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どちらの計画だろう?黒崎には社長と副社長、どちらかの選択肢があった。深川さんとの話では、副社長だった。しかし、お義父さんが、黒崎には社長が良いと言って譲らなかったそうだ。早瀬さんにはR&W社だ。大人しく待っていると、黒崎が微笑んだ。
「俺は副社長のポストだ。深川さんが代表取締役だ。……裕理には、黒崎製菓に残ってもらう。専務取締役として。経営戦略部長も兼ねている。R&W社へは数年先になる」
「よかったね……。希望を叶えてくれたんだね。初めてだろ?お義父さんが聞いてくれたのは……」
「ああ。雷雨になりそうだ。この年で信用された」
黒崎の表情が晴れ渡っている。大きな変化を迎えた。お義父さんは優しい人になったが、意見を譲ろうとしなかったという。黒崎にとっては拓海さんと一緒に働きたかった夢が昇華された。そして36歳になり、自分の希望が叶えられたのか。よかったねと、珈琲を奪い取って飲んだ。泣きそうなるのを誤魔化すために。黒崎が苦笑交じりに追加を頼んだ。
これから忙しくなりそうだ。趣味のないお義父さんには、何かやることがあるのかな。アンと一緒に居たいからと、今回は連れて来られなかった。年末の温泉旅行にアンも連れて行く計画だと言ったら、沈み込んでしまったそうだ。遠藤さんからそう聞いた。
「親父か。ユリウスが来たから、少しは気が紛れている。すごい子だ」
「悪戯がすごいもんね。アンと気が合うわけだよ。靴下をソファーの下へ集めてるし。お土産を買っておこうか?明日はドライブするから。……あれ、お兄ちゃんからのラインだ」
「どの兄貴だ?」
「シークレットな件が落ち着きを失った人。……あんたのことじゃないよ。おじさん全開でドン引くよ。……電話できるかだって?」
今日の旅行のことは話してある。実家のことが心配だった。伊吹なら遠慮なしに踏み込むから心強い。すぐに電話をかけると、会社に居るようだった。
「もしもし。どうしたの?」
「お前に話すことがある。俺が考えて決心した。黒崎さんと一緒に居るだろう?」
「うん。ここに居るよ。ドキドキするよ……」
「黙っているつもりだった。このままじゃ後悔することになる。……お母さんのことだ」
覚悟していたことだ。母は白髪染めを止めていた。あれだけ白髪を嫌がっていたのに。少し痩せてもいた。黒崎から手を握られた。知っているのか。そして、伊吹から、ゆっくりと聞かされた。俺の相づちを待ちながらだ。
「お母さんは狭心症で病院へかかっている。元から心臓が丈夫じゃないのがお前に遺伝したと悔やんでいる。だから黙っていた。お前と万理の前では、倒れたことがない。お前は親の死に目に会えない仕事をしている。今のうちに会っておけ。今すぐに何か起きるわけじゃない」
俺は21歳だ。伊吹だけに抱えさせるわけにはいかない。情けないことに、涙が零れ落ちた。伊吹からは、お母さんの前で泣かないなら、OKだと言われた。
伊吹の声は子守唄のようだった。中性的な声質が、クリアに耳に入ってくる。俺とよく似たものだ。一人ではないと実感した。万理もいるし、黒崎もいる。父が守っているから、俺の出番はないかもしれない。こんな泣き虫の息子でも、元気を分けられるかな?
「お前の顔を見たいに決まっている。ヴィジブルレイが終わる10月末までには帰ってやれ」
「うん。帰るよ。2泊ぐらいする。……どうしたの?黒崎さん?飛行機を取るの?」
黒崎から肩を叩かれた。たった今、手配済だと言われた。伊吹にも聞こえていて、電話をかわった。ありがとうございますと、落ち着いた声が聞こえてきた。
明日の12時の飛行機が取れたそうだ。黒崎と2人で帰ることと、今晩はホテルで過ごそうと決めた。伊吹に伝えた後、母へ電話をかけた。すると、母はビックリしていた。バレたの?と笑いながら。笑い事じゃないよと、ツッコミを入れた。
「明日、帰るよ」
「今度でいいわよ。いきなりじゃないの」
「息子の言うことを聞いてよ」
「あら。偉そうに言ったわね。泣いたくせに」
「帰るからね」
「分かった。待ってるわ。誘惑ステージも歌って見せてね」
「うひゃひゃ」
気をつけてねと言い、母が笑っていた。強気に話して正解だった。振り向くと黒崎が笑っていた。偉そうな息子になれたのかと言いながら。
「お土産を買わないとね。ジャムのお店があるんだ。お母さん達が好きだから……」
「絵本の店にも行こう。明日の朝まで時間がある。ゆっくり過ごすぞ。夕食が美味そうだ。朝食もだ。地元の新鮮食材を使っている」
「うん。歩いたらお腹が空くよね~」
