白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 22時。

 ホテルへ帰った後、黒崎と2人で季節外れの月見へ出かけた。目的地はお馴染みの海岸線だ。今夜は天体観測会をやっていると、父から教えてもらった。ここに住んでいた頃は、よく夜の海岸線をドライブしていた。懐かしくて見物に来た。わいわいがやがやと、人が集まっている。

 なんとなく集まりから離れて行き、人のいないところに移動した。息の合い方が面白い。15歳の年の差があっても、同じことを考えている。

 堤防にもたれて夜空を眺めた。半分に切ったミカンのような半月が浮かんでいる。次第に欠けていき新月になる。新しいスタートだ。

「食べ物のことばかりだな。もっと食え」
「たとえ話だよ。あれって半分こしたクッキー?」
「色気のない子だ。海面に月影が落ちているぞ」
「どこだよ?え?黒崎さん……」

 不意打ちのキスを受け取った。軽く触れたかと思えば、抱き寄せられて深いものに変わった。何度もしているのに、胸の鼓動が高鳴った。波音と鼓動だけが響いている。黒崎にも聴こえたようで、キスの合間に笑われた。

 両腕に引き寄せられて、首筋に顔を寄せた。腕の力は強くないが、身じろいでも逃げられない。すぐに捕まってしまう。そもそも逃げるつもりはない。黒崎が笑った。

「これが鎖のように感じるなら、遠慮なく教えてくれ。自制する」
「へえ。黒崎さんらしくないね?束縛男のくせに」
「お前のことを守ると約束する。なるべく意思を聞く。……言い切ったぞ。文句は返さないのか?」
「愛情を分かっているよ。心配させてごめんね。ありがとう」
「お前にはかなわない。束縛も肯定された。何も出来ない」

 仕返しだと呟いた後、腕を引かれて、倒れ込むようにして抱きついた。黒崎の身体が温かくて心地いい。強引なことをされても許せた。俺が手綱を引いてやると宣言した後、こっちからキスをした。

「黒崎さん。あんたのことを丸ごと俺にくれよ」
「もう渡してある。知らなかったのか?」
「さあね?」

 赤い月が登って行き、俺たちの影も重なった。結ばれた夜の約束の証に、お互いの左手の結婚指輪にキスをした。いつまでも続けたから、黒崎が決まり悪そうにし始めた。

 月の魔法が解かれたのか?さっさと帰るぞと腕を引かれて、今夜のホテルへ帰った。
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