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19-7(黒崎視点)
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19時。
関係者席からステージを眺めている。普段とは別人の夏樹が、ステージに立っている。開幕を告げるシャウトは、低音のドスのきいたものだった。今の歌声は、高音のクリアーなものだ。赤い照明の下、リズムに合わせて身体を揺らしている。
佐久弥と悠人の旋律が絡み、観客から歓声があがった。それだけ素晴らしいものだ。さらに夏樹の歌声が乗せられて、華やかさが増した。
そばでは親父が腰かけている。中山の両親に譲ろうとして遠慮がちだった。中山さんの方から前の席を譲られて、よく観える位置で眺めている。
「親父、泣いているのか」
「ああ……」
一言だけ返って来た。うれし涙なのか。後ろでは、義母が泣いている。ステージからは、弾けるような笑顔が向けられた。
夏樹が飛んで撥ねて、観客を煽っている。それに呼応するかのように、観客から腕が振り上げられた。それが波のようになり、ホール内が揺れる感覚が起きた。
ワーーーーーー!
あっという間にラスト近くになり、4月に出た新曲の紹介へ移った。少しだけ息を乱した夏樹が、マイク越しに語りかけた。大事な人を想って歌うと言っている。俺のことか?それ以外なら腹が立つ。いや、大事な人は沢山いる。我慢しておこう。
「……Far from heaven.天国から遠く離れて……、作曲は……、4月20日の発売です。そうです、俺の誕生日です。長生きするようにと祈念して、この発売日になりました……。笑う部分じゃないよ~」
ワーーーーーー!
パチパチパチ!
歓声と拍手が起きた。俺たちも笑った。夏樹がこちらを振り向いたのは、気のせいではないだろう。大型スクリーンへ、唇を尖らせた顔が映し出されたからだ。
観客が呼応して声をあげた。それを見て、メンバーが笑い出した。なんと温かみのあるステージなのか。背後にはグランドピアノがある。その前には悠人が立ち、お辞儀をして座った。一昨日と昨日はキーボードだった。
「裕理。悠人君が弾くのか?」
「そうだよ。猛練習していた」
歓声が落ち着いた頃、白い照明が夏樹達を差し下ろし、雫のような効果が広がった。グランドピアノから奏でられた旋律が、低音から高音へと進み、佐久弥のアコースティックギターが重なった。そして、夏樹が歌声を乗せた。
キーを下げたため、のびやかに声が出ている。それは冒頭のみで、一気に高音へ進んだ。マイク越しだが、そのままの声が広がっている感覚だ。いつの間に、これほど歌えるようになっていたのか。
「…… far from heaven……誰が間違っているの……それは大事なことなの……心の中にあるものを思い起こして……」
新曲のCDでは、バラード調だった。しかし、今回はコンサート用に変えると話していた通り、サビの後半からハードロック調へ移った。悠人はピアノで、ベースのパートを奏で続けている。夏樹の額からは、汗が滴った。照明の効果と合わさり、本当に雫のように見えた。
しんみりした空気の中、一気に曲調が変化した。次の曲に移った。赤い照明に包まれた後、聞き覚えのあるメロディーが流れ始めた。あの音楽番組のものだ。俺のことを誘惑するつもりで歌ったと言われた曲だ。背後では、義母たちが騒いでいる。
「おい、あの歌い方をするのか?」
「圭一さんのことを誘惑するんだろう。楽しみだね。すでに悩殺された人がいるみたいだね。”死にそう”って言っているよ……」
派手なギターフレーズの後、夏樹がスタンドマイクに手を添えた。大型スクリーンが映し出した夏樹のアップに、歓声が起きた。目を伏せがちにして、囁く仕草を始めたからだ。やめてもらいたいが、盛り上がりを見ると、そうはいかないのか。
ワーーーーー!ナツキーーー!
ユウトーーー!サクヤーーー!
高校時代の文化祭で歌っていた姿を思い出した。ステージに立っているのは、あれから3年経った姿だ。21歳になり大人びた。引っ込み思案な子が、観客に応えて手を振っている。怒号のような掛け声に包まれている。
周りからは ”悩殺された” と騒がれている。後ろからは、伊吹の暑苦しい声が聞こえてきた。誰かさんが妙なことを教えたからだと言っている。振り向いて睨みつけると、意味ありげに笑い掛けられた。
「聞かれると不味いことをしたんですか?」
「想像にまかせる」
「キャーーッ」
「なつきー!」
義母達が人形を振り上げた。夏樹達が手を振ったことで観客が盛り上がり、グッズを振り上げる観客が出てきた。
ステージを見届けることに忙しい。動画で観られるが、実際の姿を、なるべく多く脳裏に焼き付けた。
最後はサポートメンバーを呼んできて5人で両手をつなぎ合い、大きくジャンプをした。大歓声を送られて、ステージサイドへ戻って行く。さあ、控え室へ行くとするか。
しばらくして夏樹からラインが入った。控え室で待っていてねと。その約束だ。周りに挨拶を済ませて、通路へ出た。
関係者席からステージを眺めている。普段とは別人の夏樹が、ステージに立っている。開幕を告げるシャウトは、低音のドスのきいたものだった。今の歌声は、高音のクリアーなものだ。赤い照明の下、リズムに合わせて身体を揺らしている。
佐久弥と悠人の旋律が絡み、観客から歓声があがった。それだけ素晴らしいものだ。さらに夏樹の歌声が乗せられて、華やかさが増した。
そばでは親父が腰かけている。中山の両親に譲ろうとして遠慮がちだった。中山さんの方から前の席を譲られて、よく観える位置で眺めている。
「親父、泣いているのか」
「ああ……」
一言だけ返って来た。うれし涙なのか。後ろでは、義母が泣いている。ステージからは、弾けるような笑顔が向けられた。
夏樹が飛んで撥ねて、観客を煽っている。それに呼応するかのように、観客から腕が振り上げられた。それが波のようになり、ホール内が揺れる感覚が起きた。
ワーーーーーー!
