白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 16時。

 我が家に帰ってきた。黒崎から優しくされっぱなしなのが申し訳ない気分だ。ホッとした気持ちと緊張していた身体がほぐれて、どっと力が抜けた。

 帰り道に買ってきた珈琲豆を使って、珈琲を淹れた。バニラっぽい甘い匂いが部屋に広がった。これを飲みながらテレビを観ていると、黒崎が寝室で着替えを済ませて降りてきた。

「珈琲があるよ。どうぞ」
「ありがとう。どうだ。落ち着いたか?」
「もう平気だよ~」

 学食から出た後の、駐車場までの道のりでのことだ。あの銀杏並木を通りかかった時、運動部がストレッチをやっていた。練習終わりの空手部が通りかかり、俺の方に手を振ってくれた。あの辺りで練習の成果を披露したのか?と、黒崎から笑われた。しかも、俺の前でもやってくれと言われた。今も笑っている。

「悠人君から聞いたぞ。連続してやったそうだな?」
「うん。引っ込みがつかなくなったもん。ラストの5枚目が大きめでさー。回し蹴りをやったんだ」
「俺とやっている練習の成果が出たようだな。元気を出せ。今夜は外食にしよう」

 そっと頭を抱き寄せられた。遠慮がちにもたれ掛からないでいると、頬を軽くつねられた。意地悪そうに笑っている。すると今度は、こめかみにキスを受け取った。

「遠慮しているのか?泣かせたお詫びに絵本を買ってくれとか、本屋に連れて行ってくれ発言は、どうした?いつものように言え。今日は暇だ。どこでもいいぞ」
「どうしてそんなに優しいんだよ?」
「叱りすぎたからだ」
「やっぱり?」
「……」

 黒崎が決まり悪そうな顔をした。乱暴な言葉を使われたことは一度もない。バカヤロウと軽く言われたのがMAXだ。このどさくさに紛れて、思う存分甘えておこう。

(黒崎さんの気がすむってものだよ……)

 ぎゅっと抱きついて頬にキスをした。見つめ合った後、今夜の食べたいものを口にした。そして、仕かけ絵本の新作セット、スワンの洋菓子が欲しいと良言い、少し遠くにあるパン屋のエッグタルトもリクエストして、次々にOKが出た。さらに趣味のグッズを口にすると、さすがに苦笑された。

「それは定期試験の後だ。絵本の定期コースの継続は申し込んでおけ。……ただなあ。絵本部屋の絵本が溢れてきたぞ。新しい棚を買いに行くぞ」
「えええ?部屋が狭くなるからいやだよ。今でも狭いのに……」
「デカい本棚が3つあるからだ。親父の図書室を使わせてもらったらどうだ。いや、あの部屋も満杯か。決まりだ」
「ええー?座ることしかできないのに……」

 これをきっかけにして、絵本部屋のツッコミが始まった。始まると長いし、口をはさむと厄介だ。大人しくしていよう。

「上の方まで絵本を置くな。倒れて来たらどうする?落ちてきて、頭をぶつけたことがあるはずだ。先月のことだ。この辺りが赤くなっていたぞ」
「え……?」

 しまった。いつ気づかれたのか?油断していたら、バラバラと絵本が降ってきたことがある。目に当たったらどうなっていたのかと、新しい小言がスタートした。もっとな指摘だから聞くしか出来ない。

「もっと気をつけておけ。家の中でもこの状況だ。庭の溝で転ぶ。絵本は落ちてくる。対策を取れば済む話だ。……だから通報装置を持たせた」
「うん……」
「大学に話をした。体調が悪い場合に備えてだと理解をもらった。本来の使い方の一つだ。雨の日は駅を使うな。タクシーで通学するように」
「一人で行きたいよ」
「親父の送迎でもかまわない。教室の前まで付き添われたいならいいぞ?」
「それは恥ずかしいよ……」

 どんどん話が進んで行く。年々のように小言の時間が長くなった。さらに過保護プランが組み立てられた結果、プランが出来上がった。
 
 なんて仕事が早いのか。呆然としながら、大人しく聞いているしかなかった。最後は額にキスを受け取り、悪くないかなと思ってしまった。こうして1日が過ぎていった。
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