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さあ、これから何を話そうかと考えた。そこで、枝川さんから名前を呼ばれた。
ーー理久、と。
違う感じのトーンだからドキッとした。
「この話をしている今は、いい表情をしているぞ。いきいきしている」
「え……」
「いつも発明のことを考えるといい」
「でも……。失敗するし……」
「理久君のそういう表情が好きだ」
「あの……」
また胸がドキッとした。何を言えばいいのか?言葉が見つからない。おまけに引き続き、優しい笑顔を向けられている。ここへ来るまでの空気感からは考えられない。
「えーーっと。それは家の中だけにしてるんだ。ぼーっとするから……」
「俺と一緒に居る時は、そうしても構わない」
「え?」
「今ここで考えてもいいぞ。話さなくても、生返事でも気にしない」
「え?なんで?」
「理由がいるのか?君の表情が好きだからだ」
「えーーっと……」
困っていると、ラインの着信音が鳴った。すぐ隣に置いてあったから、さっと画面を見た。久弥からのものだ。これぞ天の助けだ。たまには久弥もいいことをする。
「ラインが来たから見てもいい?」
「構わないよ……」
(あれ?ショゲたかな?すぐに見終わるし……)
枝川さんがガッカリしているように見えた。さっきと言っていることが逆だ。生返事でも気にしないと言っていたのに。それこそ気のせいか。さっそくラインを開いた。
(お気楽亭に来ているか?食べ終わったら帰って来い。駅まで迎えが来ていると言え。駅までなら送ってもらってもOKだ……。次の約束はその場でするな。大学の関係で、今ここでは分からないと口実を使え……。了解……。送信……)
さっさと返信した後、テーブルに向き直った。枝川さんは笑っているから大丈夫そうだ。こっちも笑っておこう。さてどんな話題を振ろうか?
半分ぐらい食べているすき焼き鍋を見た。どんな具材が好きなのか聞いてみることにした。これぞ、ごく普通の会話だ。
(やっとまともな話題だ……。こんなの初めてだよ……)
出来るだけ笑顔を浮かべた。”天真爛漫な理久”として。
「枝川さんはどんな具材が好き?うちは絹ごし豆腐を入れるんだ。崩れやすいけど」
「へえ。焼き豆腐じゃないのか」
「うん。家族みんなが好きだよ。俺も……」
「俺は君のことが好きだ」
「あの……。すき焼きの……、ことだけど……」
おそるおそる、すき焼き鍋を指した。小さな泡がなくなり、まったりとした具合に、豆腐が顔を出している。白滝、エノキ、春菊が煮えている。しかし枝川さんの視線は、俺の方を向いている。
「あの……。すき焼き鍋を見てよ……、あつっ!」
「大丈夫か?見せてみろ」
「平気だよ……。これで冷やすから……」
鍋に手が当たってしまった。そこで、テーブルのビール瓶を掴んだ。行儀が悪いが、とっさにこれしか思いつかない。さっき出されたばかりの冷え冷えだ。
「それじゃ冷えないだろう。先に見せろ」
「あの……」
さっと手を掴まれた。人差し指と中指がチリチリ痛む。しかしすぐに治まった。それを口にすると、下心じゃないぞと言い返された。笑いながらだ。
(ドキドキする……。何か話題はないかな……。そうだ、好きな具材を聞いていない!そうだ聞こう……)
「枝川さん。俺のことじゃなくて……、すき焼きの具材のことを聞いているんだ。何が好きかな?肉、豆腐、春菊、白滝。ネギも美味しいよね!どんなのがいい?」
「肉が好きだ。白滝も。割り下を使った雑炊も、けっこう好きだ」
「美味しいよね!濃ゆくなっているから、お湯で薄めて作っているよ。卵は落とすの?好き嫌いがあるみたいだけど……」
「どうして早口になったんだ?」
「気のせいだよ。この豆腐、食べごろだよ!ネギも食べない?」
「理久君。俺は君のことが食べたい」
「え?おおおおれは、具材じゃないけど……」
「ここで食べてもいいか?」
(ああ……。ドキドキする……。マジでどうしたらいいのかな……)
冗談で言っているのは分かっているのに。枝川さんの空気感が違うから、余計にドキドキしている。
さらに右手を握られて、口元に近づけられた。息がかかって背中がゾクッとした。口から心臓が飛び出しそうだ。