あっという間にラスト近くになり、4月に出た新曲の紹介へ移った。少しだけ息を乱した夏樹が、マイク越しに語りかけた。大事な人を想って歌うと言っている。俺のことか?それ以外なら腹が立つ。いや、大事な人は沢山いる。我慢しておこう。
「……Far from heaven.天国から遠く離れて……、作曲は……、4月20日の発売です。そうです、俺の誕生日です。長生きするようにと祈念して、この発売日になりました……。笑う部分じゃないよ~」
ワーーーーーー!
パチパチパチ!
歓声と拍手が起きた。俺たちも笑った。夏樹がこちらを振り向いたのは、気のせいではないだろう。大型スクリーンへ、唇を尖らせた顔が映し出されたからだ。
観客が呼応して声をあげた。それを見て、メンバーが笑い出した。なんと温かみのあるステージなのか。背後にはグランドピアノがある。その前には悠人が立ち、お辞儀をして座った。一昨日と昨日はキーボードだった。
「裕理。悠人君が弾くのか?」
「そうだよ。猛練習していた」
歓声が落ち着いた頃、白い照明が夏樹達を差し下ろし、雫のような効果が広がった。グランドピアノから奏でられた旋律が、低音から高音へと進み、佐久弥のアコースティックギターが重なった。そして、夏樹が歌声を乗せた。
キーを下げたため、のびやかに声が出ている。それは冒頭のみで、一気に高音へ進んだ。マイク越しだが、そのままの声が広がっている感覚だ。いつの間に、これほど歌えるようになっていたのか。
「…… far from heaven……誰が間違っているの……それは大事なことなの……心の中にあるものを思い起こして……」
新曲のCDでは、バラード調だった。しかし、今回はコンサート用に変えると話していた通り、サビの後半からハードロック調へ移った。悠人はピアノで、ベースのパートを奏で続けている。夏樹の額からは、汗が滴った。照明の効果と合わさり、本当に雫のように見えた。
しんみりした空気の中、一気に曲調が変化した。次の曲に移った。赤い照明に包まれた後、聞き覚えのあるメロディーが流れ始めた。あの音楽番組のものだ。俺のことを誘惑するつもりで歌ったと言われた曲だ。背後では、義母たちが騒いでいる。
「おい、あの歌い方をするのか?」
「圭一さんのことを誘惑するんだろう。楽しみだね。すでに悩殺された人がいるみたいだね。”死にそう”って言っているよ……」
派手なギターフレーズの後、夏樹がスタンドマイクに手を添えた。大型スクリーンが映し出した夏樹のアップに、歓声が起きた。目を伏せがちにして、囁く仕草を始めたからだ。やめてもらいたいが、盛り上がりを見ると、そうはいかないのか。
ワーーーーー!ナツキーーー!
ユウトーーー!サクヤーーー!
高校時代の文化祭で歌っていた姿を思い出した。ステージに立っているのは、あれから3年経った姿だ。21歳になり大人びた。引っ込み思案な子が、観客に応えて手を振っている。怒号のような掛け声に包まれている。
周りからは ”悩殺された” と騒がれている。後ろからは、伊吹の暑苦しい声が聞こえてきた。誰かさんが妙なことを教えたからだと言っている。振り向いて睨みつけると、意味ありげに笑い掛けられた。
「聞かれると不味いことをしたんですか?」
「想像にまかせる」
「キャーーッ」
「なつきー!」
義母達が人形を振り上げた。夏樹達が手を振ったことで観客が盛り上がり、グッズを振り上げる観客が出てきた。
ステージを見届けることに忙しい。動画で観られるが、実際の姿を、なるべく多く脳裏に焼き付けた。
最後はサポートメンバーを呼んできて5人で両手をつなぎ合い、大きくジャンプをした。大歓声を送られて、ステージサイドへ戻って行く。さあ、控え室へ行くとするか。
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