74 / 265
8-8
しおりを挟む
黒崎のことを心配してのことだ。色仕掛けか?そこまで疑ったそうだ。もちろん黒崎とお義父さんが怒りまくっていた。
(あの後、めっちゃ謝られてさ~。スイーツや絵本も買ってくれたし。末っ子の特権ってやつだ。中間子の憧れの……)
「夏樹君。新しいブランドを国内で展開予定だ。試着をしてみないか?」
「俺は服のことは分からないよー」
「はははは。はっきり返事をするところがいい。本当に媚びない子だなあ。実家では末っ子じゃないだろう?」
「真ん中の子だよ。一歳下の妹がいるんだ。これでもお兄ちゃんだよ」
「中間子はズケズケ言わないイメージだった。俺は一人だからか……」
実家で暮らしているときは、妹の万理のことが羨ましいと思った。一歳しか違わないのに、待遇の差があったからだ。黒崎家では末っ子の役割を経験できた。そこで分かったことがある。
(けっこう気を遣うんだよねえ。世話を焼いてくれる人の顔を立てないといけないし……)
自分がやった方が早くても、あえてやってもらうこと。素直に甘えること。たまには欲しいものをリクエストすることだ。そうしないと、相手は必要とされていない気がする。これは兄としての経験から分かっていることだ。
「黒崎さんって、周りの人に甘えたことはあるのかな?」
「拓海さん相手ぐらいだろう。……ああ、圭一。飲み物をオーダー出来るぞ。何がいい?」
さっと話題が変えられた。メニューを手に取り、そばを通りかかった黒崎へ声をかけている。さらに晴海さんにも。話をやめた方が良いということなのだろう。
会食の時間が近づき、ホールで立ち話をしていた人たちが、流れるように部屋に入って来た。黒崎の周りに集まっては、声をかけて着席していく。まるで一つの流れのようだ。
一貴さんと黒崎の間に座っているから、自然と俺にも声がかけられた。自分から掛けるべきだろう。人の流れが落ち着いた後、黒崎に声をかけた。俺の方からも挨拶したいと。しかし、即座に ”NO” という反応が返って来た。
「話しかけられても答えるな。俺が答える。……お久しぶりです。……夏樹。初めて紹介する、6番目の兄だ。山岸聖河さんという方だ」
「はじめまして!」
「……音楽活動を拝見したよ」
「ありがとうございます」
初めて会うお兄さんだと思ったら、そんなことはなかった。どこかで見たことがあると思い、どこだったか思い出していると、聖加世病院で会ったお医者さんだと思い出した。俺も診てもらったし、悠人の腱鞘炎の手当もしてくれた先生だ。その時のお礼を言ってもいいか黒崎に聞くと、OKの返事が出た。さっそくお礼を言うと、微笑みが返ってきた。
「調子はどう?」
「すっかり良くなりました」
「良かった」
短い会話の後、山岸さんが席に着いた。山岸さんはお義父さんの実子ではなく、養子にと望まれていた人だと黒崎から教えてもらっている。お母さんはお義父さんの元恋人で、実家からは2人の仲を反対されていたことも聞いた。今は山岸さんは大人になって、養子にはならない方向で返事をしたけれど、法事には子供の頃から出ているから、今でも出席してくれているそうだ。
(黒崎さんの味方になってくれそうだな……)
出席者の数が多いから、誰が誰なのか覚えきれない。初めましての相手ではないケースもあるだろう。さらに続々と声をかけられていった。会食が終わればすぐに帰るから、なるべく顔を覚えておこう。笑顔を絶やさずに相槌を打ち、質問の答えは黒崎に任せた。
ひと通りの流れが落ちついた後、施主のお義父さんから声が掛けられた。料理が運び込まれて、会食の時間が始まった。ここまでは不安に感じることがなかった。想像よりも和やかな雰囲気で過ごすことができた。一貴さん達の会話が面白かったおかげだ。笑いたいのを我慢しているうちに、食事が終わっていた。
これから会食の終了の挨拶が始まる。お義父さんが身じろぐ仕草をすると、ザワザワしていた室内が、シンと静かになった。何も言っていないのに。気が張り詰めているのか?それとも昔からの習慣なのか。
一貴さんから聞いた話がある。年に数回集まりに参加しては、大勢の前でカチコチになった記憶があると言っていた。母親から何かを言い聞かされている兄弟がいたことも。
お義父さんが全体を見渡した後、全員がその方向を向いた。こっちまで緊張した。
(お義父さんが座ったままだ。立って挨拶しないもんね。これが黒崎家だ……)
黒崎姓を名乗っている息子は、拓海さんを入れて4人だ。そのうちの一人に、実の子でもないのに自分が入ったということだ。
(いろんな目を向けられても不思議じゃない。今日は去年よりもマシだ……。俺もみんなも慣れてきたのかな?)
出席のお礼と、これまでと同じく、年に一度の法事を行うことが告げられた。軽く頷く気配まで感じる。それだけの緊張感だ。そして、黒崎の方に、お義父さんの手が差し向けられた。今後は彼が施主になるという意思表示だ。
(あの後、めっちゃ謝られてさ~。スイーツや絵本も買ってくれたし。末っ子の特権ってやつだ。中間子の憧れの……)
「夏樹君。新しいブランドを国内で展開予定だ。試着をしてみないか?」
「俺は服のことは分からないよー」
「はははは。はっきり返事をするところがいい。本当に媚びない子だなあ。実家では末っ子じゃないだろう?」
「真ん中の子だよ。一歳下の妹がいるんだ。これでもお兄ちゃんだよ」
「中間子はズケズケ言わないイメージだった。俺は一人だからか……」
実家で暮らしているときは、妹の万理のことが羨ましいと思った。一歳しか違わないのに、待遇の差があったからだ。黒崎家では末っ子の役割を経験できた。そこで分かったことがある。
(けっこう気を遣うんだよねえ。世話を焼いてくれる人の顔を立てないといけないし……)
自分がやった方が早くても、あえてやってもらうこと。素直に甘えること。たまには欲しいものをリクエストすることだ。そうしないと、相手は必要とされていない気がする。これは兄としての経験から分かっていることだ。
「黒崎さんって、周りの人に甘えたことはあるのかな?」
「拓海さん相手ぐらいだろう。……ああ、圭一。飲み物をオーダー出来るぞ。何がいい?」
さっと話題が変えられた。メニューを手に取り、そばを通りかかった黒崎へ声をかけている。さらに晴海さんにも。話をやめた方が良いということなのだろう。
会食の時間が近づき、ホールで立ち話をしていた人たちが、流れるように部屋に入って来た。黒崎の周りに集まっては、声をかけて着席していく。まるで一つの流れのようだ。
一貴さんと黒崎の間に座っているから、自然と俺にも声がかけられた。自分から掛けるべきだろう。人の流れが落ち着いた後、黒崎に声をかけた。俺の方からも挨拶したいと。しかし、即座に ”NO” という反応が返って来た。
「話しかけられても答えるな。俺が答える。……お久しぶりです。……夏樹。初めて紹介する、6番目の兄だ。山岸聖河さんという方だ」
「はじめまして!」
「……音楽活動を拝見したよ」
「ありがとうございます」
初めて会うお兄さんだと思ったら、そんなことはなかった。どこかで見たことがあると思い、どこだったか思い出していると、聖加世病院で会ったお医者さんだと思い出した。俺も診てもらったし、悠人の腱鞘炎の手当もしてくれた先生だ。その時のお礼を言ってもいいか黒崎に聞くと、OKの返事が出た。さっそくお礼を言うと、微笑みが返ってきた。
「調子はどう?」
「すっかり良くなりました」
「良かった」
短い会話の後、山岸さんが席に着いた。山岸さんはお義父さんの実子ではなく、養子にと望まれていた人だと黒崎から教えてもらっている。お母さんはお義父さんの元恋人で、実家からは2人の仲を反対されていたことも聞いた。今は山岸さんは大人になって、養子にはならない方向で返事をしたけれど、法事には子供の頃から出ているから、今でも出席してくれているそうだ。
(黒崎さんの味方になってくれそうだな……)
出席者の数が多いから、誰が誰なのか覚えきれない。初めましての相手ではないケースもあるだろう。さらに続々と声をかけられていった。会食が終わればすぐに帰るから、なるべく顔を覚えておこう。笑顔を絶やさずに相槌を打ち、質問の答えは黒崎に任せた。
ひと通りの流れが落ちついた後、施主のお義父さんから声が掛けられた。料理が運び込まれて、会食の時間が始まった。ここまでは不安に感じることがなかった。想像よりも和やかな雰囲気で過ごすことができた。一貴さん達の会話が面白かったおかげだ。笑いたいのを我慢しているうちに、食事が終わっていた。
これから会食の終了の挨拶が始まる。お義父さんが身じろぐ仕草をすると、ザワザワしていた室内が、シンと静かになった。何も言っていないのに。気が張り詰めているのか?それとも昔からの習慣なのか。
一貴さんから聞いた話がある。年に数回集まりに参加しては、大勢の前でカチコチになった記憶があると言っていた。母親から何かを言い聞かされている兄弟がいたことも。
お義父さんが全体を見渡した後、全員がその方向を向いた。こっちまで緊張した。
(お義父さんが座ったままだ。立って挨拶しないもんね。これが黒崎家だ……)
黒崎姓を名乗っている息子は、拓海さんを入れて4人だ。そのうちの一人に、実の子でもないのに自分が入ったということだ。
(いろんな目を向けられても不思議じゃない。今日は去年よりもマシだ……。俺もみんなも慣れてきたのかな?)
出席のお礼と、これまでと同じく、年に一度の法事を行うことが告げられた。軽く頷く気配まで感じる。それだけの緊張感だ。そして、黒崎の方に、お義父さんの手が差し向けられた。今後は彼が施主になるという意思表示だ。
0
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる