白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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31-6(黒崎視点)

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 18時半。

 中山の義母の病室から出てきた。待合室では、万理がタブレットを用意していた。圭一君と、小さく名前を呼ばれた。高校生ではなく20歳の女性だ。それでも子ども扱いしてしまう。

 ライブ中継には、ヴィジブルレイの文字が出ている。観客が静まり返った後、三味線の音色が聴こえてきた。それに合わせて、赤い着物を羽織った夏樹が踊り始めた。アナウンスを吹き込んでいるのは悠人だ。

「……Visible ray……3、2、1……光線……、Far from heaven……3、2、1」
「これは悠人君の声ね。上手ね。ツインボーカルが楽しみね」
「ああ。着物が似合っている。踊りも上手い」

 眩しいぐらいだ。そう思っているとリズムが速くなり、光線が差し込まれた。そして、夏樹が着物を脱ぎ捨てた後、曲調が変わった。

 TDDとして披露する”上弦の月の天使”だ。妖艶な姿の夏樹が登場した。サイドには悠人が立っている。彼も雰囲気が違う。照明の効果だろうか?随分と大人びていて、万理が頬を赤くしている。

「始まっているかい?」
「お義父さん。どうぞ、こちらへ」

 いつの間にか義父が来ていた。場を譲って観てもらった。微笑みながら画面を見ている。義父の代わりに万理が病室へ行った。義父と二人、話すことと言えば、義母のことだ。夏樹には内緒にしてくれと義母から言われ続けて、こういう状況になったことを悔やんでいるそうだ。しかし、夏樹には仕事がある。なかなか帰ってこられない。心配も掛けたくないのだと言った義母の希望を聞いたそうだ。
 
 どれぐらいの時間が経っただろうか。次第にステージが進み、あっという間に終盤へ差し掛かった。スタッフ用の進行表を送ってもらった。後はアンコールのみになった。それに目を通していると、万理から呼ばれた。泣き顔になっている。背筋が冷たくなったが、反対の意味だった。

「お母さんが目を覚ましたの。先生を呼んでる。私の名前を呼んでくれたよ。小さな声だけど……」

 嬉しいことが起きた時は、体温が低くなるのか。ショックなことが起きた時だけだと思っていた。

 すぐに病室へ向かうと、義母がスタッフに囲まれていた。遠慮して部屋の外で待っていると、義父から呼ばれた。たしかに目を覚まして、俺たちの方を見ている。

 ーーナツキ。

 そう呟いている。義父が医師へと、中継を見せてやれないかと頼み込んだ。その結果、僅かな時間だけでと許可を貰えた。セットリストを思い出し、Far from heaven を観てもらうことにした。嬉しい思いで歌わせてやりたい。

 待合室へ戻り、長谷部さんへ電話をかけた。たった今、ステージから戻り、Far from heavenの準備中だという。このまま待ち、夏樹を呼んでもらった。
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