白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 ギシ……。

 ベッドのスプリングの音が、やけに大きく聞こえる。静まり返った寝室の中、やっぱり黒崎がいないと落ち着かない。温かいシーツが冷たくなってきた。それが分かるから寂しい。壁一枚で隔たれているだけなのに。モヤモヤしながら寝返りを打つと、サイドテーブルから着信音が聞こえた。

「あれ?ラインだ。電話をかけてもいいか?って……。どうしたんだろ?」

 悠人からだった。すぐに電話をかけてくればいいのに。この書き方は気になる。電話をかけると、すぐに出た。聞こえてきた声は元気がない。

「……もしもし。こんな時間にごめんね」
「まだ大丈夫だよ。いつも話しているじゃん。ゆうとー。どうしたんだよ?」
「いきなり話すけど……。島川社長から聞いたモデルの話だよ。やらせてもらいたいけど、なるべく社長には会いたくないんだ」
「何かあった?まだ数えるぐらいしか会ってないよね?」
「会ったのは5回ぐらいだよ。ちょっと引っかかるんだよ……」

 悠人が口ごもった。一貴さんとはこの間のクリスマスに初めて会い、その後、インタビュー記事を読んで会いたがっていたから、会うのを喜んでいた。早瀬さんと一緒に何度か誘いを受けて、食事に行ったと聞いた。悠人は人の好き嫌いを口にしないのに、一体どうしたのだろう。一貴さんから嫌味を言われたのだろうか。しかし、悠人には言わないはずだ。

「早瀬さんには相談していないだろ……」
「……うん。大学の奥村さんとは違うから。仕事関連で何か起きたら嫌だし」
「悠人が言うぐらいだから、よっぽどマズいってことじゃん……。何があったんだよ?」
「二人きりで食事に行こうって誘われたんだよ。これで3回目。まだ行ったことないよ。遠藤さんとは違う感じがする。何かあったわけじゃないけど……」
「うちに泊まりに来るだろ?早瀬さんの出張の日。やめておく?」
「……行くよ。急にやめるのは変だから。なるべく会いたくない。協力してくれないかな?」
「もちろんそうするよ。嫌なものは嫌だからね」

 今から一貴さん本人に聞いてみたい。答えが分かれば楽だ。しかし、悠人は考え方が違うから、余計なことは出来ない。どうすればいいか。黒崎に相談すると、大ごとになるだろうか。

「俺としては、一貴さんに聞きたい。ストレートに。悠人のことをどう思っているのかって」
「……黒崎さんが怒らないかな?上手くいってるのにって」

 自分のことより、周りを気遣っている。どれぐらい前から悩んでいたのか。気づかなかった。俺達としては、モデル起用の話がうまくいくと良いと思い、悠人が一貴さんと会う機会を増やそうとしていた。この件は誤解であってほしい。嫌味の一つを言い放ったのなら、謝らせればいい。後に引くことがないように。今後は仲良くなる可能性もある。黒崎の手を借りる方がベストだ。

「黒崎さんは怒らないよ。心配するに決まっているけど。一貴さんに直球で聞くと思う。ここは年長者の意見を聞こうよ。女性関係がもつれていた分だけ、もめ事対応が経験豊富だもん。一番いい方向になるはずだよ。信用してくれないかな?」
「……俺の方から話すよ。家に居る?」
「先に俺から話すよ。明日にでも連絡を返すからね。元気出せよー。恋愛に疎いから、分からないことが多いんだ。そっちも同じだろー?」
「……うん。情けないよ」
「はいはい。安心してね~。おやすみ」
「……ありがとう」

 電話を終えた後、すぐに寝室を出た。今夜は遠慮なく、書斎のドアをノックするために。
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