38 / 91
4-7
しおりを挟む
枝川さんが席に戻ってきた。そして、俺に謝ってきた。さっきの人は中山伊吹さんと言って、黒崎製菓で長期インターンシップに参加している桜木聡太郎さんという人の恋人だという話だった。枝川さんが桜木さんと仲が良いから、枝川さんが彼に何かしているのだと誤解を受けているのだと説明された。一緒にいたのは、広告会社のR&W社の高野さんという人だそうだ。中山さんとは友達関係であり、取引先でもあるということだ。R&W社は同じ黒崎製菓グループ企業だから、枝川さんとも交流があるそうだ。そして、俺達はデート中だと説明し、中山さんの誤解が解けたということだ。
「ごめんね、騒がしくて」
「気にしないでよ。中山さんって、黒崎君に似ていない?」
「ああ、似ている」
「もしかして、お兄さんなのかな?って、思ったんだ」
「よく分かったな」
「そうなんだね!」
「中山さんは高野が担当している取引先の経営者だ」
「へえ……。あれ?追加で頼んだっけ?」
「いや、なにも……」
店員さんがやって来て、俺たちの席へ料理を運んだ。中山さんからの心づけだという。つまりはお詫びということだ。さらに名刺も置かれた。
「牛すじ煮込みだね。あ、高野豆腐だ。好きなんだよ。あれ?好きじゃないの?」
「いや……」
枝川さんが顔を引きつらせている。名刺の裏を見ながらだ。ちょうど見える角度だから、見せてもらった。手紙が書いてある。
「『……先ほどは失礼いたしました。心ばかりのお詫びです。先輩と後輩としての線を引くよう、筋を通して頂きたいため、”牛すじ煮込み”を贈ります。……えだがわこうやさんの、お名前にちなんだ ”高野豆腐” は、本日のおすすめです……」
「枝川さんの名前は、幸也さんなんだねーー」
「ああ」
だから高野豆腐か。どんな反応をすればいいのか迷った。これで終わりだ。”天真爛漫な理久” は消え去さろう。枝川さんが気の多い、信用できない人だと知ったばかりだ。
「気が多いって評判通りだね。俺のこともだけど」
「それは誤解だ」
「どこかだよ?バレンタインだっけ?イベントに誘ったのを認めてただろ。恋人がいる人なのに」
「それは運営スタッフとして誘った。デート目的じゃない」
「信用できないよ!」
「理久君……。話を聞いてくれ」
「気安く呼ぶな!」
「理久、話を聞け」
「呼び捨てにするな!なんの権利があるって?」
「好きだからだ」
「俺は好きじゃないから!名前なんか呼ぶな。帰るから……」
「店を変えて話そう。夜景が見える場所だ。気に入ると思う」
(サイテーだ。もう帰るし……)
がっかりした。久弥の話と同じだ。下心満載の男は、すぐに夜景スポットへ誘う。良い感じになった後はホテルの部屋だ。久弥の恋人の蔵之介君は誠実だから、そんなことはなかったそうだ。目の前の人とは違う。
「そうやって、誰でも誘ってきたんだよね?お兄ちゃんから教わったんだ。ホテルからの夜景を見せていい気分にさせて、そこの上層階の部屋に連れ込むんだよ。そういう人のことをね。”信用ならない男”っていうんだよ。あんたにピッタリだよ」
「誤解を解かせてくれ。ここを出よう」
立ち上った枝川さんから肩を引かれた。そのまま立ち上がらされた。連れ去りのようだ。ここで怯むわけにはいかない。真っ直ぐに見つめて言い返した。
「この高野豆腐!」
「なんだと……?」
「バーーーカ!」
「この……甘酒!」
「なんだよ!?高野豆腐!」
「甘酒!」
売り言葉に買い言葉だ。いくら仕切りがあるとはいえ、静かな店内では迷惑だ。食べ終わっているから店を出ることにした。
ご馳走さまでしたとお礼が言いたいから、お会計が終わるまで待っていた。だから一緒にエレベーターに乗る羽目になった。
ビルの外に出た後、枝川さんから駅まで送っていくと言われた。その声を無視して歩いているうちに、駅に到着した。そして、逃げるなと挑発された結果、連絡先を交換してしまった。受け身でも、天真爛漫な理久君でもない。腹が立つから交換した。それに、枝川さんのことが気になるからだ。それは否定しない。やっぱり俺は流されやすいみたいだ。
そして、やっぱりやめておいたら良かったと思ったときには、俺は帰りの電車の中だった。枝川さんがタクシーで送っていくと言っていた。それにはちゃんと断れたから、良かったなとは思った。
「ごめんね、騒がしくて」
