白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 黒崎のことを心配してのことだ。色仕掛けか?そこまで疑ったそうだ。もちろん黒崎とお義父さんが怒りまくっていた。

(あの後、めっちゃ謝られてさ~。スイーツや絵本も買ってくれたし。末っ子の特権ってやつだ。中間子の憧れの……)

「夏樹君。新しいブランドを国内で展開予定だ。試着をしてみないか?」
「俺は服のことは分からないよー」
「はははは。はっきり返事をするところがいい。本当に媚びない子だなあ。実家では末っ子じゃないだろう?」
「真ん中の子だよ。一歳下の妹がいるんだ。これでもお兄ちゃんだよ」
「中間子はズケズケ言わないイメージだった。俺は一人だからか……」

 実家で暮らしているときは、妹の万理のことが羨ましいと思った。一歳しか違わないのに、待遇の差があったからだ。黒崎家では末っ子の役割を経験できた。そこで分かったことがある。

(けっこう気を遣うんだよねえ。世話を焼いてくれる人の顔を立てないといけないし……)

 自分がやった方が早くても、あえてやってもらうこと。素直に甘えること。たまには欲しいものをリクエストすることだ。そうしないと、相手は必要とされていない気がする。これは兄としての経験から分かっていることだ。

「黒崎さんって、周りの人に甘えたことはあるのかな?」
「拓海さん相手ぐらいだろう。……ああ、圭一。飲み物をオーダー出来るぞ。何がいい?」

 さっと話題が変えられた。メニューを手に取り、そばを通りかかった黒崎へ声をかけている。さらに晴海さんにも。話をやめた方が良いということなのだろう。

 会食の時間が近づき、ホールで立ち話をしていた人たちが、流れるように部屋に入って来た。黒崎の周りに集まっては、声をかけて着席していく。まるで一つの流れのようだ。

 一貴さんと黒崎の間に座っているから、自然と俺にも声がかけられた。自分から掛けるべきだろう。人の流れが落ち着いた後、黒崎に声をかけた。俺の方からも挨拶したいと。しかし、即座に ”NO” という反応が返って来た。

「話しかけられても答えるな。俺が答える。……お久しぶりです。……夏樹。初めて紹介する、6番目の兄だ。山岸聖河やまぎしせいがさんという方だ」
「はじめまして!」
「……音楽活動を拝見したよ」
「ありがとうございます」

 初めて会うお兄さんだと思ったら、そんなことはなかった。どこかで見たことがあると思い、どこだったか思い出していると、聖加世病院で会ったお医者さんだと思い出した。俺も診てもらったし、悠人の腱鞘炎の手当もしてくれた先生だ。その時のお礼を言ってもいいか黒崎に聞くと、OKの返事が出た。さっそくお礼を言うと、微笑みが返ってきた。

「調子はどう?」
「すっかり良くなりました」
「良かった」

 短い会話の後、山岸さんが席に着いた。山岸さんはお義父さんの実子ではなく、養子にと望まれていた人だと黒崎から教えてもらっている。お母さんはお義父さんの元恋人で、実家からは2人の仲を反対されていたことも聞いた。今は山岸さんは大人になって、養子にはならない方向で返事をしたけれど、法事には子供の頃から出ているから、今でも出席してくれているそうだ。

(黒崎さんの味方になってくれそうだな……)

 出席者の数が多いから、誰が誰なのか覚えきれない。初めましての相手ではないケースもあるだろう。さらに続々と声をかけられていった。会食が終わればすぐに帰るから、なるべく顔を覚えておこう。笑顔を絶やさずに相槌を打ち、質問の答えは黒崎に任せた。

 ひと通りの流れが落ちついた後、施主のお義父さんから声が掛けられた。料理が運び込まれて、会食の時間が始まった。ここまでは不安に感じることがなかった。想像よりも和やかな雰囲気で過ごすことができた。一貴さん達の会話が面白かったおかげだ。笑いたいのを我慢しているうちに、食事が終わっていた。

 これから会食の終了の挨拶が始まる。お義父さんが身じろぐ仕草をすると、ザワザワしていた室内が、シンと静かになった。何も言っていないのに。気が張り詰めているのか?それとも昔からの習慣なのか。

 一貴さんから聞いた話がある。年に数回集まりに参加しては、大勢の前でカチコチになった記憶があると言っていた。母親から何かを言い聞かされている兄弟がいたことも。

 お義父さんが全体を見渡した後、全員がその方向を向いた。こっちまで緊張した。

(お義父さんが座ったままだ。立って挨拶しないもんね。これが黒崎家だ……)

 黒崎姓を名乗っている息子は、拓海さんを入れて4人だ。そのうちの一人に、実の子でもないのに自分が入ったということだ。

(いろんな目を向けられても不思議じゃない。今日は去年よりもマシだ……。俺もみんなも慣れてきたのかな?)

 出席のお礼と、これまでと同じく、年に一度の法事を行うことが告げられた。軽く頷く気配まで感じる。それだけの緊張感だ。そして、黒崎の方に、お義父さんの手が差し向けられた。今後は彼が施主になるという意思表示だ。
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