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20-4(黒崎視点)
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12時。
大学へ到着後、教務課棟へ入り、担当者と挨拶を済ませた。ホール内の案内を申し出られたが、段取りは完了している。学内を散策したいからと断り、学食へ向かった。夏樹へ会いに行くとは言わずに。
夏樹からは連絡が来ていない。今日は慌ただしいのか。1号棟から出てくる学生たちは、変わった様子はない。学食が並ぶ建物の方へ歩いている。夏樹に電話をかけると、機嫌を損ねそうだ。これでも控えめにしているのだが。
「何かあったのか……」
昨日あたりから、コンサートの疲れが出てきた様子だ。気力は充実しているが、体力が追い付いていない。コンサートチケットは完売で、ステージは大成功におさめられた。演奏や歌の評価が高く、新曲がラインクインした。各所から出演オファーが入っているが、受け入れていない。急いで詰め込んで、身体を壊させたくないからだ。
悠人のマネジメント側にも理解されている。それぞれに違うルートを敷いてある。同じバンドメンバーだからと、同じ道順にしなくてもいい。“DD”を始める地点は同じだ。
音楽一本で育てるだけでなく、他の方面も経験させたい。悠人にはMIDSHIPを、夏樹には黒崎製菓を経験させる。ステージを下りた後も、居場所が出来ているように。あの子の居場所は、俺の元であってほしい。外に出したくない。家の中にしか居てほしくない。この思いを抑え込んでいる状況だ。
(そろそろ電話をかけよう。……悠人君か?)
1号棟の出入り口から、掛け声が聞こえてきた。悠人の後ろ姿が目に入った。夏樹が男子学生達から担ぎ上げられている。すぐに向かおうとして足を止めた。笑い声が聞こえてきたからだ。
「ごめんね~。フラついてさ~」
「気にするなよ。保健センターへ連れて行く」
「なつきー、黒崎さんへ電話をかけてあげるよ。心配しているだろ?」
「自分でかけるよ~」
彼らが保健センターへ向かう姿を眺めた。すでに居場所が出来ていることを目の当たりにして、胸が痛くなった。ああいう光景を願っていたというのに。心のどこかでは、大学へ行きたくない、ステージへ上がりたくないと、言い出すのを望んでいたのか。
彼らの方へ歩き始めると、夏樹が視線を向けて来た。大きな目を見開いて、”黒崎さん”と、名前を呼んだ。そばへ行くと、悠人たちが安心した顔になった。
「すまない。世話をかけた」
「夏樹が倒れたんです。実は……」
悠人から訳を聞かされた。授業を聞いてはいたが、最後に倒れ込んだそうだ。そこで、周りからの笑いを取る形にして、運んで行くところだそうだ。大袈裟にしないために。
やれやれと息を吐き、気持ちを切り替えた。助けてもらえる仲間がいるなら安心だ。すると、夏樹の嗚咽が聞こえてきた。白い頬を赤く染めて、唇を尖らせていた。
「黒崎さ~~ん」
「どうしたんだ?」
「ひっく……。心配かけてごめんね……」
そばへ行くと泣き出してしまった。大学3年生になろうが、根本は変化がないのか。俺を見て安心して泣き出すなら、悪くない心地だ。その嬉しい気持ちを隠し込み、わざと呆れた声を出した。
「ドーナツが地面に落ちて、ショックを受けたのか?絵本を買い忘れたのか?」
「違うよ~。心配をかけたからだよ~」
「どうだかな。保健センターの常連客になったのか」
歩こうとした身体を、日下たちに抱き上げてもらった。俺がやるよりも恥ずかしくないだろう。通り過ぎていく学生たちが笑っているからだ。こういう配慮を夏樹相手に出来るようなった。俺は成長できたようだ。
開演までは、準備を含めても一時間以上ある。念のためにベッドで休ませて、付き添うことにした。
保健センターの受付へ入ると、本当に常連であることが分かった。”今日はどこを擦りむいたのか”と、スタッフが駆け寄ってきたからだ。しかし、それは悠人へ向けたものだった。今日は夏樹の方ですと、慌てて否定していた。