ーー理久、と。
違う感じのトーンだからドキッとした。
「この話をしている今は、いい表情をしているぞ。いきいきしている」
「え……」
「いつも発明のことを考えるといい」
「でも……。失敗するし……」
「理久君のそういう表情が好きだ」
「あの……」
また胸がドキッとした。何を言えばいいのか?言葉が見つからない。おまけに引き続き、優しい笑顔を向けられている。ここへ来るまでの空気感からは考えられない。
「えーーっと。それは家の中だけにしてるんだ。ぼーっとするから……」
「俺と一緒に居る時は、そうしても構わない」
「え?」
「今ここで考えてもいいぞ。話さなくても、生返事でも気にしない」
「え?なんで?」
「理由がいるのか?君の表情が好きだからだ」
「えーーっと……」
困っていると、ラインの着信音が鳴った。すぐ隣に置いてあったから、さっと画面を見た。久弥からのものだ。これぞ天の助けだ。たまには久弥もいいことをする。
「ラインが来たから見てもいい?」
「構わないよ……」
(あれ?ショゲたかな?すぐに見終わるし……)
枝川さんがガッカリしているように見えた。さっきと言っていることが逆だ。生返事でも気にしないと言っていたのに。それこそ気のせいか。さっそくラインを開いた。
(お気楽亭に来ているか?食べ終わったら帰って来い。駅まで迎えが来ていると言え。駅までなら送ってもらってもOKだ……。次の約束はその場でするな。大学の関係で、今ここでは分からないと口実を使え……。了解……。送信……)
さっさと返信した後、テーブルに向き直った。枝川さんは笑っているから大丈夫そうだ。こっちも笑っておこう。さてどんな話題を振ろうか?
半分ぐらい食べているすき焼き鍋を見た。どんな具材が好きなのか聞いてみることにした。これぞ、ごく普通の会話だ。
(やっとまともな話題だ……。こんなの初めてだよ……)
出来るだけ笑顔を浮かべた。”天真爛漫な理久”として。
「枝川さんはどんな具材が好き?うちは絹ごし豆腐を入れるんだ。崩れやすいけど」
「へえ。焼き豆腐じゃないのか」
「うん。家族みんなが好きだよ。俺も……」
「俺は君のことが好きだ」
「あの……。すき焼きの……、ことだけど……」
おそるおそる、すき焼き鍋を指した。小さな泡がなくなり、まったりとした具合に、豆腐が顔を出している。白滝、エノキ、春菊が煮えている。しかし枝川さんの視線は、俺の方を向いている。
「あの……。すき焼き鍋を見てよ……、あつっ!」
「大丈夫か?見せてみろ」
「平気だよ……。これで冷やすから……」
鍋に手が当たってしまった。そこで、テーブルのビール瓶を掴んだ。行儀が悪いが、とっさにこれしか思いつかない。さっき出されたばかりの冷え冷えだ。
「それじゃ冷えないだろう。先に見せろ」
「あの……」
さっと手を掴まれた。人差し指と中指がチリチリ痛む。しかしすぐに治まった。それを口にすると、下心じゃないぞと言い返された。笑いながらだ。
(ドキドキする……。何か話題はないかな……。そうだ、好きな具材を聞いていない!そうだ聞こう……)
「枝川さん。俺のことじゃなくて……、すき焼きの具材のことを聞いているんだ。何が好きかな?肉、豆腐、春菊、白滝。ネギも美味しいよね!どんなのがいい?」
「肉が好きだ。白滝も。割り下を使った雑炊も、けっこう好きだ」
「美味しいよね!濃ゆくなっているから、お湯で薄めて作っているよ。卵は落とすの?好き嫌いがあるみたいだけど……」
「どうして早口になったんだ?」
「気のせいだよ。この豆腐、食べごろだよ!ネギも食べない?」
「理久君。俺は君のことが食べたい」
「え?おおおおれは、具材じゃないけど……」
「ここで食べてもいいか?」
(ああ……。ドキドキする……。マジでどうしたらいいのかな……)
冗談で言っているのは分かっているのに。枝川さんの空気感が違うから、余計にドキドキしている。
さらに右手を握られて、口元に近づけられた。息がかかって背中がゾクッとした。口から心臓が飛び出しそうだ。
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