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13時。
黒崎と2人で湾沿いにある、IKUのイベント会場へやって来た。35店舗のカフェが出店したイベントが開かれている。全国チェーン店の中には、聞いたことがなかった店もある。大盛況だ。飲み物を買ってきた。屋内ホールに店があり、外にはパラソルとテーブルが並んでいる。どちらでも飲めるが、せっかくだから外に出てきた。
「どこに座ろうかな?あー、あの辺はどう?風が強いかな?」
「柱があるから大丈夫だろう」
2人分の飲み物を持って歩いて行った。鳩のモニュメントのそばには、大きな石造りの柱がある。そのそばのベンチに腰かけた。テーブルにドーナツの袋を置くと、バタバタと紙ぶくろが風になびいた。慌ててキャッチして、すぐに口に入れた。
「飛ばされるところだったよ。んひょ……ん……ほいいひいい」
「夏樹……」
「んんふ?」
「そこまで詰め込まなくてもいいだろう。冬眠前のリスのようだ」
「ひゃって、ひゃへいーに」
「もう風がやんだ。ゆっくり食べろ。おい、喉に詰まったのか。世話のかかるやつだ」
「ごほ……」
ドーナツの欠片が喉につっかえた。差し出されたカフェラテを飲んで、何とか落ち着いた。背中をさすっている手は優しいが、こっちを見ているのは意地悪そうな顔だ。
ここで言い返すと、また喉に詰まるだろう。大人しく食べ終わった頃には、黒崎も意地悪をやめていたし、自分も落ち着いていた。こんなことでは喧嘩にならない。かえって笑える。
「なんだよ。優しいかと思えば、チクチクやってきただろ」
「ああやって頬張るからだ。危ないぞ」
「それは言い返しができないよ。飛んでいきそうだったし。笑うなよ……」
「こっち来い。落ち着かないだろう」
「平気だよ」
「ゆっくりさせたい。ほら……」
黒崎が座っている場所を奥へ詰めてくれた。柱のおかげで風が遮られた。目の前の景色は変わらない。白と青が混ざり合ったコントラストの水面が広がっている。水色の空には、白い雲がこんもり浮かんでいた。その中に、マフィンのような雲を見つけた。
「マフィンと、シフォンケーキを買って帰るよ」
「あの雲を見て連想したのか?マフィンに似ている」
「そうだよ。ホイップクリームを乗せたイメージだよ。粉砂糖とアイシング。あっちの雲はね、カスタードクリーム」
「どこがだ。黄色くないだろうが」
「向こうはね~。クリームブリュレだよ」
適当に思いつくままに口にすると、黒崎が笑い出した。頭をぐりぐりと撫でられた。痛いよ、馬鹿力。うるさい。軽く言い合いをしていると、後ろの方が騒がしくなった。
黒崎が振り向くと悲鳴が上がった。お馴染みの反応だ。その話し声が近くなり、数人が近寄ってきたことが分かった。小声で話している。
(ふん。いいよ。俺のものだし。キャーキャー言われるのは分かっているよ……)
決まった場所しか行かないから忘れていた感覚だ。黒崎はというと、ぶっきらぼうな態度は見せずに、やんわりと場を収めていた。ますますモテそうだ。
「夏樹。お前のファンの方だ。お礼を言え」
「マジで?え?わあああ~」
振り返ると、お姉さんたちに囲まれていた。ナツキさんですよね?と。みんながニコッと笑っている。俺のことだったのかと驚いていると、彼女たちからクスクスと笑われた。”可愛い”という声まで起きた。”赤くなってる”、”怖くないよー” とまで。子供扱いをされてしまった。
「テレビとイメージが同じですね。歌っていると別人だけど」
「は、はい。よく言われます!」
「5月17日の国際ホール。一日目の分。なんとかチケットが取れて……」
「私たちは18日が取れたの」
「ありがとうございます!どちらの席ですか?手を振りたいので」
「アリーナ、J5、悠人君サイドです」
「悠人にも伝えます!」
お礼を口にすると、また笑いが起きた。黒崎へのキャーとは雲泥の差がある。まるで近所のお姉さんのようだ。5月のコンサートのチケットがソールドアウトになった。そのことでも、おめでとうと言ってもらえた。
写真撮影をと声を掛けられたが、事務所からは、お断りをするように言われている。せめて握手だけでもと手を差し伸べると、真っ赤な顔をされた。嬉しいですと感激されて、俺の方も両目頭が熱くなった。
これが呼び水となり、一斉に人が集まってきた。こんなことで喜んでもらえるのか。胸が熱くなった。精いっぱいの笑顔で握手をした。
(歌ってよかった。まだ下手くそだけど……)
お邪魔しました。ありがとう!そう言いながら大きく手を振られて、こっちも振り返した。
