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午前11時半。
お義父さんの家にお邪魔している。今、一貴さんの部屋に居る。一貴さんと俺と黒崎だ。俺たち3人が集まるとシリアスな空気になるわけもなく、まったりした休日を過ごしている。一貴さんには部屋に訪ねた直後に謝られて、それで終わりにしてもらった。シリアスさの似合わない家になったからだと口実をつけた。
室内にはユリウスのグッズが並び、ペット用の滑り台まで置いてある。廊下には、晴海さんのフラワー作品が並んでいた。お義父さんの書斎だけが、重厚なシブさを残している。この家がすっかり賑やかになった。
そして、それらを眺めた後、お茶を飲んだ。わざと持ってきたお菓子を、一貴さんが手を付けようとしない。
「くずもちと羊羹を食べたからなんだね。同じ物を食べ過ぎるから、余計な発想が浮かぶんだよ~」
「真剣に謝ったのに……」
「だったら全粒粉入りのマフィンを食べてよ。ニンジンも入っているよ」
「無理強いはやめろ。食べられないものがある」
黒崎がユリウスから登られながら、助け舟を出してきた。すると、お昼ご飯の話題に移った。みんなで食べたい。ここで用意するか外食にするかと話していると、黒崎から、シャルロットキッチンの2号店へ行かないかと提案された。まだオープンしていないが、社員向けに動かしているそうだ。
「3人で行こうよ。スイーツが食べたい。晩ご飯が入る程度にするからさ」
すると、一貴さんが”ざるそば”はあるのかと言い出した。ずっとこれを食べている。仕事では辣腕を振るい、リスペクトされている。こんなに面白い人なら、仕事でも出せばいいのに。しかし、そうはいかないらしい。俺が笑っていると、左手が温かくなった。
「え?」
黒崎から手を握られて、頬にキスをされた。人前なのに。驚きで声も出なかった。あんぐり口を開けたままで閉じることが出来ない。一貴さんは驚くことなくテレビを観ている。
「勝手にどうぞ。僕は独り身だけど……」
「夏樹は俺のものだ。大好きになるな」
「いいじゃん。そっか……。早瀬さんの状態になるのか。それは嫌だな。ウンウン……」
黒崎が嬉しそうに微笑み、一貴さんが悔しそうな顔をした。これは新しい表情だと思った。一貴さんが大人の時は、余裕さと嫌味たらしさがある。子供の時は無邪気に笑う。そのどちらでもないからだ。
じーんと胸が熱くなっていると、二人が眉をひそめた。音楽番組が流れており ”Dear drop”というグループが出ている。
「え?Dear drop?」
俺たちがやりたいのは"Dear Drops"で、テレビに出ているグループとは ”S” がつく違いだ。俺達はこの名前で活動できるのか?似たようなバンド名は避けるから、変更するしかないだろう。黒崎たちの反応で答えが見えてきた。わざとぶつけてきたのかと話している。
長谷部さんへ電話をかけた。IKU内で対応が始まったから、今は何も考えずにいてくれと言われた。テレビを観て知ったと話していた。
黒崎が一貴さんと話をしている。プラセルは商品を多く扱っている分、権利の関係に詳しい。黒崎も同じだ。誰が動いたのかと話している。
「一貴。ディアドロップはIKUの所属だった。テレビに出ているのは、IKUから出たバンドじゃ無いそうだ。名前を使う前にIKUへ話を持って行くだろう?後でもめる」
「敵対するつもりだ。IKUに逆らえるのは限られているぞ。本人たちが立ちあげたレーベルか……」
「メンバーは誰だ?」
番組ではトークが終了して、メンバー姿が映っている。黒崎が画面へ視線を向けた。俺が出た番組で出演者を記憶していた時の仕草を始めた。一人一人を見て瞬きをしている。この方法で記憶を探っているのか?その通りだと答えられた。ファイルとラベルで管理しているという。
「黒崎さーん。怖いよ~」
「夏樹君。茶化してくれたのか。こういう時でもブレないな。いいことだ。でも、嫌なら口にした方がいい。本当に怖いだろう?つらくなるぞ」
「お兄ちゃん……」
一貴さんが等身大の人に見えた。嫌味な大人ではないし子供でもない。黒崎の判断は間違っていなかった。ちゃんと岸にたどり着かせて歩けている。あのままでは、彼が溺れていたと思う。
話し合っている二人を見た。まだ話に入れないと大人しくしていると、手が温かくなった。左手の甲に、黒崎が手を重ねていた。宥めるように握られた。独占欲を出す時とは違う触り方だ。
(優しい黒崎さんだね……。ありがとう……)
心の中で呟いたはずなのに、伝わったようだ。手をポンポンと叩かれた。頭を抱き寄せられて、肩へもたれ掛かった。
「お前は一人じゃない。俺がいる。メンバーもIKUも、”一貴お兄ちゃん”もだ」
「ありがとう……」
「あの男に見覚えはないか?後ろの二番目にいる。30代ぐらいだ」
「えーっと……」
30代の共演者を思い出したが、羽音さんしか覚えていない。もちろん本人ではない。すると、だんだん見たことがある気がした。メイクはしてない。黒ジャケット姿で、そう派手でもない。しかし、顔立ちに見覚えがある。どこだったかとつぶやいていると、黒崎が答えを言った。
「EMIRIのはずだ。ディアドロップ時代よりもイメージが違う」
「え……」
「EMIRIかーー、タチが悪い!」
一貴さんが頭を抱えた。衣装提供の件で揉めたことがあるそうだ。ディアドロップ時代のことで、EMIRIがもめ事を起こしては、メンバーが喧嘩をした時期だ。佐久弥に対抗したのだろうということだ。
このままでは気持ちが揺れ動くばかりだと、黒崎から肩を叩かれた。外の空気を吸おう。シャルロットキッチンへ行くぞと促された。そうだねと頷き合い、部屋を出た。
お義父さんの家にお邪魔している。今、一貴さんの部屋に居る。一貴さんと俺と黒崎だ。俺たち3人が集まるとシリアスな空気になるわけもなく、まったりした休日を過ごしている。一貴さんには部屋に訪ねた直後に謝られて、それで終わりにしてもらった。シリアスさの似合わない家になったからだと口実をつけた。
室内にはユリウスのグッズが並び、ペット用の滑り台まで置いてある。廊下には、晴海さんのフラワー作品が並んでいた。お義父さんの書斎だけが、重厚なシブさを残している。この家がすっかり賑やかになった。
そして、それらを眺めた後、お茶を飲んだ。わざと持ってきたお菓子を、一貴さんが手を付けようとしない。
「くずもちと羊羹を食べたからなんだね。同じ物を食べ過ぎるから、余計な発想が浮かぶんだよ~」
「真剣に謝ったのに……」
「だったら全粒粉入りのマフィンを食べてよ。ニンジンも入っているよ」
「無理強いはやめろ。食べられないものがある」
黒崎がユリウスから登られながら、助け舟を出してきた。すると、お昼ご飯の話題に移った。みんなで食べたい。ここで用意するか外食にするかと話していると、黒崎から、シャルロットキッチンの2号店へ行かないかと提案された。まだオープンしていないが、社員向けに動かしているそうだ。
「3人で行こうよ。スイーツが食べたい。晩ご飯が入る程度にするからさ」
すると、一貴さんが”ざるそば”はあるのかと言い出した。ずっとこれを食べている。仕事では辣腕を振るい、リスペクトされている。こんなに面白い人なら、仕事でも出せばいいのに。しかし、そうはいかないらしい。俺が笑っていると、左手が温かくなった。
「え?」
黒崎から手を握られて、頬にキスをされた。人前なのに。驚きで声も出なかった。あんぐり口を開けたままで閉じることが出来ない。一貴さんは驚くことなくテレビを観ている。
