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23時半。
チクチク……。
この部屋の時計はアナログ式だ。普段なら気にしないのに、針の音が気になって寝付けないままだ。早めにベッドに入ったせいもある。
枕元に置いてあるスマホからは音が鳴らない。寝返りを打つたびに画面を確認している。ここまで気になるなら、電話をすればいい。遠慮するような相手ではないのに、迷惑では無いかと気にしている。
「うーーん……」
このままだと眠れない。思い切って電話をかけることにした。しかし、思いとどまった。返事はラインでしているからだ。その返事がわりに、友達ならスタンプを送ってくる。幸也君はそういう感じではない。メッセージが入る。
「あれ?既読になっている。また送ろうかな。『26日の分。友達の藤沢君が入っているバンドが出るんだ。そっちで誘われたんだよ。誰か友達が出るの?』……送信」
パタン。スマホを机に置いてベッドに入った。明日になれば返事が届いているだろう。しつこくされている分、俺もしつこくしてもいいだろう。今日のことで調子が外れてしまった。
ーーピコン!
すると、ラインの着信音が鳴った。すぐに寝返りを打って画面を確かめると、幸也君からだった。すぐに開いてメッセージを読んだ。
「『起きていたのか。体はどうだ?』……。何ともないよ。忙しかったの?……あ、電話だーっ」
慌てて画面をタップして電話に出ると、急に胸がホッとした。さらに会話が始まると、向こうも家でくつろいでいたことが判明した。だったらなんで返事をしてこなかったのか?と、モヤモヤしながら話した。
「さっきのライン、俺、返事が遅かっただろ。気にしてたらいけないと思ったんだ。だからもう一回、送ったんだよ」
「寝ているだろうって思って、返事をしなかった」
「そうだったんだー。心配したんだよ?いつもならしつこいのにって……」
「これでも大人だぞ。さすがに今夜は控える」
「そうだったんだー」
「”そうだったんだ”。心配しすぎだ」
電話から笑い声が聞こえてきた。いつもの幸也君だから腹が立たない。やっと普段通りの気分に戻った。
「嬉しいなあ。やっと連絡を待ってもらえるようになったのか」
「たまたまだよーっ。それよりも、誰か知り合いが出るの?こっちは黒崎君がヴォーカルをやっているバンドの応援だよ。藤沢君っていう子がギターを弾いてて……」
「そうだったんだ?ああー、君の口ぐせが移ったじゃないか」
「どうでもいいだろ。早く言えよー」
「甘酒!可愛くないぞー」
「高野豆腐、うるさいぞー。もう、バンドのことを話そうよ」
「実はな……」
「え?」
幸也君から聞いたことに驚いた。同じバンドを応援すると分かった。藤沢君の入っているバンドには、桜木さんも入っているからだ。しかもその”桜木君”からの誘いだなんて。同じオフィスだから不思議ではないのに、モヤっとした。お気楽亭で中山さんと会い、幸也君がしつこく声をかけていたと言っていた。しかし、今は諦めているから、同僚として付き合っているとは、幸也君から聞いた。あれから一度も桜木さんのことは話題に出ていない。マズい話なのかなと、心の隅で感じていた。観に来いと誘うぐらいに仲がいいのか。
「同じ職場だもんね。仲がいいって知らなかったよ。フラれた相手なのに……」
「時間が経てば、そうなるケースもある。誤解を解いておきたい。お気楽で会った2人とは、俺、親友と言っていい間柄だ」
「えええええ?」
「デートの邪魔をされたくないから、予防線を張って、他人のふりに近い反応をしてやった。だからやり返されたんだ。……俺が大学生の子を相手にしているからって心配をかけていた。危ないことをするなという意味だ。桜木君のステージには3人で観に行く。だから君もどうかと思った。そろそろ誤解を解きたくて。そっちは黒崎君から誘われていたのか。じつは……」
そこで聞かされた話に、もう一度、驚いた。桜木さんは黒崎君とは同じ大学の院生であり、黒崎君が3歳の時からの幼なじみでもあると教えてくれた。だからやましいことはないと断言された。
「そうだったんだ……」
「”そうだったんだ”。わざわざ蒸し返す方が怪しい。ホッとしているな?自惚れてもいいのか?」
「何を言ってんだよーっ。そうだったんだって、レベル!」
「へええ?」
「あの……」
何かフォローを入れたいのに、慌てているから言葉が出てこない。どうして慌てているのか?ホッとしているからだ。桜木さんが友達だと分かったからだ。中山さんと親友なら間違いない。そう思って、スマホを握っている手が緩んだ。
「ああ、落ちたー」
「大丈夫か?」
スマホが手から滑り落ちてしまった。スライディングした先は、コタツ布団だ。さっと拾い上げると、布団がモゾモゾと波打った。すでに先客がいたようだ。太郎がいた。久弥が留守の日は、俺の部屋でくつろいでいる。
「ごめんね。当たった?平気そうだね……」
「理久ーー?」
「平気だよ。うちの太郎がコタツで寝てて、スマホが上に落ちたんだよ」
「ネコか?イヌか?」
「フェレットだよ。イタチ科の動物。見たことある?」
「見たことがない。ゲージに入れていないのか。寝てるってことは……」
「うん。トイレと水を飲むときだけゲージに入ってる。それ以外は、テキトーに寝転がっているよ。体重が1キロしかないから、小さいんだ。犬と猫の中間みたいな性格だよ。収集癖があるから、お気に入りのものを隠すんだよー。タオルハンカチが好きで、押し入れの隅は……。ああ……」
(またテンション上がった。悪い癖だな……)
幸也君が相づちを打つ間がないぐらいにペラペラと喋ってしまった。ここで引き気味にされれば、空気を読まない理久君のふりが出来る。しかし幸也君の前では、それが出来ない。
チクチク……。
この部屋の時計はアナログ式だ。普段なら気にしないのに、針の音が気になって寝付けないままだ。早めにベッドに入ったせいもある。
枕元に置いてあるスマホからは音が鳴らない。寝返りを打つたびに画面を確認している。ここまで気になるなら、電話をすればいい。遠慮するような相手ではないのに、迷惑では無いかと気にしている。
「うーーん……」
このままだと眠れない。思い切って電話をかけることにした。しかし、思いとどまった。返事はラインでしているからだ。その返事がわりに、友達ならスタンプを送ってくる。幸也君はそういう感じではない。メッセージが入る。
「あれ?既読になっている。また送ろうかな。『26日の分。友達の藤沢君が入っているバンドが出るんだ。そっちで誘われたんだよ。誰か友達が出るの?』……送信」
パタン。スマホを机に置いてベッドに入った。明日になれば返事が届いているだろう。しつこくされている分、俺もしつこくしてもいいだろう。今日のことで調子が外れてしまった。
ーーピコン!