黒崎と2人で湾沿いにある、IKUのイベント会場へやって来た。35店舗のカフェが出店したイベントが開かれている。全国チェーン店の中には、聞いたことがなかった店もある。大盛況だ。飲み物を買ってきた。屋内ホールに店があり、外にはパラソルとテーブルが並んでいる。どちらでも飲めるが、せっかくだから外に出てきた。
「どこに座ろうかな?あー、あの辺はどう?風が強いかな?」
「柱があるから大丈夫だろう」
2人分の飲み物を持って歩いて行った。鳩のモニュメントのそばには、大きな石造りの柱がある。そのそばのベンチに腰かけた。テーブルにドーナツの袋を置くと、バタバタと紙ぶくろが風になびいた。慌ててキャッチして、すぐに口に入れた。
「飛ばされるところだったよ。んひょ……ん……ほいいひいい」
「夏樹……」
「んんふ?」
「そこまで詰め込まなくてもいいだろう。冬眠前のリスのようだ」
「ひゃって、ひゃへいーに」
「もう風がやんだ。ゆっくり食べろ。おい、喉に詰まったのか。世話のかかるやつだ」
「ごほ……」
ドーナツの欠片が喉につっかえた。差し出されたカフェラテを飲んで、何とか落ち着いた。背中をさすっている手は優しいが、こっちを見ているのは意地悪そうな顔だ。
ここで言い返すと、また喉に詰まるだろう。大人しく食べ終わった頃には、黒崎も意地悪をやめていたし、自分も落ち着いていた。こんなことでは喧嘩にならない。かえって笑える。
「なんだよ。優しいかと思えば、チクチクやってきただろ」
「ああやって頬張るからだ。危ないぞ」
「それは言い返しができないよ。飛んでいきそうだったし。笑うなよ……」
「こっち来い。落ち着かないだろう」
「平気だよ」
「ゆっくりさせたい。ほら……」
黒崎が座っている場所を奥へ詰めてくれた。柱のおかげで風が遮られた。目の前の景色は変わらない。白と青が混ざり合ったコントラストの水面が広がっている。水色の空には、白い雲がこんもり浮かんでいた。その中に、マフィンのような雲を見つけた。
「マフィンと、シフォンケーキを買って帰るよ」
「あの雲を見て連想したのか?マフィンに似ている」
「そうだよ。ホイップクリームを乗せたイメージだよ。粉砂糖とアイシング。あっちの雲はね、カスタードクリーム」
「どこがだ。黄色くないだろうが」
「向こうはね~。クリームブリュレだよ」
適当に思いつくままに口にすると、黒崎が笑い出した。頭をぐりぐりと撫でられた。痛いよ、馬鹿力。うるさい。軽く言い合いをしていると、後ろの方が騒がしくなった。
黒崎が振り向くと悲鳴が上がった。お馴染みの反応だ。その話し声が近くなり、数人が近寄ってきたことが分かった。小声で話している。
(ふん。いいよ。俺のものだし。キャーキャー言われるのは分かっているよ……)
決まった場所しか行かないから忘れていた感覚だ。黒崎はというと、ぶっきらぼうな態度は見せずに、やんわりと場を収めていた。ますますモテそうだ。
「夏樹。お前のファンの方だ。お礼を言え」
「マジで?え?わあああ~」
振り返ると、お姉さんたちに囲まれていた。ナツキさんですよね?と。みんながニコッと笑っている。俺のことだったのかと驚いていると、彼女たちからクスクスと笑われた。”可愛い”という声まで起きた。”赤くなってる”、”怖くないよー” とまで。子供扱いをされてしまった。
「テレビとイメージが同じですね。歌っていると別人だけど」
「は、はい。よく言われます!」
「5月17日の国際ホール。一日目の分。なんとかチケットが取れて……」
「私たちは18日が取れたの」
「ありがとうございます!どちらの席ですか?手を振りたいので」
「アリーナ、J5、悠人君サイドです」
「悠人にも伝えます!」
お礼を口にすると、また笑いが起きた。黒崎へのキャーとは雲泥の差がある。まるで近所のお姉さんのようだ。5月のコンサートのチケットがソールドアウトになった。そのことでも、おめでとうと言ってもらえた。
写真撮影をと声を掛けられたが、事務所からは、お断りをするように言われている。せめて握手だけでもと手を差し伸べると、真っ赤な顔をされた。嬉しいですと感激されて、俺の方も両目頭が熱くなった。
これが呼び水となり、一斉に人が集まってきた。こんなことで喜んでもらえるのか。胸が熱くなった。精いっぱいの笑顔で握手をした。
(歌ってよかった。まだ下手くそだけど……)
お邪魔しました。ありがとう!そう言いながら大きく手を振られて、こっちも振り返した。
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