白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 屋内ホールに入ると、カフェの店員さんの呼びかけが聞こえてきた。とても活気がある。香ばしい匂いがしている。そして、甘さがミックスされた匂いに迎えられた。ナチュラルな仕様のスタンドが並んでいる。この日のためにデザインしたのだろうか?真新しいからだ。興味が出てきた。

「……残り5セットになりましたーー」
「……本日のおすすめ、キャロットジュースでーーす」

 人に当たらないように歩き進んでいると、どストライクな好みの店を見つけた。地元の商店街にあるような、ショーケースが並んだお店だ。このレトロ感が好きだ。

 ふらふらと引き寄せられるようにして、そっちの方に足が向いた。黒崎が微笑んでいるのは、そのショーケースを見たからだ。懐かしい感じの商品のラインナップが並んでいる。

「商店街の店かな?」
「子供の頃からある店だ」
「うん。近所なんだよね?あったかな?」
「いや、小学校の近くの店だ。揚げパンが好きで買っていた」
「へえー。オーナーさんは居るかな?」
「さすがに代替りをしているだろう。ん?おじさんだ……」

 黒崎の視線の先に、年配の男性がいた。70歳近い感じだ。こっちを向いて驚いていた。黒崎も笑顔になり、さっそく向かった。

「お久しぶりです」
「懐かしい!元気そうだね」
「おじさんも……」

 あっという間にタイムスリップした様子だ。そっと黒崎の隣に立って話を聞くと、電車通学をしていた頃にこっそり寄り道をした先が、ここのパン屋さんだったそうだ。拓海さんに連れられて行ったのが、最初のきっかけだ。喘息の様子を見ながらの通学中で、この店で買うのが楽しみだったそうだ。俺もおじさんと話し始めた。話題は黒崎の子供の頃のことだ。

「黒崎さんは元気な子だったんですねー。大人しいかと思っていました」
「いやいや。活発だったよ。最初は大人しい子だったから、人見知りをしていたのかな?」
「当時はそうでした。兄の後ろに隠れていました。入院生活が頻繁で、外を出歩くことが少なくて」
「そうだったね。拓海さんが買いに来てくれたなあ。圭一君が喜んでいるって。拓海さんはドーナツが好きで……」
「そうでした。病室で一緒に食べました。懐かしい」
「ここから店は遠くないですよね?うちの家は……にあります」
「車ならすぐだよ」
「通勤の途中で寄ります。お店は移動していますよね?戻ってきた時になかったもので」

 チラシに載っている住所とマップを見た。大学からも近そうだ。さっそくパンやお菓子を選んだ。小さなスコーンが美味しそうだ。いくつかピックアップした。

 包んでもらっている間に行列ができていた。雑誌やネットでは紹介されていない。知る人ぞ知る店らしい。

 斜め向かいの店の人は古くからの知り合いだそうで、さっそく紹介してもらった。その店ではシフォンケーキをいくつか買い、お義父さんたちへのお土産にした。もちろん珈琲豆も買った。

「お店の写真を撮りたくなったよ。……OKですか。ありがとうございます!」
「……ははは。こちらこそありがとう。インスタに乗せるのかい?」
「インスタって?……ああ、黒崎さん」
「お前がまだ知らないものだ。帰った後で説明する」
「黒崎さん。教えたくないのかよ?」
「考えている……」
「うんうん。こっちを撮ってくるよ」
「迷子放送をかけるぞ。そばから離れるな」
「ならないよ。見える場所に行くからさ」
「……」

 黒崎が押し黙った。俺の方が折れるしかない。子供っぽい人の手を引いてやり、目的の店に向かった。俺に付きまとうくせに、何も話さないのはいつものことだ。何も話したくないのなら、一緒に来るわけがない。そばにいるわけがない。これにも慣れた。

 出会った時の通学の車内では、黒崎から仕事のことばかり話された記憶がある。どうやって話題を振ればいいのか分からなくて、戸惑っていた人だった。高校生が相手だからだけが理由ではない。

 自分には理解できなくて反発して拗ねたから、何か話題を見つけては話しかけてくれた。だからこそ、俺の方も何でも口にするようになった。そのおかげで、今の状況がある。

 今日の黒崎が可愛いし、お菓子類が美味しくて楽しかった。ホクホク顔でイベント会場を後にした。また開かれるといいねと話しながら。こうして1日が過ぎていった。
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