白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 12時半。

 20階のオフィスへ戻ってきた。黒崎のデスクの後ろで、社員食堂のランチを食べている。黒崎は忙しくて、サンドイッチを早食いした。秘書時代に培ったものだそうだ。

 一貴さんから連絡が入り、もうすぐで迎えに来てくれる。だから家に帰ってから食べると言うと、だめだと言われて、ランチを取った。適当に済ますからだとも言われた。お見通しだった。

 食べて済んだ頃に、早瀬さんがやって来た。上の階で見た時よりも柔らかい雰囲気だ。さっそく黒崎がイジっている。

「夏樹が言っていたぞ。お前のことが怖かったそうだ。二葉から”女性だからと遠慮するな”と、リクエストを受けたそうだ。だから裕理が必死で怖い人になっている。労ってやれ」
「そうだったんだ?」
「そうだよ。社長のことを恨んでいるそうだ。この会社を奪い取る。そのつもりでやっていると話してくれた。そのうち変わるから、心配はしていない。ああ、向こうにも変化した子がいる」

 その話に驚いていると、目を引く光景があった。理久がこっちへ歩いてきた。黒崎が手招きしている。甘酒製造機の仕上げ段階で、持ちこんで来たそうだ。オフィスだからだろうか。ずい分と雰囲気が変わった。理知的というか、静かな感じだ。早瀬さんが理久を見て苦笑した。

「理久が大学の人間関係に悩んでいただろう?割り切ったようだ。夏樹君と同じことを話していた。”嫌うなら、勝手に嫌え。視界の隅にも入れない”って。どう思う?」
「これから変わるよ。俺みたいに……」

 黒崎へ試作品を見せた表情は今まで通りだ。俺たちへ向けた笑顔も。枝川さんが心配そうにしている。すると今度は黒崎が呆れたように笑った。視線の先には、一貴さんが立っていた。ロビーで待ち合わせだったのに、ここへ来てくれた。気を遣ってくれたのか。

「一貴お兄ちゃん、ありがとう。急がせてごめんね」
「おまたせ。気にするな。裕理君にも会いたくて来た。シャルロットキッチンで、お茶をしないか?席を予約済みだ」

 黒崎が”相手をしてくれ”と、早瀬さんに振り向いた。すると、しぶしぶOKをもらった。最近、早瀬さんに迷惑をかけたらしい。それでも一貴さんが嬉しそうに笑った。天真爛漫なお兄ちゃんだ。

 俺たちを見送るようにして、黒崎が微笑んだ。今日はいい日だ。悲しい思い出が甦った後、先へ進んだからだ。変化したのは、黒崎も同じだ。一貴さんの手を引いて、3人でオフィスを出た。
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