Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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2-9(枝川視点)

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 12時半。

 俺の名前は枝川幸也《えだがわこうや》、28歳。大学卒業後、黒崎製菓へ入社した。今年で6年目になる。マーケティング推進室のチーフという係長クラスのポストに就き、上司と部下との板挟みになっている。

 大会議室では昼食時間を迎えている。この時間が一番、多忙だ。本日の業務では、インターンシップ運営のリーダーを務めている。営業企画部のみで受け入れのため、部署内で人員をやりくりした。スタッフの人選は全て、黒崎常務が行った。

(お気に入り部下という名の、こき使い要員だ。ここにもその上司がいる……)

 午前中の講義は予定通りに進行した。ここからは昼休憩中の参加者を見る時間だ。チームごとに分かれて順番に休憩を取る。黒崎常務と平田が会場に残り、俺と早瀬部長代理が控え室で待機し、昼食を取っている。

 これには理由がある。休憩中の参加者の態度を見ることと、もめ事をおさめることをやる必要があるからだ。参加者同士の連絡先の交換を禁止しているが、この時間に行われることが多い。

 2年前までは、他企業のように禁止していなかった。しかし、今年に入り、ある企業で問題が起きた。参加者同士が交換した結果、ストーカー事件に発展した。インターンシップ中は社に責任があるため、終わってから個人間の付き合いをしてもらう。企業の責任が問われるからだ。あくまでも本人がやらかしたことだというだろうか。しかし、そう世間は受け取らない。しっかりとした体制が組めない企業、そんなレッテル貼りをされる。

(せっかく入った企業だ。そんなことはご免だ……)

 昼食を腹に入れていると、同じく休憩中の早瀬代理から声を掛けられた。この人物こそ、人使いが荒い ”鬼” だ。この間まで、マーケティング推進室の直属の上司だった。”仲良し” といえば、当たっているが、勤務中は ”氷点下マイナス” ”腹黒”、そのニックネームどおりだ。俺が命名した。

「枝川。もっとゆっくり食べろ。長丁場だぞ」
「早瀬代理。夏樹君のまわりが人だかりになって、平田が張り付いています。フォローに入りたいです」
「横井さんに様子を見てもらう。……横井さん。平田のフォローに回ってくれないか?休憩を30分延長して取るように」
「はい!」

 本日の参加者には黒崎夏樹がいる。この黒崎グループの代表取締役社長、黒崎隆氏の養子であり、黒崎常務のパートナーだ。それを知らずに彼のことをナンパをしたことがあり、黒崎常務から目を付けられて、こき使われる羽目になった。しかし、それを要領の良い奴だと解釈する者が社内にいる。黒埼常務の懐に入ることができたと思われたからだろう。

(枝川はいいよなー。うまく取り入ったぞ。ああいう要領の良さが欲しい、か。……勝手に言え)

 同期入社の者から妬まれている。それだけ真面目に業務をこなしている自負があるため、後ろめたいことなどない。ただし足を引っ張られるから厄介だ。

(恋人が欲しい……。癒されたい……)

 恋人が欲しいのに3年間も不在だ。仕事優先にした結果、フラれてしまった。今はもっと大事にするつもりだ。精神的にも余裕が出来たし、経済的にも安定している。あとはパートナーの存在があればと思っている。

 コンパへ参加しても、恋愛対象が男のため出会いがない。俺が参加すると、女性の食いつきがいいらしい。その見返りに、大学や職場の子を紹介してもらっている。しかし、そのことで気が多い男だと思われて、本気で相手にされないのが現状だ。
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