白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 11月2日、土曜日。午前11時。

 地元で2日間滞在して、午前中の飛行機で戻ってきた。黒崎が休みを取ってくれて、一緒に過ごすことができた。今日の午後には、伊吹が出張から戻る予定だ。順調に帰っていると連絡があった。その足で実家へ行くそうだ。

 我が家へと入ると、いつもの匂いがしていた。帰ってきたとホッとした。

「ただいまー。さあ、お義父さんの家へ行こうね」
「少し休んでからにしろ。シャワーを浴びてくるか?」
「ホテルで浴びてきたから大丈夫だよ。黒崎さんこそ休んでおいてよ。疲れただろ?」
「俺は平気だ。……熱は出ていないな。念のために計っておけ」

 黒崎が体温計を持ってきた。子供かと思いながら計ると、驚くべき数字が出ていた。平熱が上がったようだ。体調は悪くない。

 36.3度という数字だ。35.8度の体温としては嬉しいものだ。しかし黒崎は誤解している。俺の着替えを手伝い始めた。ベッドに入れと言っている。

 大丈夫だ、寝ておけの繰り返しをした。お義父さんの家へ行きたいのに。アンを預かってもらっているし、みんなのことが気になっている。

 ママが戻った後、二葉も家に帰った。その間のことも聞きたい。彼女は遠慮したようで、短い連絡しかなかった。

「お前のことを一人にしておけない。一緒に行く」
「はーい。決まりだね。さあ行こうね~」

 玄関を出ると、庭の木々に紅葉が始まっていた。19歳の10月30日は黒崎夏樹になり、20歳の時にはデビューした。今年は黒崎と別々に過ごしたが、想いは通じ合っている。赤いカーディガンを通して。黒崎の手を握ると温かくて、もう離したくないと思った。

 --離さないでよ?
 --お前こそ離れるな。

 何度も繰り返していると、目的地に到着した。玄関のドアが開くと、お義父さんがアンとユリウスを連れて歩いて来た。一貴さんもいる。

 すると、晴海さんが奥から出てきて、顔を見ると、やつれていた。お義父さんと二葉の壮絶の一歩手前の言い合いと、手のかかる弟の面倒を見たからだ。

「ごめんね。ありがとうございました!」
「なんてことはない」

 晴海さんがプイッと横を向いて、リビングへ戻って行った。目の前の光景は、俺達が帰る場所だ。温かく受け入れてもらえる。もちろん実家もそうだ。

 黒崎が居る場所が、俺の居場所だ。彼の腕をグイグイ引っ張って、リビングへ連れて行った。そして父へ電話をかけた。帰ってきたよと。その後、黒崎家のメンバーで昼ご飯を食べ始めた。

 しばらく話をした後、アンを連れてお義父さんの家を出た。散歩の途中で日陰になっている、ナツツバキが視界に入った。朝方に雨が降っていたそうで、露が葉っぱに残っていた。光が差してきて、小さな虹ができていた。綺麗だねと、二人で囁きあった。

 お互いの呼吸が一つに感じられた時に、そっと唇を合わせた。いつかの夜のように、奪うようなものは必要はない。優しい触れ合いに変わった時、微笑みながら唇を離した。

 白い雫が涙として頬を伝った。
 
 親愛なる人と手を握り合い、目の前に広がる光景を、この目に焼き付けた。

 嬉しい涙?悲しい涙?どっちかな?

 --その答えは“うれし泣き”。

 ポタっと落ちて、水玉模様を作った。次第に広がり、太陽の光が降り注いだ。まるで宝石のように輝き始めた時、親愛なる人が笑顔になった。

 ーーTo Dear Drops.
 ーー愛する人へ捧げる旋律。

「黒崎さん。愛しているよー!」

 大きく声を張り上げた。すると、愛する人に届いて苦笑された。帰る場所は我が家だ。温かな日々が待っている。最大級の愛の呪文と、月の天使が結んだ、約束の夜と共に。now and for ever.

<END>
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