白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 12時。

 青空の下、シャルロットキッチンのオープニングイベントが開かれている。この2号店には、悠人と俺との2人で訪れた。店内はジャズ音楽が流れている中、訪れた人で賑やかだ。明日の土曜日からが本番だと見込んでいるそうだ。黒崎は本部テントに居る。 

 悠人がチキン南蛮サンドを食べている。テイクアウトだ。俺達は昼の混雑時を外して店に入ろうということになった。しかし、悠人は朝ごはんを食べてきたのに、空腹で倒れそうになっていた。そこで今、バーガーを食べている。

「美味しいよ。なつきー。これ、小さめだから食べてみたら?」
「他の物が入らなくなるからなあ。悠人、今日は何を食べる?ざるそばセットがあるよ?」
「さすがに食べたくない。カズさんで飽きたもん……」
「やっぱり?我が家も同じ意見だよ」

 悠人は一貴さんを”カズさん”と、愛称で呼んでいる。一貴さんは出かけた先でも、ざるそばを食べている。それがメニューにある店へ行きたがる。悠人と早瀬さんとで食事に行った先でも、必ず食べているそうだ。

 どうして好きになったのかと聞くと、家で作ってすぐに食べられるのが、ざるそばだったからだそうだ。そばにめんつゆをかけて、冷凍ネギと海苔をトッピングするだけだ。会食で贅沢をする分、素朴なものが食べたい。総合して”ざるそば”という結論が導き出されたそうだ。
 
「あ。理久と如月だ」

 悠人が”ふむふむ”と頷いている先には、理久と如月がいた。俺と同じくメニュー開発チームだった。今日は二人で来ているようだ。

「悠人。声をかけてくるよ」
「少し待とうね。親友を守るための喧嘩中だから」
「なんで?二人で来ているのに」
「それがねーーー」

 悠人から詳しい話を聞いて驚いた。二葉と如月、理久は同じO大の学生だ。二葉と如月が恋人同士になりかけたけれど、如月が二股をかけたのが発覚してしまったそうだ。理久と二葉は親友同士だ。今日は二人で来ると聞いているという。そこで、如月が話をしたくて追いかけて来たようだ。まだ二葉は来ていない。

「二葉ちゃんに嫌われたんだよね?」
「はっきり断ったって聞いたよ。ダメ男になったなー。いい奴だったのに。これ、捨ててくるよーー」
「うん」

 悠人がごみを捨てて来るまで待っていると、両肩に重みが出来た。左側には指輪がついた手が見えた。振り返ると、黒崎が笑いながら立っていた。一瞬、知らない人だと思い驚いた。声をかけろと文句を言ってやった。

 柱のそばに立っていたから、人影に気づかなかった。悠人から聞かされた話をまだ黙っておきたいと思っていたら、その本人が来たから余計に驚いた。こういう事はよくある。見ていたのかと思える時もあった。黒崎は笑うばかりで、頬をつねられた。昨夜と大違いだと言われた。

「昨夜は機嫌を取ったのにか?」
「機嫌は悪くないよ。ビックリしただけ。気配を消すなよ~」
「どうして驚いた?普段とは違う」
「何を食べようか考えていたからだよ。今晩のメニューも。あんたが何時になるかとか……」

 二葉のことを話そうと思った。悠人まで知っているなら広まっているだろう。何でも我慢する子だから、このままだと危ない。

 しかし、家に帰ってからにしようと思っていると、トーンを落とした声で呼ばれた。先に見抜かれたようだ。これでは隠していた流れになる。

「夏樹。こっちを向け」
「黒崎さん。あのね……」
「誤魔化すな。様子がおかしいぞ」

 いきなり顎を持ち上げられた。何か隠しているだろう?ここへ歩いてきた時からだ。見ていないわけがないぞと。真剣に見つめられて鼓動が跳ねた。淡い色味が混ざったスーツ姿なのに迫力は消えない。ややマイルドになる程度だ。賑やかなイベントの空気とは対照的で、ますます浮き彫りになった。茶化すつもりはないが、正直な感想が口から出てしまった。

「あんたは青空が似合わないね……」
「自覚している。答えるまで離さないぞ」

 片方の手で腰を抱かれた。顎は持ち上げられたままだ。怒ってはいないし、平然としている。人が通りかかっても気にしない。心配事を抱え込むな。俺の方も心配だと言われた。思い切って二葉達のことを話すと、知っていた。相談はされていないがと付け足していた。何でも耳に入るのか。

「面倒ごとに発展する前に対処する。……そうか、如月君が来ているのか」
「理久と如月が喧嘩になっていたよ」
「見ておくから心配するな。悠人君とイベントを楽しむだけでいい」

 いいな?と念を押された。喧嘩に行きあたっても、仲裁に入るなという意味だ。この様子を見るだけで、小さな話ではないと分かった。二葉からすれば浮気をされて、如月のことをフッた。それに対して如月が謝っている。大学の絵理奈ちゃんから聞いた失敗話のようだ。

 黒崎が仲裁に入るなと言うのなら、よっぽど揉めているか、しつこくしているかだ。両方かもしれない。

 すると、黒崎の空気が柔らかくなった。素直に頷いて返事をしたからだ。そして、今度は、人通りのある方へ視線を向けた。柱をぽんぽんと叩いている。俺が待っている位置のことだ。また叱られる。

「お前が待っている位置のことだが、問題ありだ。この柱が死角になる。いくら人通りがあろうと危険だ。邪魔でいいから、人通りのある真ん中で待て。歩く同線から外す程度だ。いいな?」
「気をつけるよ。あ、悠人……」

 素直に頷いたところで、悠人が戻ってきた。黒崎が事情を話したからホッとしていた。この件は終了だ。そう言い切られた。その後、お店の前まで連れて行ってくれた。
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