「気にしないでよ。中山さんって、黒崎君に似ていない?」
「ああ、似ている」
「もしかして、お兄さんなのかな?って、思ったんだ」
「よく分かったな」
「そうなんだね!」
「中山さんは高野が担当している取引先の経営者だ」
「へえ……。あれ?追加で頼んだっけ?」
「いや、なにも……」
店員さんがやって来て、俺たちの席へ料理を運んだ。中山さんからの心づけだという。つまりはお詫びということだ。さらに名刺も置かれた。
「牛すじ煮込みだね。あ、高野豆腐だ。好きなんだよ。あれ?好きじゃないの?」
「いや……」
枝川さんが顔を引きつらせている。名刺の裏を見ながらだ。ちょうど見える角度だから、見せてもらった。手紙が書いてある。
「『……先ほどは失礼いたしました。心ばかりのお詫びです。先輩と後輩としての線を引くよう、筋を通して頂きたいため、”牛すじ煮込み”を贈ります。……えだがわこうやさんの、お名前にちなんだ ”高野豆腐” は、本日のおすすめです……」
「枝川さんの名前は、幸也さんなんだねーー」
「ああ」
だから高野豆腐か。どんな反応をすればいいのか迷った。これで終わりだ。”天真爛漫な理久” は消え去さろう。枝川さんが気の多い、信用できない人だと知ったばかりだ。
「気が多いって評判通りだね。俺のこともだけど」
「それは誤解だ」
「どこかだよ?バレンタインだっけ?イベントに誘ったのを認めてただろ。恋人がいる人なのに」
「それは運営スタッフとして誘った。デート目的じゃない」
「信用できないよ!」
「理久君……。話を聞いてくれ」
「気安く呼ぶな!」
「理久、話を聞け」
「呼び捨てにするな!なんの権利があるって?」
「好きだからだ」
「俺は好きじゃないから!名前なんか呼ぶな。帰るから……」
「店を変えて話そう。夜景が見える場所だ。気に入ると思う」
(サイテーだ。もう帰るし……)
がっかりした。久弥の話と同じだ。下心満載の男は、すぐに夜景スポットへ誘う。良い感じになった後はホテルの部屋だ。久弥の恋人の蔵之介君は誠実だから、そんなことはなかったそうだ。目の前の人とは違う。
「そうやって、誰でも誘ってきたんだよね?お兄ちゃんから教わったんだ。ホテルからの夜景を見せていい気分にさせて、そこの上層階の部屋に連れ込むんだよ。そういう人のことをね。”信用ならない男”っていうんだよ。あんたにピッタリだよ」
「誤解を解かせてくれ。ここを出よう」
立ち上った枝川さんから肩を引かれた。そのまま立ち上がらされた。連れ去りのようだ。ここで怯むわけにはいかない。真っ直ぐに見つめて言い返した。
「この高野豆腐!」
「なんだと……?」
「バーーーカ!」
「この……甘酒!」
「なんだよ!?高野豆腐!」
「甘酒!」
売り言葉に買い言葉だ。いくら仕切りがあるとはいえ、静かな店内では迷惑だ。食べ終わっているから店を出ることにした。
ご馳走さまでしたとお礼が言いたいから、お会計が終わるまで待っていた。だから一緒にエレベーターに乗る羽目になった。
ビルの外に出た後、枝川さんから駅まで送っていくと言われた。その声を無視して歩いているうちに、駅に到着した。そして、逃げるなと挑発された結果、連絡先を交換してしまった。受け身でも、天真爛漫な理久君でもない。腹が立つから交換した。それに、枝川さんのことが気になるからだ。それは否定しない。やっぱり俺は流されやすいみたいだ。
そして、やっぱりやめておいたら良かったと思ったときには、俺は帰りの電車の中だった。枝川さんがタクシーで送っていくと言っていた。それにはちゃんと断れたから、良かったなとは思った。
0
あなたにおすすめの小説
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
回転木馬の音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。
久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編
夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ミルクと砂糖は?
もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる