Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

文字の大きさ
16 / 91

2-11(理久視点)

しおりを挟む
 13時。

 午後からの講義開始のアナウンスが流れた。この時間の講師は黒崎常務だ。ステージに上がった後、マイクを通して声が響き渡った。

「……この時間を担当いたします、黒崎です。午前中の『鬼』より予告がありましたとおり、リラックスした……。あの ”鬼” は……。午前中の ”鬼” は、マーケティング推進室で室長をやっていた者です。現場から離れてしまったのには、そういった社内事情によるものです……」

 参加者たちがクスクス笑い出した。俺も同じように笑った。隣の山本さんと視線を合わせていると、壁沿いに立っている枝川さんと目が合った。

(ごめんなさい。よそ見をしていました……)

 ペコっと頭だけ下げて、ステージの方を向いた。他の人達と笑っているようだ。黒崎常務の話が面白いからだ。

 今の時間の題材は、ソフトクリーム好きな少年の話だ。どうやって商品を選んで店に買いに行くかというものだ。すると、スクリーンに新しいものが映し出された。次の時間でやるグループワークの題材で、つくりたいお菓子と売り出す場所がテーマだ。

(面白そうだな。こういうのは得意だ。あれ?空気が変わった……)

 黒崎常務は笑顔のままだが、社員たちの空気が緊張したものに変わった。気のせいだとは思えない。さっきまで笑っていた平田さんが黙っているからだ。枝川さんは変わりないようだ。

「……次の時間はグループワークです。その前に、今朝のオリエンテーションでもお願いした約束事に、再度、触れます。インターンシップ期間中は、連絡先の交換は控えてください。この会議室を出た後も同じです。一緒にやる仲間ですから、早く仲良くなりたいという気持ちは分かります。会ったばかりの人との関り方を学ぶことが目的のひとつです。……また、各インターンシップ生の安全を考えてのことです。エントリーシートに書かれている内容、選考を重ねているので、当社としては見知らぬ方ではありませんが。今回の題材がいい例です。知らない人の車には乗らないように。この時間は終了です……」

 ザワザワ……。

 会場内がざわめき始めて、誰がやったの?そんな囁き声が上がり始めた。会場内が静まり返った後、黒崎常務が壇上から降りた。司会者から、休憩時間に入る旨のアナウンスが流れた後、さらにざわめきが大きくなった。

「山岡君のことかな……。たぶんそうだよね……」
「それだけじゃないよ。俺も黒崎君に……」
「え?佐伯君が?なんで?」

 山本さんが席へ戻ってきた。その流れで山岡君のことを話した。まさか佐伯君がルールを破るなんてと驚かれた。

「誤解でしょう?話しかけただけじゃないの?」
「ううん!言い訳できないよ……」

(本当は聞こうとはしてないけど。そう見えても仕方のないことをしたんだから。それに……。もし聞けたらって思ったのは事実だもん……)

 ざわめきが大きくなった。参加者からの囁き声が、なぜか大きく聞こえてくる。

「ヤバくない?そんな子がいたんだ?」
「さっきの子たちでしょうー?ほら、集まって大きな声で話してたもん」
「笑ってすんでいたでしょう?」
「他にもあったんだよ。しつこくされたって」
「えー?覚えられているんじゃない?」
「その子たち、終わったねー。ここじゃ受ける意味ないね」
「同じ大学の奴、可哀そうだな」

(失敗した……。こっちを見てるし……)

 本当に視線を向けられている。気のせいではない。吉川さんが俺たちの席へ来た。どうして佐伯君がそんな顔をしているの?そう話しかけられても、弁解の余地はない。黒崎君に謝りに行きたいのに、この空気の中では身動きができない。こんな自分が大嫌いだ。

 スマホへ視線を向けると、メッセージが入っていた。ここに参加しているO大のメンバーたちだ。

(来週の……都合が悪くなったって。え……?グループから外されてる。こっちもだ……)

 ラインのグループから外されたようだ。このメンバーも黒崎君を囲んでいたのに。悪者を差し出して、自分は逃げるという作戦を取ったことが分かった。この連帯感が気持ち悪い。それでも嫌われたくないとまで思っている。

「佐伯君?友達かな?」
「え……」
「さえきーー、ちょっと……」

 声を掛けてきたのはO大のメンバー達だ。参加が決まった時に嫌味を吐いてきた子、ある企業の経営者の息子、意識高い系などの3人だ。この中には山岡君の姿はない。彼を身代りにしないのか?彼こそ注意を受けたのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。 久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...