お皿に残ったソフトクリームとクッキーを食べた後、立ち上った。地元には会いたい人たちがいる。黒崎と暮らし始めたマンションも、外から見たい。あれこれ話しながら、ノスタルジックな商店街を歩き始めた。
「俺は副社長のポストだ。深川さんが代表取締役だ。……裕理には、黒崎製菓に残ってもらう。専務取締役として。経営戦略部長も兼ねている。R&W社へは数年先になる」
「よかったね……。希望を叶えてくれたんだね。初めてだろ?お義父さんが聞いてくれたのは……」
「ああ。雷雨になりそうだ。この年で信用された」
黒崎の表情が晴れ渡っている。大きな変化を迎えた。お義父さんは優しい人になったが、意見を譲ろうとしなかったという。黒崎にとっては拓海さんと一緒に働きたかった夢が昇華された。そして36歳になり、自分の希望が叶えられたのか。よかったねと、珈琲を奪い取って飲んだ。泣きそうなるのを誤魔化すために。黒崎が苦笑交じりに追加を頼んだ。
これから忙しくなりそうだ。趣味のないお義父さんには、何かやることがあるのかな。アンと一緒に居たいからと、今回は連れて来られなかった。年末の温泉旅行にアンも連れて行く計画だと言ったら、沈み込んでしまったそうだ。遠藤さんからそう聞いた。
「親父か。ユリウスが来たから、少しは気が紛れている。すごい子だ」
「悪戯がすごいもんね。アンと気が合うわけだよ。靴下をソファーの下へ集めてるし。お土産を買っておこうか?明日はドライブするから。……あれ、お兄ちゃんからのラインだ」
「どの兄貴だ?」
「シークレットな件が落ち着きを失った人。……あんたのことじゃないよ。おじさん全開でドン引くよ。……電話できるかだって?」
今日の旅行のことは話してある。実家のことが心配だった。伊吹なら遠慮なしに踏み込むから心強い。すぐに電話をかけると、会社に居るようだった。
「もしもし。どうしたの?」
「お前に話すことがある。俺が考えて決心した。黒崎さんと一緒に居るだろう?」
「うん。ここに居るよ。ドキドキするよ……」
「黙っているつもりだった。このままじゃ後悔することになる。……お母さんのことだ」
覚悟していたことだ。母は白髪染めを止めていた。あれだけ白髪を嫌がっていたのに。少し痩せてもいた。黒崎から手を握られた。知っているのか。そして、伊吹から、ゆっくりと聞かされた。俺の相づちを待ちながらだ。
「お母さんは狭心症で病院へかかっている。元から心臓が丈夫じゃないのがお前に遺伝したと悔やんでいる。だから黙っていた。お前と万理の前では、倒れたことがない。お前は親の死に目に会えない仕事をしている。今のうちに会っておけ。今すぐに何か起きるわけじゃない」
俺は21歳だ。伊吹だけに抱えさせるわけにはいかない。情けないことに、涙が零れ落ちた。伊吹からは、お母さんの前で泣かないなら、OKだと言われた。
伊吹の声は子守唄のようだった。中性的な声質が、クリアに耳に入ってくる。俺とよく似たものだ。一人ではないと実感した。万理もいるし、黒崎もいる。父が守っているから、俺の出番はないかもしれない。こんな泣き虫の息子でも、元気を分けられるかな?
「お前の顔を見たいに決まっている。ヴィジブルレイが終わる10月末までには帰ってやれ」
「うん。帰るよ。2泊ぐらいする。……どうしたの?黒崎さん?飛行機を取るの?」
黒崎から肩を叩かれた。たった今、手配済だと言われた。伊吹にも聞こえていて、電話をかわった。ありがとうございますと、落ち着いた声が聞こえてきた。
明日の12時の飛行機が取れたそうだ。黒崎と2人で帰ることと、今晩はホテルで過ごそうと決めた。伊吹に伝えた後、母へ電話をかけた。すると、母はビックリしていた。バレたの?と笑いながら。笑い事じゃないよと、ツッコミを入れた。
「明日、帰るよ」
「今度でいいわよ。いきなりじゃないの」
「息子の言うことを聞いてよ」
「あら。偉そうに言ったわね。泣いたくせに」
「帰るからね」
「分かった。待ってるわ。誘惑ステージも歌って見せてね」
「うひゃひゃ」
気をつけてねと言い、母が笑っていた。強気に話して正解だった。振り向くと黒崎が笑っていた。偉そうな息子になれたのかと言いながら。
「お土産を買わないとね。ジャムのお店があるんだ。お母さん達が好きだから……」
「絵本の店にも行こう。明日の朝まで時間がある。ゆっくり過ごすぞ。夕食が美味そうだ。朝食もだ。地元の新鮮食材を使っている」
「うん。歩いたらお腹が空くよね~」
お皿に残ったソフトクリームとクッキーを食べた後、立ち上った。地元には会いたい人たちがいる。黒崎と暮らし始めたマンションも、外から見たい。あれこれ話しながら、ノスタルジックな商店街を歩き始めた。
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