白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 画面が切り替わり、放送が流れ始めた。司会者から紹介されて、お辞儀をしている自分が映っている。隣にいるのは羽音さんだ。収録中、何かとフォローをしてくれた。黒崎がヤキモチを妬くのは予想済みだ。さっそく画面を見て眉をひそめている。

(可愛いよね~。え?何をやってんだよ?)

 左手が取られて、黒崎が口元へ寄せた。傷跡や手の甲へ唇が押し当てられた。何も言わずに。ジャレているわけではない。黒崎の表情がそうではないからだ。画面へ視線を巡らせて、確認するかのように瞬きをしている。

 この人は記憶力がよくて、相手の顔を一発で覚えることが出来る。まさかこうして覚えているのか?シャッターを切るかのような仕草だ。

 それが終わった後、ふいに声を掛けられた。羽音さんのことを聞かれた。隣に並んでいるのは、彼だけではないのに。すっかり打ち解けていているのが分かったようだ。

「勅使河原さんの友人だと聞いたぞ」
「よく知ってるね。え?調べたのかよ?佐久弥から聞いたの?え?遠藤さんなの?」
「出演者全員を聞いてある」
「恥ずかしいからやめろよ~」

 やっと元の空気に戻った。久しぶりのことだ。束縛がキツくて堪らない頃に、漂うことが多かった。左手にキスをする仕草もやっていた。

(昔が復活したのか?まさかね……。外じゃ素っ気ないもん……)

 やっとバランスが取れてきたと、本人が言っていた。俺もそう思う。

 画面越しに俺のことを見ると、遠くの存在に感じるようだ。反対に、俺も同じことを感じる時がある。黒崎がニュースで映った時に、そう感じた。

 そのうち慣れるだろう。俺はここにいるし、黒崎も同じだ。画面越しだと、違う世界にいるかのように感じるのは、俺も同じだ。

 番組が進んで行き、自分の番が近づいた。3番目に登場する。順番が来るまでの間も、黒崎から左手を噛んだり舐めたりを続けられている。

「黒崎さーん。お腹が空いたのかよ?もう出ておく?見るのを帰ってからに……」
「そうじゃない。美味そうな手だからだ」
「同じ意味じゃん。あ、出てくるよ~」

 司会者の紹介と同時に、楽曲のタイトルが表示された。"visible ray Natsuki"と、テロップが出ている。遠目のアングルからカメラが近づき、素顔の俺がアップで映しだされた。普段に近い服装をしている。外食へ出かける時に、黒崎が選ぶようなテイストだ。

「いつものお前じゃないか。何も変わらない」
「リラックスしてやれるようにって。高宮プロデューサーから提案されたんだ」

 アップテンポな音楽が流れ始めた。耳なじみがいいから、出演者がノッってくれていた。歌いやすくて楽しめたのは、羽音さんからのアドバイスが大きい。

「これは恋愛ソングなんだ。大人っぽい感じの。想像できないからさ~。相手が目の前にいると思って、誘惑するつもりで歌うといいって、アドバイスを受けたよ」
「そうか……。おい……」
「似合わないって?俺としては満足だよ。他の出演者から褒められたし」
 
 スタンドマイクを前に、リズムに軽く身体を揺らしている。最後までこのスタイルだ。黒崎のことを誘惑するつもりで歌ったから、目を伏せがちにして、ブレスの後を囁くようにした。歌声には出さずに、囁く仕草だ。

 良いものに仕上がったと思う。出演者が座っている場所が映し出された時に、みんなが笑顔になっているし、口元に手を当てて笑っている。両手でリズムを取る人もいる。ロングアングルからアップへ移り、額の左側の傷跡、マイクに添えた左手の傷跡も映り込んだ。ちゃんと俺だと分かる。
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