白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 ……この表に注目するように。
 ……小テストを回収します。

 今日の2時限目の授業は、大型スクリーン付きの教室にて行われている。食に関する生命科学の授業だ。前方の大きなスクリーンには、”和食の美味しさをひも解いてみた”、というタイトルが出ている。

 今回で7回目で、ラストの講義だ。講義が終わる前に小テストを受けて、成績評価が行われる。一発勝負の定期試験よりもいい。学生たちに人気の授業だ。

 テストが回収された後、授業終了のチャイムが鳴った。学生達の騒めぎが立つなか、隣に座っている悠人が、ペットボトルの紅茶を一気飲みしている。風邪を引いたようで、喉が痛むそうだ。

「ゆうとー、大丈夫?もう帰った方がいいよ?」
「うん。お昼ご飯の後、裕理さんが迎えに来てくれるから。学食で待つよー」
「そっか。このマフラーを巻いておけよ~」
「キミが寒いだろー?ひざ掛けもあるしコートも温かいし。これでよーし」

 悠人がひざ掛けをバッグの中に片づけた。紺色系の毛糸で編まれているそれは、俺の手編みだ。気に入っていると言って、どこかしこで使ってくれている。新作を編みたいが、定期試験まではおあずけだ。集中しすぎて疲れるからだ。つい根を積めて編んでしまう。さらに黒崎から邪魔をされるだろう。

「おーい。なつきー、ゆうとー」
「しんばー、おつかれー……」
「……風邪か?」

 森本と真羽と山崎がやってきた。3年生から同じ理学部に所属する。森本と真羽と山崎は情報物理学科だ。これからも自然と5人で集まるだろう。

「おつかれさま~。学食に行くだろ?」
「ああ。限定メニュー狙いだ。大福&ソフトクリーム、20食限定もやっているぞ?悠人の好きなカボチャサラダに新バージョンが出ているぞ」
「ふむふむ。栄養補給にタイミングがいいなあー」
「マジで?もう間に合わないよねえ」
「あきらめ半分で行こうよー」

 教室のある7号棟を出ると、向こうの方に銀杏並木が見える。そのそばに学食やカフェが入っている建物が並んでいる。昼どきだ。たくさんの学生が通っている。

「夏樹。その小さいやつは何だ?万歩計か?」
「これか~。緊急通報装置だよ。大手の警備会社がCMやっているやつ」
「へえ。これがそうなのか。バッグに付けても意味がないもんな」

 真羽と森本と山崎が装置を眺めた。驚いていない。黒崎の心配性さを知っているからだ。他の子達には驚かれた。もちろん悠人は、”ひいいいいっ” と、悲鳴をあげていた。黒崎のことをよく知っているからこそのものだった。

「……夏樹君だーー」
「……悠人くーーん!」

 あちこちから声を掛けられては、返事をして歩いて行った。アマチュアバンド時代から、こうして応援してくれている。入学当時は、男の子たちから声援を送られていた。俺と悠人を見て ”可愛い” と言われていた。しかし、剣道部OBの伊吹が襲ってくるぞという噂により、すぐに静かになった。懐かしい。隣を歩く悠人が、同じように懐かしいと言った。

「ゆうとー。あっという間に3年生になるよ。そう思わない?」
「そう思うよ。新入生向けのガイダンスに参加したよね。サークルに入れないからって、桜木さんがガードしてくれていたね。バンドに入るしって」
「そうなんだよ。サークルは興味がなかったし。黒崎さんがウルサイし……」
「ふむふむ。束縛の話を聞いたとき、ズッコケそうになったよ。もう慣れたけど」
「ひいいいいって、さっきは悲鳴あげたのに?」
「装置にビックリしたからだよーっ」
「同じことじゃん~」

 束縛と独占欲のことでは、驚かれる度合いも減った。学内では広まっている。通学でしか一人で出歩かないし、コンパにも出たことがない。入学当初は ”付き合いの悪い奴” として浮いていた。そのうち周りが気にしなくなった。黒崎の言った通りだった。

(黒崎さんの束縛は変化ないなあ。デビューしたから、心置きなく束縛できるって言っていたなあ……)

 今ではそういう面も可愛いと思えている。俺も同じだけ束縛しているし、元気のバロメーターのようだ。

「……ヤーーー!」
「……まだまだ、もう一回いけ!」

 するとその時だ。銀杏並木の向こうから、威勢のいい声が聞こえてきた。ここでは運動部がストレッチをやっていることが多い。
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