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15時半。
ホテルにチェックインを済ませた後、父の事務所に出向いた。その中山法律事務所は駅の近くにある。官公署が周りに多いから静かな環境だ。全く景色が変わっていない。
黒崎が荷物を持ってくれた。スタッフへ渡すお土産だ。旅先で買った焼き菓子と、濃縮ジュースだ。この季節に合う。けっこう重さがあるのに、黒崎は軽々と持っている。
「黒崎さん。ギックリ腰に気をつけようね」
「労ってくれ」
「えーっと。ちゃんとあったよ。お父さんの事務所」
「悪い発想だ」
「うひゃひゃ。冗談だよ~」
ビルの3階へ上がり、中山法律事務所と表札があるドアのインターフォンを鳴らした。そして、ドアが開くと同時に拍手が起きた。ドアの向こうでは、小学生の頃から知っている人達が笑っていた。立派になってと言ってくれた。子供の頃からここの事務所に来ていたから、みんなが俺のことを知っている。
事務所にはヴィジブルレイのポスターが貼ってあった。小さめのサイズだ。胸がじーんと熱くなり、涙が滲んだ。すると、俺のことを見て、変わってないじゃないと、別の笑いが起こった。
「夏樹君、泣いているじゃない」
「みんなが優しいからだよ~」
奥の方から母が出てきた。また泣いているの?と言われたから、泣いてないよと言い返して、抱きついた。5月よりも、母の身体が小さくなった気がした。病気のことを知ったからかな?痩せたのかもしれない。
「黒崎家の方は大丈夫なの?お父さんとは電話で話したけど。圭一さん。座って下さい。すぐにお茶を……。あら……」
「黒崎さん……」
どこでも同じなのか。黒崎がスタッフに囲まれていた。いい男ねーと。黒崎が微笑んだら、ため息が広がった。ここでは嬉しい気持ちになった。ここへ連れてきたのは初めてだ。まだ紹介していない。都内へ行くことがバタバタと決まり、受験が重なったからだ。当時のメンバーと同じだから照れくさい。
「パートナーの黒崎さんだよ。シャルロットの生みの親。ピアノが上手で、俺が書いた絵本の挿絵を描いてくれたんだ。15日にサイトに掲載される。よかったら見てください。この外見だけど、夢のある表現をするんだ」
「あのなあ……」
「……え?知っていたの?」
みんなが黒崎のことを知っていた。俺が高校生の時、何度も父を訪ねて来たそうだ。片想い中と同棲中には、こっぴどく父から叱られていたという。黒崎は当時のことに触れられて、嫌がる素振りがない。ご迷惑をお掛けしましたと話していた。
「なんだよーー。みんな知っていたんだ。緊張したのに」
「夏樹君には内緒にしていたのよ」
「あれ?お父さんは?」
父の姿がない。すると、外から帰ってきた。4階の資料室に行っていたそうだ。父が持っているファイルの一つに目が釘付けになった。ーー夏樹の記録と書かれている。
「ああ……」
黒崎たちが焦った素振りを見せた。アルバムではないだろう。黒崎に詰め寄ると、白状した。俺が黒崎家で住み始めた後、月に一度、実家の両親へ様子を報告していたそうだ。検診結果、レポート課題の評価、黒崎家の出来事。その時の俺の様子が、レポート化されている。家庭菜園を始めた日のことも書かれている。畑づくりの写真。ナツツバキのクリスマスツリー化。悠人と佐久弥、森本達の写真もある。成人のつどいでは、伊吹と撮った写真も貼られていた。
「恥ずかしいからさ~。大学の成績と検診結果だけにしてよ」
「感謝しなさい。圭一さんは忙しいのよ?こうして細かく……」
「黒崎さーん」
「読んでくれる人がいる。よかったな」
「うん……」
分かっている。表では文句を口にしているが、愛情を受け取った。去年の俺なら、どんな反応をしただろう?恥ずかしがるだけの気がする。どういう違いがあるのかな?音楽の仕事を始めたからか?家族が増えたことでの成長か?それでも、変わらないものがある。涙ぐんでしまったことだ。
こっちへ座ってと、スタッフの一人に促されて、ソファーへ腰かけた。お土産で持って来た濃縮ジュースを炭酸水で割って出してくれた。これでランドセルがあればいいのにと、笑われた。
両親が遅くなる日には、万理と2人で訪ねてきた。ランドセルを置いて宿題をしていた。その机がそばにある。随分と低く感じる。もっと広いと思っていた。剣道の部活が終わった後、伊吹が迎えに来てくれた。試合出場を控えている時でもだった。
「良い場所だったでしょう?旅行先」
「うん。また今度、行くよ。お母さん、身体はどう?」
「私は平気よ。また泣いてる……」
黒崎から涙と鼻水を拭いてもらいながら、ジュースと焼き菓子を食べた。母から背中をさすられながらだった。
