Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

文字の大きさ
42 / 91

5-4

しおりを挟む
 ガタガタ……。

 テーブルにたどり着くと、如月君が、さっそく空いている椅子を引いてくれた。ここに座れよと。はいはいと言って荷物も取られて、彼の隣に置かれた。この強引さが気持ちいい。俺の方が遠慮がちにしていたからだ。

「3時限目が入っているだろ?早く食べないと時間が足りないぞ?何にする?買ってきてやる」
「自分で行くからいいよ。ねぎ塩唐揚げ丼だし」

 この店の定番メニューだ。ササッと食べられる丼物は学生たちに人気だ。しかし、カウンターへ向かおうとすると、本日売り切れの張り紙がされた。

「ああー、売り切れか。休み明けだから間に合うと思ったのに」
「次から俺に連絡して来いよ。先に買っておくから」
「ありがとう」
「佐伯は遠慮がちだからな。もっとグイグイいけよ。なあ、藤沢もそう思うだろ?」
「理久君の、おっとりした性格もいいよ。涼介と正反対で、いいコンビだ」
「そうだけどな。深くは考えていないふりをするのは、ある意味、武器だぞ」

 自分は深く考えていない性格だと、出会った時に話してあった。だから考えなしに黒崎君に連絡先を聞いてしまいそうになり、トラブルになったのだと。しかしそれは違うはずだと、如月君に見破られた。

 それは最終日のことだった。黒崎君との3人で連絡先を交換した後、幸也君との待ち合わせ場所へ向かった。その直後、如月君からラインが入っていた。そして、その夜、ゆっくりと考えつつやり取りをした。電話でも良かったが、ラインにしようと決めた。

『佐伯が言っているのは、本当は反対だろう?よく考える性格をしていると思ったぞ。どうして考えていないふりをするんだ?』
『自分を守るためだった。温室育ちでいたほうが楽だった。これからはやめるよ』
『協力する。おまえはいい奴だ。もっと自信を持て。明日、キャンパスで声をかけるぞ!』

 本当に次の日に声を掛けられた。インターンシップの時のような大声で、さえきーー!と。その時にビビッときた。如月君のことが好きになった瞬間だった。しかし、恋愛未経験だから、この先をどうすればいいのか分からない。急に告白されても困るのは分かり切っている。俺の方も、具体的に何がしたいのかが分からない。恋人同士なら、キスをしたりいちゃついたりするだろう。しかし、その発想が浮かばない。久弥からは、”憧れているだけだ。恋愛感情じゃないだろう”と指摘された。そして、幸也君への感情こそ、恋愛感情だと教えられた。

(今までにいないタイプの子だから、憧れだって?それなら幸也君もそうだよ……)

 思い出すだけでムカムカしてきた。久弥に対してではなく、幸也君に向けてのものだ。俺のことが好きだし、付き合いたいと言っている。そのくせに喧嘩になっている。あの大人げのなさと気の多さ。たしかに周りにいないタイプだ。

「俺は認めないーー!」
「理久君ー?どうしたの?」
「売り切れが悔しくて……」
「はいはい」

 とっさに誤魔化したのに、藤沢君がクスクスと笑い出した。実はこの子にも見破られている。天真爛漫なふりをしていることに。だから、”可愛い理久君”でいる必要がなくなった。文句を吐くし、人目を気にしている。ありのままだ。すると、藤沢君が言った。 

「向こうのカウンターに行こう。焼き立てパンが出てくる頃だよ」
「そうだね!今日はメロンパンにするよ。如月君、買ってこようか?」
「頼む!ミカンロールパンと、クロワッサン」
「はいはい。理久君、行こうか」
「あ……」

 藤沢君が立ち上った。幸也君ぐらい背が高い。見上げる角度も同じだ。こうして脳裏に浮かぶことすら腹が立つ。それなのに食事や遊びの誘いに乗っている自分自身が理解不能だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。 久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

処理中です...