大学へ到着後、教務課棟へ入り、担当者と挨拶を済ませた。ホール内の案内を申し出られたが、段取りは完了している。学内を散策したいからと断り、学食へ向かった。夏樹へ会いに行くとは言わずに。
夏樹からは連絡が来ていない。今日は慌ただしいのか。1号棟から出てくる学生たちは、変わった様子はない。学食が並ぶ建物の方へ歩いている。夏樹に電話をかけると、機嫌を損ねそうだ。これでも控えめにしているのだが。
「何かあったのか……」
昨日あたりから、コンサートの疲れが出てきた様子だ。気力は充実しているが、体力が追い付いていない。コンサートチケットは完売で、ステージは大成功におさめられた。演奏や歌の評価が高く、新曲がラインクインした。各所から出演オファーが入っているが、受け入れていない。急いで詰め込んで、身体を壊させたくないからだ。
悠人のマネジメント側にも理解されている。それぞれに違うルートを敷いてある。同じバンドメンバーだからと、同じ道順にしなくてもいい。“DD”を始める地点は同じだ。
音楽一本で育てるだけでなく、他の方面も経験させたい。悠人にはMIDSHIPを、夏樹には黒崎製菓を経験させる。ステージを下りた後も、居場所が出来ているように。あの子の居場所は、俺の元であってほしい。外に出したくない。家の中にしか居てほしくない。この思いを抑え込んでいる状況だ。
(そろそろ電話をかけよう。……悠人君か?)
1号棟の出入り口から、掛け声が聞こえてきた。悠人の後ろ姿が目に入った。夏樹が男子学生達から担ぎ上げられている。すぐに向かおうとして足を止めた。笑い声が聞こえてきたからだ。
「ごめんね~。フラついてさ~」
「気にするなよ。保健センターへ連れて行く」
「なつきー、黒崎さんへ電話をかけてあげるよ。心配しているだろ?」
「自分でかけるよ~」
彼らが保健センターへ向かう姿を眺めた。すでに居場所が出来ていることを目の当たりにして、胸が痛くなった。ああいう光景を願っていたというのに。心のどこかでは、大学へ行きたくない、ステージへ上がりたくないと、言い出すのを望んでいたのか。
彼らの方へ歩き始めると、夏樹が視線を向けて来た。大きな目を見開いて、”黒崎さん”と、名前を呼んだ。そばへ行くと、悠人たちが安心した顔になった。
「すまない。世話をかけた」
「夏樹が倒れたんです。実は……」
悠人から訳を聞かされた。授業を聞いてはいたが、最後に倒れ込んだそうだ。そこで、周りからの笑いを取る形にして、運んで行くところだそうだ。大袈裟にしないために。
やれやれと息を吐き、気持ちを切り替えた。助けてもらえる仲間がいるなら安心だ。すると、夏樹の嗚咽が聞こえてきた。白い頬を赤く染めて、唇を尖らせていた。
「黒崎さ~~ん」
「どうしたんだ?」
「ひっく……。心配かけてごめんね……」
そばへ行くと泣き出してしまった。大学3年生になろうが、根本は変化がないのか。俺を見て安心して泣き出すなら、悪くない心地だ。その嬉しい気持ちを隠し込み、わざと呆れた声を出した。
「ドーナツが地面に落ちて、ショックを受けたのか?絵本を買い忘れたのか?」
「違うよ~。心配をかけたからだよ~」
「どうだかな。保健センターの常連客になったのか」
歩こうとした身体を、日下たちに抱き上げてもらった。俺がやるよりも恥ずかしくないだろう。通り過ぎていく学生たちが笑っているからだ。こういう配慮を夏樹相手に出来るようなった。俺は成長できたようだ。
開演までは、準備を含めても一時間以上ある。念のためにベッドで休ませて、付き添うことにした。
保健センターの受付へ入ると、本当に常連であることが分かった。”今日はどこを擦りむいたのか”と、スタッフが駆け寄ってきたからだ。しかし、それは悠人へ向けたものだった。今日は夏樹の方ですと、慌てて否定していた。
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