白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 午前5時。

 お父さんの家から戻ってきた。まだ日が昇る前だ。リビングでお茶を飲んで、これからのことを考えた。悠人に謝る内容と、話し合いの場をいつにするのかということを。

 黒崎が早瀬さんに電話をかけ始めた。オフィスで話す内容ではないからだ。表情が曇っていたから気になった。ため息交じりに電話で話している。いい内容ではなさそうだ。

「……悠人君だけじゃないのか。いつからだ?……そんなに前からか。……黒崎製菓としては歓迎する。今から親父に話しておこうか。そうか、深川さんか。じゃあ、オフィスで……」

 通話を終えた後、髪の毛をかきあげながら、黒崎が眉間に皺を寄せた。どんな話が出てきたのか?黒崎製菓の名前が出てくるなんて、穏やかではない。

「どうなったの?いい結果じゃないよね……」
「黒崎製菓の件は問題ない。裕理には取締役会メンバーに入る打診をしてあった。いい返事がもらえた。本気を出したようだ」
「どうしてそんな顔しているんだよ?」
「話を受ける理由のことだ。悠人君を守れなかったと悔やんでいる。自分に力があれば、最初から近づいてこないはずだと。まだ32歳だ、しかたがない。俺も同じことだ。だから取締役会に入るそうだ」

 早瀬さんが急に返事をして来たのは、今回のことが理由だと口にしたそうだ。黒崎製菓グループとしては大歓迎だが、黒崎としては心配になっている。

「本人がやりたいなら応援する。あとは、一貴の困った癖の関係だ」
「許してくれそうもない?嫉妬された話をした?昔の恋人のことか」
「妬みには気づいていたそうだ。昔の恋人のことは聞かなかった。一貴は裕理にも好意を持っていたようだ。悠人君へと同じものだ。恋愛感情だ。収集癖の件を話すと納得していた」
「えええ ? ごほっ、ごほっ」

 思わずむせ返った。今年に入って、一貴さんと早瀬さんの接点が増えた。早瀬さんは一貴さんから恋愛感情で押されていたそうだけれど、サラッと受け流していたそうだ。まさか悠人にも向けられていたとは気づかなかったそうだ。それで昨日、俺と悠人の電話に気づいて、一貴さんを叱ったらしい。

「裕理は呆れ返っている。悠人君へ謝らせる。裕理は自分には不要だそうだ。大人しくしてもらえれば、それでいい。仕事上の距離を保ってくれと言っていた」
「どうして恋愛感情を持たれているって、分かったんだろうね?デートに誘われたとか。飲みに行くのは普通なんだよね?」
「……”綺麗な目をしている。淡いグリーンが魅力的だ”。そう囁かれたそうだ」
「ごほっ、ええ?ひゃひゃひゃ……」

 早瀬さんの瞳は綺麗だ。それでも、面と向かって口にするのか?一貴さんのことだから、嫌みに聞こえる言い方をしたかも知れない。だから笑ったらいけないのに、その光景を想像するだけで、口元がほころんでしまった。悠人は知っているのかな?

 黒崎としては納得いくものだそうだ。あれほどに嫉妬し続けたからだ。本人のことを考えているうちに、惹かれた可能性があるということだ。

「悠人君には話してあるだろう。困った兄貴だ。追い出してもいいか?親父にも話しておく」
「だめだって。お義父さんは笑わないから。早瀬さんのことも、傷つける気はないんだろ?好きなんだし。でもさ、嫉妬しているのに、恋愛感情があるんだね……」
「それが一貴の特性だ。嫉妬心をケースに保管して、恋愛感情を、もう一つのケースに入れてある。そういうことだろう」
「なるほどねえ。その説明ならしっくりくるよ」
「裕理が囁かれたのか。気色の悪い話だ。さすがにオフィスでは聞きたくない」
「そんな言い方をするなよ~。綺麗なものは綺麗だって……、ひゃひゃひゃ」

 いくら何でも気が多すぎるだろう。ケースに入れるかのようにして、想いを保管するのか。いくらでも増やせそうだ。さらに聞かされた話には、呆れるしかなかった。

 一貴さんが早瀬さんへ服をプレゼントそうだ。宅急便でオフィスへ送ったと、昨日の夕方に連絡があったそうだ。今日オフィスに到着予定だ。早瀬さんははっきりと断ったのに。それでも完全にシャットアウト出来なかったことを、悔しがっていたそうだ。

 一貴さんは強引だ。一方的に送り付けられたなら、仕方がないだろう。送り返せばいい。しかし、黒崎は別の意味だと言った。

「”NO”だと意思表示をした相手が、送りつけてきたからだ。今までに無い経験のはずだ。それもあって、取締役会の話を受けた。この件で、いずれはR&W社の代表へ推される。その入口へ飛び込んだ。これからは進むだけだ」
「気持ちは分かるよ。大事な人を守りたいのに力がないって。それは落ち込むよー。早瀬さんに力がないの?がっちり守っているのに……」
「俺も同じだ。まだ力が足りない。あいつに負けられない。一貴じゃないぞ、裕理にだ」
「そんなに風に言うなよ~」

 早瀬さんと一緒に頑張っていく。負けたくないライバルでも、蹴落とすことはない。そう言っているかのようだ。一旦は休憩した黒崎が、また進み始めたのだろうか。
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