白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 ソファーへ寝転がっているうちに、眠っていたようだ。目が覚めると、天井の照明が見えた。俺のところだけ消されている。そばには黒崎と長谷部さんがいた。そっと起き上がると、毛布が掛けられていた。

「寝てたんだ……。何時?」
「30分ぐらいよ。熟睡したのね。顔色がいいわ」
「すっきりしたよ。消耗して……んん、ごほ……」
「声が掠れている。喋るな」

 黒崎から止められた。喉に違和感がある。3日間、何ともなかったのに。終わったから安心して、身体が疲れたのかな?マイクが滑り落ちなかったのと同じだ。

 ふんわりと甘い匂いがした。ジンジャーシロップを、お湯で割ったものだった。少し冷ましてあると言い、黒崎がそばへ腰かけた。ゆっくりと飲ませてもらった。家の中では大雑把なくせに、やることが丁寧だ。家の中とは大違いだ。優しい眼差しを向けてくれているから、キスマークのことを許してあげようと思った。

「みんなは?ごほ……」
「俺が話す。黙っていろ」
「あんたね……」

 やっぱり偉そうだ。言い返すのをやめて飲み続けた。

「ご両親は親父と話している。心配することじゃない。積もる話があるからだ。伊吹君は万理ちゃんを連れて、佐久弥へ会いに行っている。……悠人君は、藤沢君と一貴の相手をしている。”友達募集”に協力してやるそうだ。あの名刺を見て呆れていたぞ」

 今日の開演前に、藤沢が訪ねてくれた。一貴さんの名刺のことを面白がっていた。大らかだし、好奇心旺盛な子だ。

(何でも出来るもんねえ。器用貧乏だって言っていたなあ……)

 ふと思いついた。藤沢と一貴さんが友達になれそうだと。不器用な人と、器用貧乏の組み合わせだからだ。藤沢は優しくて気づかい上手だ。一貴さんが何かやっても笑うだろう。それを考えると、早瀬さんと似ている。

 飲んでいるうちに暑くなってきた。毛布から出ると、着替えが済んでいた。汗も拭かれているようだ。何気なく聞くと、黒崎がやってくれたようだ。ここにも”気遣い上手”がいたのか。

 関係者への挨拶が済んでいるから、みんなのところへ行きたい。先に両親のところがいい。明日の飛行機で帰るからだ。

「お義父さんたち、ここのカフェにいるんだよね?会い行きたいよ……」
「向こうから来てもらえる。まだ話している。親父にとっては、数少ない話し相手だ」
「待っているよ……」

 立ち上った時、長谷部さんが黒崎へ声をかけた。表情が曇っているから、何かあったのだと分かった。少しの間をおいた後、黒崎から抱き寄せられた。落ち着いて聞くようにと。何を聞いても驚かないと思う。大丈夫だと首を振った。

「一貴が訴えられた」
「え?被害届は下げられたよね。別の人にもやっていたの?」
「ああ。悠人君が事情を聞かれるかもしれない。早瀬から話をしてある」
「一貴お兄ちゃんと一緒に居るんだよね?今、その話をしているの?」
「いいや。今日のコンサートのことを話していた。それはそれ、これはこれと整理を付けたからだ。悠人君は強い子だ。俺たちでサポートをする。一貴のこともだ。それに関しては、”やっていない”と言っている」

 何も言わずに黙っていて、つらかっただろう。あの件が全てだと思っていたのに。悠人に負担を掛けてばかりだ。すぐに駆け付けようとして、押し留められた。悠人には普段通りに接すること。彼の方から話すのを待てと言われた。俺は記事を見て知るのだろうか。

「俺に出来ることは、それだけ?」
「今のところは。お前が笑うと周りが和む。嫌になったら俺に話せ」
「お義父さんが話しているのは、弁護依頼のことかな?」
「もし巻き込まれるなら、お父さんが悠人君のことを担当する。森井物産の時と同じだ」
「よかった。少しでも……、迷惑にならないと……」

 どうして悠人ばかりが、こんな目に遭うのか。前から疑問を持っている。みんなのところへ行くよ。そう言って勢いよく立ち上った後、テーブルの角に足をぶつけてしまった。しかし、黒崎に支えてもらったから、転ばずに済んだ。

 半泣きで真っ赤な顔をしている時に、ドアがノックされた。そこに立っていたのは、悠人と早瀬さんだった。彼らが俺を見て駆け寄ってきた。

「なつきー、フラついたの?」
「黒崎さんっ。笑うなよ~」
「夏樹君。怪我をしていないか?」

 早瀬さんから、ズボンをまくり上げられた。すると、黒崎がそばへやって来た。ヤキモチを妬く相手ではないだろう。結局は言い合いに発展して、口を聞かないまま控え室を出た。
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