「勝手にどうぞ。僕は独り身だけど……」
「夏樹は俺のものだ。大好きになるな」
「いいじゃん。そっか……。早瀬さんの状態になるのか。それは嫌だな。ウンウン……」
黒崎が嬉しそうに微笑み、一貴さんが悔しそうな顔をした。これは新しい表情だと思った。一貴さんが大人の時は、余裕さと嫌味たらしさがある。子供の時は無邪気に笑う。そのどちらでもないからだ。
じーんと胸が熱くなっていると、二人が眉をひそめた。音楽番組が流れており ”Dear drop”というグループが出ている。
「え?Dear drop?」
俺たちがやりたいのは"Dear Drops"で、テレビに出ているグループとは ”S” がつく違いだ。俺達はこの名前で活動できるのか?似たようなバンド名は避けるから、変更するしかないだろう。黒崎たちの反応で答えが見えてきた。わざとぶつけてきたのかと話している。
長谷部さんへ電話をかけた。IKU内で対応が始まったから、今は何も考えずにいてくれと言われた。テレビを観て知ったと話していた。
黒崎が一貴さんと話をしている。プラセルは商品を多く扱っている分、権利の関係に詳しい。黒崎も同じだ。誰が動いたのかと話している。
「一貴。ディアドロップはIKUの所属だった。テレビに出ているのは、IKUから出たバンドじゃ無いそうだ。名前を使う前にIKUへ話を持って行くだろう?後でもめる」
「敵対するつもりだ。IKUに逆らえるのは限られているぞ。本人たちが立ちあげたレーベルか……」
「メンバーは誰だ?」
番組ではトークが終了して、メンバー姿が映っている。黒崎が画面へ視線を向けた。俺が出た番組で出演者を記憶していた時の仕草を始めた。一人一人を見て瞬きをしている。この方法で記憶を探っているのか?その通りだと答えられた。ファイルとラベルで管理しているという。
「黒崎さーん。怖いよ~」
「夏樹君。茶化してくれたのか。こういう時でもブレないな。いいことだ。でも、嫌なら口にした方がいい。本当に怖いだろう?つらくなるぞ」
「お兄ちゃん……」
一貴さんが等身大の人に見えた。嫌味な大人ではないし子供でもない。黒崎の判断は間違っていなかった。ちゃんと岸にたどり着かせて歩けている。あのままでは、彼が溺れていたと思う。
話し合っている二人を見た。まだ話に入れないと大人しくしていると、手が温かくなった。左手の甲に、黒崎が手を重ねていた。宥めるように握られた。独占欲を出す時とは違う触り方だ。
(優しい黒崎さんだね……。ありがとう……)
心の中で呟いたはずなのに、伝わったようだ。手をポンポンと叩かれた。頭を抱き寄せられて、肩へもたれ掛かった。
「お前は一人じゃない。俺がいる。メンバーもIKUも、”一貴お兄ちゃん”もだ」
「ありがとう……」
「あの男に見覚えはないか?後ろの二番目にいる。30代ぐらいだ」
「えーっと……」
30代の共演者を思い出したが、羽音さんしか覚えていない。もちろん本人ではない。すると、だんだん見たことがある気がした。メイクはしてない。黒ジャケット姿で、そう派手でもない。しかし、顔立ちに見覚えがある。どこだったかとつぶやいていると、黒崎が答えを言った。
「EMIRIのはずだ。ディアドロップ時代よりもイメージが違う」
「え……」
「EMIRIかーー、タチが悪い!」
一貴さんが頭を抱えた。衣装提供の件で揉めたことがあるそうだ。ディアドロップ時代のことで、EMIRIがもめ事を起こしては、メンバーが喧嘩をした時期だ。佐久弥に対抗したのだろうということだ。
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