白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 今、控え室にいる。音楽雑誌の取材に答えているところだ。話題は家庭菜園のことだ。黒崎家に引っ越してきた後から始めたことと、初めは2畳ぐらいのスペースで始めたことを話した。記者さんの家でも畑をやっているそうで、季節の野菜のことが聞けて良かった。俺のそばには長谷部さんがいる。黒崎は離れた位置でモニターを見ている。ステージと観客席を映しているものだ。

「……今は3畳の広さに大きくさせたんですね。トマトと九条ネギを育てている。次はピーマンに挑戦したいということですね」
「はい。日当たりがいいので、良く育ちそうだと思ってて」
「僕の家ではレタスとナスを育てています。お勧めですよ」
「へえーー。家庭菜園の話が出来るって思っていなくって……。花も育てているんです。花壇があるから。季節の花を植え替えています」
「夏樹さんは家庭菜園が好きと……。悠人さんとの出会いは大学だと伺っています。最初から意気投合したんですか?」
「はい。IRON ANGELの桜木聡太郎からバンドに誘われていて、彼も入る話になっていたんです。聡太郎から紹介される前に、悠人が階段で転びそうになっているのを助けに行ったのが出会いになりました。すぐに気が合って、昼ご飯を一緒に食べるようになりました」
「音楽のことではどんなことを話しましたか?」
「悠人が目指しているギタリスト像を語ってもらいました。俺はかっこいいボーカリストっていうぐらいしかなくて」
「人見知りと引っ込み思案を直したくて参加したとお伺いしています。今はどうですか?」
「少しマシになっていると思います。知らない人から声をかけられても驚かなくなったし、嬉しいって思っています。電車のホームで声をかけられることもあるんですよ。いい人ばかりです」
「ははは。良かったですね。佐久弥さんはディアドロップのイメージから普段の姿に近い感じにイメージチェンジされましたが、そばで見ていて、変化を感じましたか?」
「それがですね。変わらないんです。最初から今の佐久弥なんです。出会った最初の頃はディアドロップのイメージしかなくって、話しかけづらい人なんだろうって思い込んでいたんです。でも、全然そんなことはなくって、佐久弥ってこういう感じなのかって驚いた記憶があります。悠人と漫才みたいになっているし」
「確かに、悠人さんと佐久弥さんの会話は面白いですね。昨日のMCでも盛り上がっていましたね。夏樹さんがおっとりしているから、ますます際立っていました」
「ありがとうございます」
「ステージで歌っている時とギャップがありますね。ステージでは爆発的なエネルギーを感じます。でも、今、喋ると、物静かに感じます」
「そうですか?俺、けっこううるさいって言われますよ」
「ははは。緊張されているのかな?」
「そうかも知れません」
「新曲の far from heaven.天国から遠く離れての聴き所を教えて下さい」
「はい。CDではピアノとアコースティックギターとボーカルで仕上げています。ピアノを弾いているのは悠人なんです。賑やかな彼なんですが、ピアノの前では別人みたいに静かになります。でも、力強さがあります。佐久弥のギターは切なくて、昔を思い出させるような旋律です。歌詞の中では、主人公が友達のことを助けようと思ってしたことが、罰を受ける内容になってしまって、周りの人の葛藤を描いています。今回の作詞は佐久弥との共同です。お互いの昔話をして、少しずつ決めていきました」
「ステージでは後半、ハードロック調になっていますね。アイデアはどちらからのものですか?」
「俺達3人がコンサートの打ち合わせをしていたときに、せっかくだからアレンジしたいねっていう話が同時に出てきました。悠人がすでに構成を考えていたから、最初は悠人かなーー」
「仲が良くていいですね!もっとお話を聞かせて頂きたいんですが、ステージが始まる時間になったので……」
「はい。ありがとうございました」

 記者さんが席を立った。すると、控え室のドアがノックされて、悠人と佐久弥が飛び込んできた。悠人の頭には大きなリボンがついていた。佐久弥がやったのだろう。悠人がやめろと言っている。

「なつきーー。ごめん。取材中だって知っていたんだけど」
「これからステージだ。迎えに来た」
「2人とも。記者さん達が驚いているよ!」

 俺のそばには記者さんとカメラマンさんがいる。飛び込んできたから、さすがに驚いている様子だ。2人の様子を撮りたそうにしている。長谷部さんに聞くとOKが出たから、記者さん達に伝えた。

「どうぞ。撮って下さい」
「ありがとうございます!」
「わわわっ。こんなところを?」
「いいじゃないか。リボンは今日のMCに使う物だ」
「げええええっ」

 悠人と佐久弥が漫才を始めた。カメラマンが笑顔で2人を撮っている。そして、俺のその中に入り、笑顔でカメラに収めてもらった。

 そろそろ出番だ。ステージスタッフが俺達を呼びに来た。記者さん達にお礼を言って、3人でステージに向かった。廊下には早瀬さんがいて、俺達のことを送り出してくれた。そして、黒崎と一緒に観客席へ向かっていた。
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