんたが仲裁に入らないって分かっているから、喧嘩していたわけ?」
「久しぶりに会ったから話しているだけだ。仲が良くて羨ましい。俺には声が掛けられない」
「あんたの子供時代が想像できたよ」
「ようこそ、殺伐とした黒崎家へ」
「お招きいただき、ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒崎はタフな人だと知っているものの、最初からそうではないはずだと思った。だんだん割り切れるようになったのだと思う。拓海さんが亡くなった後の黒崎家では寂しかっただろう。晴海さんから教えてもらった話からも想像できる。
(冷たくもなるよ。それでも優しさは失くさなかったのか……。これからは晴海さんも、一貴さんも、俺もいるからね。お義父さんも……)
ここは外だし法事という場だ。いつものようにキスも出来ないし、クルクル回ってもらえない。ここでは強く手を握ることにした。
「黒崎さん。寒いだろー?コートを返すよ」
「俺は平気だ。すぐそこだ」
「だったら俺もいいよ」
「手が冷たくなっているぞ。着ておけ」
「黒崎さん……」
何気ない仕草なのに照れくさい。繋いだ手を口元へ持って行き、息を吹きかけてくれた。家の中なら普通のことでも、外ではありえない。いや、最近はそうでもないか?
「黒崎さーん。けっこう吹っ切れた?」
「何がだ?」
「素っ気ないのをやめた?外では……っていうの」
「やめていない。独占欲を出しているだけだ」
「一緒じゃん。もっとやってよ~。ひゃひゃひゃ」
「いいぞ。こっち向け……」
「あ……、黒崎さん……」
マジでキスをされそうだ。俺の方が恥ずかしくて、慌てて後ずさりをした。あっけなく捕まった後、思いきり頬をつねられた。愛情あふれるキスを受け取ると思ったのに。
「本気にするな」
「え?……いひゃいいい!やめひぇええ」
「うるさい。さっさと来い」
「なんだよ~っ」
前言撤回だ。面白くない気分になっていると、伸びてきた腕に肩を抱かれた。耳元で囁された言葉に、気分が上昇した。ありがとう。このシンプルな言葉が嬉しかった。
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