白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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24-10

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 18時。

 今夜の食事の店に行くまでの間、市内をぶらぶらした。両親達とは店で合流する。今日は行きたい場所が沢山あり、時間が限られているから厳選した。

 到着した先は、繁華街の中に建つマンションだ。初めて2人で暮らし始めた家だ。それから3か月後に引っ越した先が、高塚アイランドだ。さっきまで遊びに行っていた。お世話になった人達へ挨拶を済ませた。

 マンションの前に立ち、15階を見上げると、懐かしい記憶が蘇った。さすがに外からしか見られない。黒崎が住んでいた部屋には新しい住人がいるという。黒崎と並んで立ち、当時のことを話した。

「俺さ~。コンビニへも行けなくてさ。ふん……」
「危なっかしいからだ。この辺りは、夜は危険だった」
「そうだったね。でも、昼間でも一人で出してくれなかったよ?」
「今でも出したくない。これでも譲っている」

 今は広い庭があるから満足している。元からウロつくタイプではないから、閉じ込められている感覚が無い。本屋では何冊も本を買うから、重くて持って帰れない。だから黒崎と一緒に行くのは当たり前だ。スーパーのまとめ買いも同じ理由だ。物は考えようだ。成長という名の、図々しさを身につけた。

「あの頃はあんたのことが怖かったからねえ。おかげで痴漢に遭わずに済んだよ。ウンウン……」
「どう思われてもいい。誰にも見せたくない。さっきは写真を撮られようとしていた」

 丸池公園広場へ寄った時のことだ。ソフトクリームを食べていると、男の子からスマホを向けられていた。声をかけると止めたし、少しだけ話した。佐久弥のファンだった。俺じゃないのかとツッコむと、照れくさそうに笑っていた。その時から黒崎の機嫌が悪い。

 社交的になっているからだと、はっきり言われた。誰とでも気軽に話さなかったのにと言っている。プライベートでは元の俺に戻れとまで言われた。

「機嫌を直せよ~。極度の引っ込み思案だと、黒崎製菓でも働けないよ?Natsukiとしてなら、話す勇気が出るんだ。歌を聴いて、好きだと思った人だよ。ありがとうって伝えたいもん」
「いい成長だ。分かっている。もっと寄って来い」
「これ以上は無理だよ。黒崎さーん……」

 ここは歩道だ。人が歩いているのに。背後から抱きつかれた後、マンションを見上げた。誰にも見せない。俺のことだけ見てくれ。話しかけられるな。耳元で響いたのは、本気で拗ねている口調だった。

 我が家にアンが来たのは、ここで暮らしている時だ。すぐに引越しを考えていたそうだ。安全な散歩コースがないし、自然の多い場所が、俺には良さそうだと思ったからだ。セキュリティ対策も考えてのことだった。高塚アイランドは、全てが揃っていた。

 二人と一匹の暮らしを”家庭”として意識したのが、その頃だという。早瀬さんからそう聞いたことがある。その頃から黒崎の話し方が柔らかくなり、休日の計画を立て始めたそうだ。俺とアンが楽しめるコースをと。その話をすると、黒崎が否定した。可愛い人だ。 

(ふふん。素直じゃないな……。え……?)

 振り向いて、ぎょっとした。女性から声を掛けられている。雰囲気からすると知り合いだ。元の取引先らしい。”うちの専務が”と話している。 

「お引っ越しされた後、社内は沈み込みましたよ。素敵な方だから。覚えていらっしゃいますか?海岸線のレストラン。キセア・ラカンを……」
「ご一緒しましたか?会食だったか……」

 その話を聞き、元デート相手だと察した。その店はホテルの高層階にある。会食には利用しない。その違いを理解できるようになった。
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