すると、ラインの着信音が鳴った。すぐに寝返りを打って画面を確かめると、幸也君からだった。すぐに開いてメッセージを読んだ。
「『起きていたのか。体はどうだ?』……。何ともないよ。忙しかったの?……あ、電話だーっ」
慌てて画面をタップして電話に出ると、急に胸がホッとした。さらに会話が始まると、向こうも家でくつろいでいたことが判明した。だったらなんで返事をしてこなかったのか?と、モヤモヤしながら話した。
「さっきのライン、俺、返事が遅かっただろ。気にしてたらいけないと思ったんだ。だからもう一回、送ったんだよ」
「寝ているだろうって思って、返事をしなかった」
「そうだったんだー。心配したんだよ?いつもならしつこいのにって……」
「これでも大人だぞ。さすがに今夜は控える」
「そうだったんだー」
「”そうだったんだ”。心配しすぎだ」
電話から笑い声が聞こえてきた。いつもの幸也君だから腹が立たない。やっと普段通りの気分に戻った。
「嬉しいなあ。やっと連絡を待ってもらえるようになったのか」
「たまたまだよーっ。それよりも、誰か知り合いが出るの?こっちは黒崎君がヴォーカルをやっているバンドの応援だよ。藤沢君っていう子がギターを弾いてて……」
「そうだったんだ?ああー、君の口ぐせが移ったじゃないか」
「どうでもいいだろ。早く言えよー」
「甘酒!可愛くないぞー」
「高野豆腐、うるさいぞー。もう、バンドのことを話そうよ」
「実はな……」
「え?」
幸也君から聞いたことに驚いた。同じバンドを応援すると分かった。藤沢君の入っているバンドには、桜木さんも入っているからだ。しかもその”桜木君”からの誘いだなんて。同じオフィスだから不思議ではないのに、モヤっとした。お気楽亭で中山さんと会い、幸也君がしつこく声をかけていたと言っていた。しかし、今は諦めているから、同僚として付き合っているとは、幸也君から聞いた。あれから一度も桜木さんのことは話題に出ていない。マズい話なのかなと、心の隅で感じていた。観に来いと誘うぐらいに仲がいいのか。
「同じ職場だもんね。仲がいいって知らなかったよ。フラれた相手なのに……」
「時間が経てば、そうなるケースもある。誤解を解いておきたい。お気楽で会った2人とは、俺、親友と言っていい間柄だ」
「えええええ?」
「デートの邪魔をされたくないから、予防線を張って、他人のふりに近い反応をしてやった。だからやり返されたんだ。……俺が大学生の子を相手にしているからって心配をかけていた。危ないことをするなという意味だ。桜木君のステージには3人で観に行く。だから君もどうかと思った。そろそろ誤解を解きたくて。そっちは黒崎君から誘われていたのか。じつは……」
そこで聞かされた話に、もう一度、驚いた。桜木さんは黒崎君とは同じ大学の院生であり、黒崎君が3歳の時からの幼なじみでもあると教えてくれた。だからやましいことはないと断言された。
「そうだったんだ……」
「”そうだったんだ”。わざわざ蒸し返す方が怪しい。ホッとしているな?自惚れてもいいのか?」
「何を言ってんだよーっ。そうだったんだって、レベル!」
「へええ?」
「あの……」
何かフォローを入れたいのに、慌てているから言葉が出てこない。どうして慌てているのか?ホッとしているからだ。桜木さんが友達だと分かったからだ。中山さんと親友なら間違いない。そう思って、スマホを握っている手が緩んだ。
「ああ、落ちたー」
「大丈夫か?」
スマホが手から滑り落ちてしまった。スライディングした先は、コタツ布団だ。さっと拾い上げると、布団がモゾモゾと波打った。すでに先客がいたようだ。太郎がいた。久弥が留守の日は、俺の部屋でくつろいでいる。
「ごめんね。当たった?平気そうだね……」
「理久ーー?」
「平気だよ。うちの太郎がコタツで寝てて、スマホが上に落ちたんだよ」
「ネコか?イヌか?」
「フェレットだよ。イタチ科の動物。見たことある?」
「見たことがない。ゲージに入れていないのか。寝てるってことは……」
「うん。トイレと水を飲むときだけゲージに入ってる。それ以外は、テキトーに寝転がっているよ。体重が1キロしかないから、小さいんだ。犬と猫の中間みたいな性格だよ。収集癖があるから、お気に入りのものを隠すんだよー。タオルハンカチが好きで、押し入れの隅は……。ああ……」
(またテンション上がった。悪い癖だな……)
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