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どんどん顔が熱くなっているのに、握られた手を引っ込めることが出来ない。そのままの状態で視線を返された。お互いに無言になっている。ときどき息がかかるから、その度にドキドキしている。
「あの……。離してよ……」
「食べてもいいか返事を聞くまで離さない」
「だめ、食べるのはだめ……」
「だったら離さない」
「そんな……」
「理久。この後、散歩に行かないか?景色が綺麗なスポットがある」
「寒いから……」
「建物の中だから寒くない。店からはタクシーを使う。問題ないだろう?」
(断る口実……。迎えに来てくれるって言おう……)
「あの……、家族が迎えに来るんだ!駅に……」
「どの駅?何駅?京橋駅は離れているぞ」
しまった。駅の名前が分からない。本社ビルへは京橋駅を使った。ここの最寄り駅はどこだろう。
一生懸命に思いめぐらせていると、右手に温かい感触が起きた。キスをされているようだ。
(キスされた……。マズいよね……)
さらに名前を呼ばれた。ーー理久と。その低い声にドキドキした。声が上ずりながらも、何か言わないといけない。
「あの……」
「決まりだな。え?」
「あれ……」
「ああ……」
枝川さんの声が詰まった。おまけに嫌そうな顔をしている。誰かが来たようだ。通路の方を見ている。仕切り壁で見えない角度だ。腰を上げて身を乗り出すと、スーツ姿の男性が2人立っていた。その一人を見て驚いた。黒崎君に似ている人だ。そして、その人と枝川さんが話し始めた。
(お兄さんかな?すごく似てる……。雰囲気は違うけど……)
ぶしつけな視線は失礼だ。すき焼きを食べることに集中した。それでも会話が耳に入ってくる。店内だから小さな声なのに。
「中山さん。お久しぶりです」
「枝川さん。こちらこそ。ご友人とお食事ですか?」
「そうです。食事中です」
相手の人は丁寧な話し方をしている。友達同士ではないのは間違いなさそうだ。邪魔にならないように、なるべく気配を消すようにした。枝川さんが相手のことを嫌がっているようだからだ。
(あからさまに嫌な顔をしてる……。何かあったのかな。聞かないふりをしよう……)
どんどん会話が始まった。聞き耳を立てたくないのに、聞いてしまう。あんまりいい空気じゃないから、余計にそうなる。
「枝川幸也さん。申し上げたいことがあります」
「連れがいるので、向こうでお願いします」
「時間は取らせません。うちの聡太郎のことを追いかけないでください。俺というパートナーがいますから」
「勘違いです。僕は仲のいい同僚ですよ」
(追いかけるって?恋人がいる人を?マジで?)
「あなたはチーフだ。聡太郎はインターンシップ生だから、立場が弱いでしょう!それに付け込まないでください」
「桜木君は同じ部署なんで、昼食を一緒にとることはあります。あくまでも同僚です」
「バレンタインデーのイベントに誘ったでしょう?知っているんですよ」
「誘ったことは認めます。しかし、意味が違います」
枝川さんは否定しているが、相手は納得していない。そこで、久弥からの話を思い出した。枝川さんは気が多くて、あちこちで声をかけていると、黒崎常務から聞いたという。こうして誤解を受けることがあるようだ。
そして、相手の人が枝川さんが誘ったという場所のことを話し始めた。デートスポットばかりだ。夜景の見えるというレストランもあった。仕事の関係とは言えなさそうだ。
(ガッカリした……。好きだって言われて、ちょっと嬉しかったのに……)
告白されても嫌ではなかった。しかし、信用できないものなのかも知れないことが分かった。そこで俺は我に返った。出会ったばかりで告白してきた人を信用しそうになったことに気がついた。久弥から指摘されたとおりだ。俺は流されやすいのだろう。
(もうすぐ帰れる。もう会わないでいい……)
せっかくのすき焼きを食べよう。心を込めて作ってくれた店員さんに申し訳ない。
アツアツの豆腐を口に運んでいる間に、相手の連れの人が仲裁に入った。顔を上げると、枝川さんも知っている人のようだった。
「高野君。中山さんを連れて行ってくれ」
「了解しました。中山さん、お連れさんがいるので……」
「高野君。君は当社の取引先だろう?」
「枝川さんはデート中ですよ!」
「え?」
相手の人のテンションが急に下がったようだ。すると、その黒崎君に似た人が、衝立から顔を覗かせた。俺がいつもの習性で笑顔を浮かべると、さらにその人から謝られた。
「申し訳ありません。せっかくのお食事を……」
「お構いなく。もうすぐ食べ終わりますので」
「中山さん。僕たちはデート中です」
「そうでしたか!失礼いたしました」
その人が、パッと表情を明るくさせた。そして、枝川さんに頭を下げて謝っている。……これで誤解が解けましたね。では失礼します。枝川さんがそう言った後、席に戻って来た。向こうも奥へ進んで行った。
「あの……。離してよ……」
「食べてもいいか返事を聞くまで離さない」
「だめ、食べるのはだめ……」
「だったら離さない」
「そんな……」
「理久。この後、散歩に行かないか?景色が綺麗なスポットがある」
「寒いから……」
「建物の中だから寒くない。店からはタクシーを使う。問題ないだろう?」
(断る口実……。迎えに来てくれるって言おう……)
「あの……、家族が迎えに来るんだ!駅に……」
「どの駅?何駅?京橋駅は離れているぞ」
しまった。駅の名前が分からない。本社ビルへは京橋駅を使った。ここの最寄り駅はどこだろう。
一生懸命に思いめぐらせていると、右手に温かい感触が起きた。キスをされているようだ。
(キスされた……。マズいよね……)
さらに名前を呼ばれた。ーー理久と。その低い声にドキドキした。声が上ずりながらも、何か言わないといけない。
「あの……」
「決まりだな。え?」
「あれ……」
「ああ……」
枝川さんの声が詰まった。おまけに嫌そうな顔をしている。誰かが来たようだ。通路の方を見ている。仕切り壁で見えない角度だ。腰を上げて身を乗り出すと、スーツ姿の男性が2人立っていた。その一人を見て驚いた。黒崎君に似ている人だ。そして、その人と枝川さんが話し始めた。
(お兄さんかな?すごく似てる……。雰囲気は違うけど……)
ぶしつけな視線は失礼だ。すき焼きを食べることに集中した。それでも会話が耳に入ってくる。店内だから小さな声なのに。
「中山さん。お久しぶりです」
「枝川さん。こちらこそ。ご友人とお食事ですか?」
「そうです。食事中です」
相手の人は丁寧な話し方をしている。友達同士ではないのは間違いなさそうだ。邪魔にならないように、なるべく気配を消すようにした。枝川さんが相手のことを嫌がっているようだからだ。
(あからさまに嫌な顔をしてる……。何かあったのかな。聞かないふりをしよう……)
どんどん会話が始まった。聞き耳を立てたくないのに、聞いてしまう。あんまりいい空気じゃないから、余計にそうなる。
「枝川幸也さん。申し上げたいことがあります」
「連れがいるので、向こうでお願いします」
「時間は取らせません。うちの聡太郎のことを追いかけないでください。俺というパートナーがいますから」
「勘違いです。僕は仲のいい同僚ですよ」
(追いかけるって?恋人がいる人を?マジで?)
「あなたはチーフだ。聡太郎はインターンシップ生だから、立場が弱いでしょう!それに付け込まないでください」
「桜木君は同じ部署なんで、昼食を一緒にとることはあります。あくまでも同僚です」
「バレンタインデーのイベントに誘ったでしょう?知っているんですよ」
「誘ったことは認めます。しかし、意味が違います」
枝川さんは否定しているが、相手は納得していない。そこで、久弥からの話を思い出した。枝川さんは気が多くて、あちこちで声をかけていると、黒崎常務から聞いたという。こうして誤解を受けることがあるようだ。
そして、相手の人が枝川さんが誘ったという場所のことを話し始めた。デートスポットばかりだ。夜景の見えるというレストランもあった。仕事の関係とは言えなさそうだ。
(ガッカリした……。好きだって言われて、ちょっと嬉しかったのに……)
告白されても嫌ではなかった。しかし、信用できないものなのかも知れないことが分かった。そこで俺は我に返った。出会ったばかりで告白してきた人を信用しそうになったことに気がついた。久弥から指摘されたとおりだ。俺は流されやすいのだろう。
(もうすぐ帰れる。もう会わないでいい……)
せっかくのすき焼きを食べよう。心を込めて作ってくれた店員さんに申し訳ない。
アツアツの豆腐を口に運んでいる間に、相手の連れの人が仲裁に入った。顔を上げると、枝川さんも知っている人のようだった。
「高野君。中山さんを連れて行ってくれ」
「了解しました。中山さん、お連れさんがいるので……」
「高野君。君は当社の取引先だろう?」
「枝川さんはデート中ですよ!」
「え?」
相手の人のテンションが急に下がったようだ。すると、その黒崎君に似た人が、衝立から顔を覗かせた。俺がいつもの習性で笑顔を浮かべると、さらにその人から謝られた。
「申し訳ありません。せっかくのお食事を……」
「お構いなく。もうすぐ食べ終わりますので」
「中山さん。僕たちはデート中です」
「そうでしたか!失礼いたしました」
その人が、パッと表情を明るくさせた。そして、枝川さんに頭を下げて謝っている。……これで誤解が解けましたね。では失礼します。枝川さんがそう言った後、席に戻って来た。向こうも奥へ進んで行った。
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