84 / 265
9-7
しおりを挟む
14時。
本来なら3時限目の授業を受けている頃だ。それなのに、学食で怖い人のことを待っている。その黒崎が早瀬さんと一緒に大学に到着し、教務課へ出向いて行った。
黒崎との電話の後すぐに、SAAL警備会社の人がやって来た。黒崎が大学に連絡してあったから、騒ぎにならずに済んだ。今後も続けることを、教務課さんに話しておくそうだ。黒崎の迎えがるまで、悠人と早瀬さんが付き添って待ってくれている。甘い空気を漂わせながら。2人の会話に聞き耳を立てた。
「裕理さーん。そんなに心配しないでよ」
「今晩はオムレツを焼いてあげる。どのソースがいい?」
「和風キノコソースがいい。トマトソースもいいなあー」
「二つ作ってあげようか?半分ずつ分ければいい」
「ほんとにー?」
「本当だ。……今日はカボチャサラダを食べたのか。他には何がいい?」
「ジャガイモのグラタンが食べたい。煮込みハンバーグも」
「重めのものが多いぞ。仕方のない子だな」
「もう……。風邪がうつるよー?」
「モウモウ言うのか?ヤギさんになってごらん?」
「メエメエー」
「ゆうとー。可愛い」
「裕理さん。大好き!んん……」
「ヒョーーー……」
そばのカップルの熱気に当てられた。俺たちも甘くしようよ。今日はそんなやり取りが出来るわけがない。あの電話の黒崎は恐ろしかった。乱暴ではないが、威圧感の塊だった。
「うっうっ。せっかく、女の子からカッコいいって言われたのに……」
板割りの成功のおかげで、女の子から悲鳴が上がった。恥ずかしくて堪らなかったが、念願かなって嬉しかった。それだけのことでも、俺にとっては貴重な体験だった。
「裕理さーん。このカフェオレは美味しいよー」
「飲ませてくれ」
「風邪がうつるよーー?」
「キミの風邪なら大歓迎だ」
「裕理さん。バカーーー」
「バレたか。もっとバカになってもいいか?」
「もう……」
「メエメエ、モウモウ」
「もうーーー」
「ヒョーーー……」
今はこの甘さが心地いい。テーブルに突っ伏していると、絵理奈ちゃんからお菓子を差し入れされた。元気出しなよ、一緒に話してあげようか?と。力なく首を振っていると、周りからざわめきが起きた。キャーッと悲鳴があがった。俺にとっても悲鳴を上げたくなる人物が来たに違いない。
「きたきた……。恐ろしいよ~」
ゆっくり顔を上げると、予想どおりに黒崎が歩いてきた。怒っているかと思っていたのに、その表情は反対だった。心配そうにしながらも笑っていた。優しい笑顔を浮かべていると分かった。迎えに行こうとすると、座っていろと手を振られた。
「夏樹。おまたせ」
「心配かけてごめんね!つい忘れていて。あ……」
最後まで話すことが出来なかった。こんなに大勢の前で抱き寄せられるなんて。ビックリしすぎて何も言えないでいると、黒崎から頭を撫でられながら笑われた。
「もう怒っていない。強く言っていないはずだ」
「うん……。ごめんね……」
「泣くな。俺は怖い顔をしてないぞ?」
「え?泣いて……うっ、ひっく……」
せっかく怒られていないのに。泣き真似すらしなくて済んだのに。どんどん視界がぼやけてきて、ぽたぽたと涙が頬を伝って落ちていった。
「ずぶ濡れになる。せっかく見つけたパーカーだぞ?」
「うん……。買ったばかりだよ……っ」
「はいはい、分かった……」
スーツからハンカチを取り出し、ポンポンと涙をふき取ってくれた。その仕草までが優しいから、別の意味で涙が溢れてきた。せめて泣き顔を隠しておきたいから、黒崎の肩に顔を埋めた。
泣いている顔を隠したのに、堪えていた嗚咽が大きくなった。自分ではどうすることもできない。マジで大泣きになりそうだ。恥ずかしいのに。
「……っ」
「どこも痛くないだろう。初めてのことだからな。驚いたのか?」
「かなり焦ったんだ……っ」
「そうだろう。板割りをするとは想定外だ。お互いにだ。すまなかった。俺の方も焦っていた。つい叱りすぎた」
「黒崎さん……っ。そんなに強くは……」
「だったら泣いている理由は何だ?」
「キャーキャー言われて……る。ぐろざぎさん……」
「気のせいだ。泣き止んだら帰ろう」
周りから悲鳴を上げられても、全く動じている風がない。そんな人が、俺のことでは慌てていた。いつもそうだ。それを改めて知ったから嬉しかったし、そこまで心配をかけたことを思い知らされた。いろんな意味で泣いている。
コト……。
テーブルの前へ、新しいホットカフェオレが置かれた。顔を上げると悠人が笑っていた。それを飲んで落ち着けよと笑われた。
嗚咽を漏らしながら飲み始めたものだから、盛大にむせ返った。それでも笑い声は聞こえず、周りにいる誰もかれもが、こっちを見ないふりをしてくれていた。
本来なら3時限目の授業を受けている頃だ。それなのに、学食で怖い人のことを待っている。その黒崎が早瀬さんと一緒に大学に到着し、教務課へ出向いて行った。
黒崎との電話の後すぐに、SAAL警備会社の人がやって来た。黒崎が大学に連絡してあったから、騒ぎにならずに済んだ。今後も続けることを、教務課さんに話しておくそうだ。黒崎の迎えがるまで、悠人と早瀬さんが付き添って待ってくれている。甘い空気を漂わせながら。2人の会話に聞き耳を立てた。
「裕理さーん。そんなに心配しないでよ」
「今晩はオムレツを焼いてあげる。どのソースがいい?」
「和風キノコソースがいい。トマトソースもいいなあー」
「二つ作ってあげようか?半分ずつ分ければいい」
「ほんとにー?」
「本当だ。……今日はカボチャサラダを食べたのか。他には何がいい?」
「ジャガイモのグラタンが食べたい。煮込みハンバーグも」
「重めのものが多いぞ。仕方のない子だな」
「もう……。風邪がうつるよー?」
「モウモウ言うのか?ヤギさんになってごらん?」
「メエメエー」
「ゆうとー。可愛い」
「裕理さん。大好き!んん……」
「ヒョーーー……」
そばのカップルの熱気に当てられた。俺たちも甘くしようよ。今日はそんなやり取りが出来るわけがない。あの電話の黒崎は恐ろしかった。乱暴ではないが、威圧感の塊だった。
「うっうっ。せっかく、女の子からカッコいいって言われたのに……」
板割りの成功のおかげで、女の子から悲鳴が上がった。恥ずかしくて堪らなかったが、念願かなって嬉しかった。それだけのことでも、俺にとっては貴重な体験だった。
「裕理さーん。このカフェオレは美味しいよー」
「飲ませてくれ」
「風邪がうつるよーー?」
「キミの風邪なら大歓迎だ」
「裕理さん。バカーーー」
「バレたか。もっとバカになってもいいか?」
「もう……」
「メエメエ、モウモウ」
「もうーーー」
「ヒョーーー……」
今はこの甘さが心地いい。テーブルに突っ伏していると、絵理奈ちゃんからお菓子を差し入れされた。元気出しなよ、一緒に話してあげようか?と。力なく首を振っていると、周りからざわめきが起きた。キャーッと悲鳴があがった。俺にとっても悲鳴を上げたくなる人物が来たに違いない。
「きたきた……。恐ろしいよ~」
ゆっくり顔を上げると、予想どおりに黒崎が歩いてきた。怒っているかと思っていたのに、その表情は反対だった。心配そうにしながらも笑っていた。優しい笑顔を浮かべていると分かった。迎えに行こうとすると、座っていろと手を振られた。
「夏樹。おまたせ」
「心配かけてごめんね!つい忘れていて。あ……」
最後まで話すことが出来なかった。こんなに大勢の前で抱き寄せられるなんて。ビックリしすぎて何も言えないでいると、黒崎から頭を撫でられながら笑われた。
「もう怒っていない。強く言っていないはずだ」
「うん……。ごめんね……」
「泣くな。俺は怖い顔をしてないぞ?」
「え?泣いて……うっ、ひっく……」
せっかく怒られていないのに。泣き真似すらしなくて済んだのに。どんどん視界がぼやけてきて、ぽたぽたと涙が頬を伝って落ちていった。
「ずぶ濡れになる。せっかく見つけたパーカーだぞ?」
「うん……。買ったばかりだよ……っ」
「はいはい、分かった……」
スーツからハンカチを取り出し、ポンポンと涙をふき取ってくれた。その仕草までが優しいから、別の意味で涙が溢れてきた。せめて泣き顔を隠しておきたいから、黒崎の肩に顔を埋めた。
泣いている顔を隠したのに、堪えていた嗚咽が大きくなった。自分ではどうすることもできない。マジで大泣きになりそうだ。恥ずかしいのに。
「……っ」
「どこも痛くないだろう。初めてのことだからな。驚いたのか?」
「かなり焦ったんだ……っ」
「そうだろう。板割りをするとは想定外だ。お互いにだ。すまなかった。俺の方も焦っていた。つい叱りすぎた」
「黒崎さん……っ。そんなに強くは……」
「だったら泣いている理由は何だ?」
「キャーキャー言われて……る。ぐろざぎさん……」
「気のせいだ。泣き止んだら帰ろう」
周りから悲鳴を上げられても、全く動じている風がない。そんな人が、俺のことでは慌てていた。いつもそうだ。それを改めて知ったから嬉しかったし、そこまで心配をかけたことを思い知らされた。いろんな意味で泣いている。
コト……。
テーブルの前へ、新しいホットカフェオレが置かれた。顔を上げると悠人が笑っていた。それを飲んで落ち着けよと笑われた。
嗚咽を漏らしながら飲み始めたものだから、盛大にむせ返った。それでも笑い声は聞こえず、周りにいる誰もかれもが、こっちを見ないふりをしてくれていた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる