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大学の友達の絵理奈ちゃんから教わったことがある。こういう話の時、奪い取る気はないはずだということだ。この後でパートナーの機嫌を取るのが大変だ。つまりは黒崎を困らせたい目的だ。それをやるのは軽めの付き合いの人で、友達の域を超えない。余裕を持ち、聞かないふりをするのがベターだという。
(後でオロオロしろよ。ふふん……)
これで数日間のネタには困らない。偉そうにすれば、引き合いに出してやる。少し離れるふりをして、マンションのエントランスを眺めた。しかし、すぐに気になって来た。信号を眺めるふりをして、二人の方を向いた。女性の右手の薬指にはリングがある。黒崎が視線を向けて微笑んだ。女性も同じだ。
「思い出しました。こうしていると当時のようだ」
「あら。やっと?……お幸せですか?」
「聞かないで下さい。嘘をつくのは上手じゃない。……素敵なアクセサリーですね。妬きそうだ」
「こちらこそ聞かないで。優しい嘘は下手なの」
駆け引きだと分かっているが、だんだん腹が立ってきた。俺は21歳の大人だからと、ぐっと我慢した。すると、黒崎から肩を抱かれた。そして、この子が拗ねていると言い出した。
「ご存知でしょう?この子が夏樹です。僕のパートナーです」
微笑みを浮かべながら、彼女に紹介された。控えめな笑顔を浮かべればいいのに、本音が出てしまいそうだ。俺の黒崎に近づいて欲しくないと。すると、黒崎から背中をさすられた。
(なんだよ。大人の男女には、かないっこないよ……)
俺は恋愛経験豊富ではない。駆け引きなど覚える必要がなかった。いつだって黒崎は俺のことだけを見ていて、おかしくなったのかと疑うほどの束縛を受けた。自信を持てるはずが、二人の間に漂う、濃密さを軽くさせた時間が感情を刺激した。
「夏樹。疲れたのか。店へ移動するか?」
「ううん!もっとここを見ていくんだ!」
「ああ、どうした。足が痛くなったのか」
「痛くない。知らない!先に行くからね!」
みっともない自覚はしている。遠くの方からタクシーが走ってきた。あれに乗ろうとして肩を引かれた。財布を持っていないだろうと。確かにその通りだ。バッグの中には、スマホ、ハンカチ、目薬。メガネ、1DAYコンタクトだけだ。どこにも行けない。
だったら歩いて行けばいい。土地勘があるから大丈夫だ。ここから15分以内ぐらいだから、お腹が減って丁度いい。
すると、信号を渡ろうとして黒崎から腕を掴まれた。どこへ行くのかと。女性へ会釈して立ち去ろうとすると、彼女が小走りに来た。焦った顔をしている。
「年甲斐もなく、すみませんでした。可愛らしい子を捕まえたから、苛めたくなって……。ご活躍を拝見しています。Far from heavenも聴きました……」
「あ……、すみませんでした……」
彼女から顔を赤くして謝られた。黒崎が悪のりするから招いたことだ。そう話すと首を振られた。大人げなかったと、重ねて謝られた。やっぱりデート相手だったのか。
彼女のスマホの待ち受け画面には、悠人がいた。特典の”味噌汁ストラップ”も見せてくれた。本当にファンなのか。有難い気持ちが大きくなった。
お詫びにと、会社が経営しているラウンジに招待を受けた。しかし、両親と食事をするからと、丁寧に断った。すると、次の仕事があると、彼女が去っていった。もちろん笑顔で別れた。
残されたのは俺たち二人だ。誤解は解けたが、駆け引きをした事実がある。黙って黒崎のことを見つめると、オロオロし始めた。
3年前の関係性とは、まるで違うと感じる。同じ事が起きた時には、甘く囁かれて、水に流していた。黒崎は悪いと思っていなかった可能性がある。今は本気で謝っている。黒崎の方から身体に触れてこようとしないからだ。
「すまなかった。手早く話を済ませる方法だと思ったからだ」
「専務によろしくって笑っておけばよかったじゃん」
「そうだな」
俺の身になってもらいたい。例えば沙耶さんが居れば、ああいうものよと教えてもらえた。それぐらい疎いと分かっているだろう。黒崎に、もっと文句を言いたくなった。
(後でオロオロしろよ。ふふん……)
これで数日間のネタには困らない。偉そうにすれば、引き合いに出してやる。少し離れるふりをして、マンションのエントランスを眺めた。しかし、すぐに気になって来た。信号を眺めるふりをして、二人の方を向いた。女性の右手の薬指にはリングがある。黒崎が視線を向けて微笑んだ。女性も同じだ。
「思い出しました。こうしていると当時のようだ」
「あら。やっと?……お幸せですか?」
「聞かないで下さい。嘘をつくのは上手じゃない。……素敵なアクセサリーですね。妬きそうだ」
「こちらこそ聞かないで。優しい嘘は下手なの」
駆け引きだと分かっているが、だんだん腹が立ってきた。俺は21歳の大人だからと、ぐっと我慢した。すると、黒崎から肩を抱かれた。そして、この子が拗ねていると言い出した。
「ご存知でしょう?この子が夏樹です。僕のパートナーです」
微笑みを浮かべながら、彼女に紹介された。控えめな笑顔を浮かべればいいのに、本音が出てしまいそうだ。俺の黒崎に近づいて欲しくないと。すると、黒崎から背中をさすられた。
(なんだよ。大人の男女には、かないっこないよ……)
俺は恋愛経験豊富ではない。駆け引きなど覚える必要がなかった。いつだって黒崎は俺のことだけを見ていて、おかしくなったのかと疑うほどの束縛を受けた。自信を持てるはずが、二人の間に漂う、濃密さを軽くさせた時間が感情を刺激した。
「夏樹。疲れたのか。店へ移動するか?」
「ううん!もっとここを見ていくんだ!」
「ああ、どうした。足が痛くなったのか」
「痛くない。知らない!先に行くからね!」
みっともない自覚はしている。遠くの方からタクシーが走ってきた。あれに乗ろうとして肩を引かれた。財布を持っていないだろうと。確かにその通りだ。バッグの中には、スマホ、ハンカチ、目薬。メガネ、1DAYコンタクトだけだ。どこにも行けない。
だったら歩いて行けばいい。土地勘があるから大丈夫だ。ここから15分以内ぐらいだから、お腹が減って丁度いい。
すると、信号を渡ろうとして黒崎から腕を掴まれた。どこへ行くのかと。女性へ会釈して立ち去ろうとすると、彼女が小走りに来た。焦った顔をしている。
「年甲斐もなく、すみませんでした。可愛らしい子を捕まえたから、苛めたくなって……。ご活躍を拝見しています。Far from heavenも聴きました……」
「あ……、すみませんでした……」
彼女から顔を赤くして謝られた。黒崎が悪のりするから招いたことだ。そう話すと首を振られた。大人げなかったと、重ねて謝られた。やっぱりデート相手だったのか。
彼女のスマホの待ち受け画面には、悠人がいた。特典の”味噌汁ストラップ”も見せてくれた。本当にファンなのか。有難い気持ちが大きくなった。
お詫びにと、会社が経営しているラウンジに招待を受けた。しかし、両親と食事をするからと、丁寧に断った。すると、次の仕事があると、彼女が去っていった。もちろん笑顔で別れた。
残されたのは俺たち二人だ。誤解は解けたが、駆け引きをした事実がある。黙って黒崎のことを見つめると、オロオロし始めた。
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