ホテルにチェックインを済ませた後、父の事務所に出向いた。その中山法律事務所は駅の近くにある。官公署が周りに多いから静かな環境だ。全く景色が変わっていない。
黒崎が荷物を持ってくれた。スタッフへ渡すお土産だ。旅先で買った焼き菓子と、濃縮ジュースだ。この季節に合う。けっこう重さがあるのに、黒崎は軽々と持っている。
「黒崎さん。ギックリ腰に気をつけようね」
「労ってくれ」
「えーっと。ちゃんとあったよ。お父さんの事務所」
「悪い発想だ」
「うひゃひゃ。冗談だよ~」
ビルの3階へ上がり、中山法律事務所と表札があるドアのインターフォンを鳴らした。そして、ドアが開くと同時に拍手が起きた。ドアの向こうでは、小学生の頃から知っている人達が笑っていた。立派になってと言ってくれた。子供の頃からここの事務所に来ていたから、みんなが俺のことを知っている。
事務所にはヴィジブルレイのポスターが貼ってあった。小さめのサイズだ。胸がじーんと熱くなり、涙が滲んだ。すると、俺のことを見て、変わってないじゃないと、別の笑いが起こった。
「夏樹君、泣いているじゃない」
「みんなが優しいからだよ~」
奥の方から母が出てきた。また泣いているの?と言われたから、泣いてないよと言い返して、抱きついた。5月よりも、母の身体が小さくなった気がした。病気のことを知ったからかな?痩せたのかもしれない。
「黒崎家の方は大丈夫なの?お父さんとは電話で話したけど。圭一さん。座って下さい。すぐにお茶を……。あら……」
「黒崎さん……」
どこでも同じなのか。黒崎がスタッフに囲まれていた。いい男ねーと。黒崎が微笑んだら、ため息が広がった。ここでは嬉しい気持ちになった。ここへ連れてきたのは初めてだ。まだ紹介していない。都内へ行くことがバタバタと決まり、受験が重なったからだ。当時のメンバーと同じだから照れくさい。
「パートナーの黒崎さんだよ。シャルロットの生みの親。ピアノが上手で、俺が書いた絵本の挿絵を描いてくれたんだ。15日にサイトに掲載される。よかったら見てください。この外見だけど、夢のある表現をするんだ」
「あのなあ……」
「……え?知っていたの?」
みんなが黒崎のことを知っていた。俺が高校生の時、何度も父を訪ねて来たそうだ。片想い中と同棲中には、こっぴどく父から叱られていたという。黒崎は当時のことに触れられて、嫌がる素振りがない。ご迷惑をお掛けしましたと話していた。
「なんだよーー。みんな知っていたんだ。緊張したのに」
「夏樹君には内緒にしていたのよ」
「あれ?お父さんは?」
父の姿がない。すると、外から帰ってきた。4階の資料室に行っていたそうだ。父が持っているファイルの一つに目が釘付けになった。ーー夏樹の記録と書かれている。
「ああ……」
黒崎たちが焦った素振りを見せた。アルバムではないだろう。黒崎に詰め寄ると、白状した。俺が黒崎家で住み始めた後、月に一度、実家の両親へ様子を報告していたそうだ。検診結果、レポート課題の評価、黒崎家の出来事。その時の俺の様子が、レポート化されている。家庭菜園を始めた日のことも書かれている。畑づくりの写真。ナツツバキのクリスマスツリー化。悠人と佐久弥、森本達の写真もある。成人のつどいでは、伊吹と撮った写真も貼られていた。
「恥ずかしいからさ~。大学の成績と検診結果だけにしてよ」
「感謝しなさい。圭一さんは忙しいのよ?こうして細かく……」
「黒崎さーん」
「読んでくれる人がいる。よかったな」
「うん……」
分かっている。表では文句を口にしているが、愛情を受け取った。去年の俺なら、どんな反応をしただろう?恥ずかしがるだけの気がする。どういう違いがあるのかな?音楽の仕事を始めたからか?家族が増えたことでの成長か?それでも、変わらないものがある。涙ぐんでしまったことだ。
こっちへ座ってと、スタッフの一人に促されて、ソファーへ腰かけた。お土産で持って来た濃縮ジュースを炭酸水で割って出してくれた。これでランドセルがあればいいのにと、笑われた。
両親が遅くなる日には、万理と2人で訪ねてきた。ランドセルを置いて宿題をしていた。その机がそばにある。随分と低く感じる。もっと広いと思っていた。剣道の部活が終わった後、伊吹が迎えに来てくれた。試合出場を控えている時でもだった。
「良い場所だったでしょう?旅行先」
「うん。また今度、行くよ。お母さん、身体はどう?」
「私は平気よ。また泣いてる……」
黒崎から涙と鼻水を拭いてもらいながら、ジュースと焼き菓子を食べた。母から背中をさすられながらだった。
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