Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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(お兄ちゃんのこと、紹介したいな。でもなあ。イジッてくるもんな……)

 幸也君からは、それ以上は家族のことを聞かれなかった。さあ行こうかと、お互いに歩き出していると、女性の3人連れから見られていた。すぐに後ろを振り返ったが、誰も居ない。だったら、俺たちのことなのか。

「幸也君の知り合い?」
「いや違う。声をかけてくるはずだ。仕事関係なら」

(それはそうか。ジロジロ、チラチラは失礼だし……)

 そこでやっと気が付いた。久弥の関係だと。久弥は普段の姿とステージとのイメージが違い過ぎて、街を歩いていても、 ”佐久弥” だと、声を掛けられることがない。しかし、今はソロ活動でメイクをしていない顔をテレビで出しているから、声をかけられることが増えた。だから俺も同じだ。よく似ている顔立ちだから、たまに声をかけられている。すると、俺たちが話し始めたタイミングで、女性達が近づいて来た。

「あの……。急にごめんなさい。テレビで見た人に似ていると思ったので。ご兄弟に有名な方はいますか?」
「いえ。そういう人はいません」
「誰かに似ているって言われませんか?」
「ええ?そんなことは……」

 感じ悪くすると厄介なことになる。ここは外向けの理久になろう。笑顔を浮かべて首をかしげた。すると3人が距離を詰めてきて、俺の肩にまで触れてきた。そして、顔をジロジロと見られた。

「そうかなー?すみませんでした。でも……」
「急ぎますので。失礼します」

 幸也君が助けてくれた。爽やかスマイルで、はっきりと断ってくれた。相手が手が引っ込めた後、幸也君から手を引かれた。そして、早足で歩き始めた。

 向かった先は、大型モニターがある方向だ。カンタレーラのもう一つの出入り口付近まで来た時に、幸也君が足を止めた。早足を覚悟で付いて来たから、息は乱れていない。怖くもなんともない。

「ありがとう。助かったよ……」
「今日もごめんな。あれしか思いつかなかった。素っ気なさすぎたと思う」
「平気だよ!そんなに気にしないで……。ホントに……、あの……」

 幸也君が落ち込んでいる。不甲斐なさ?情けない?まるでニュースで観るような、企業の謝罪会見のようだ。そう思いつくと笑いが込み上げてきた。さすがに笑うのは駄目だろう。だから、反対を向いて、笑いが治まるまで待った。

 すると、幸也君が俺に回り込んできて両肩に触れてきた。そして、俺の顔をのぞき込んできた。幸也君の背が高いから、先生と中学生のように見える。

「苦しいのか?気分が悪い?近くで座ろう」
「平気……っ、おさまる……から」
「ああーー、ここへ……」
「わーーー!」

 そばのベンチに座らされた。いきなり視界が揺らいだから驚いた。ベンチがある事を知らなかったからでもある。俺が声を上げたからなのか、幸也君が周りを気にしている。

(なんで?幸也君じゃないみたいだ……)

 目の前にいる人は誰だ?ここまで気遣う人だったのか?心配になりつつも、彼の真剣な様子に吹き出してしまった。これではアウトだ。

 幸也君が隣に座った。自分は体が丈夫だから、持病がある人のことに配慮が欠けていると言い出した。それは大袈裟だと思った。日ごろは普通にしている。大学生の男なら、大抵の子は走っても問題ない。そう思うものだ。

「幸也君。昨日のことを気にしているの?いきなり走ったらゼエゼエ息をするから。誰でもそうだよ」
「昨日と同じことをしたからだ」
「いいってばー。店へ行こう。お腹が空いたから」

(可愛いところがあるなあ。あれ?)

 さっと手を握られた。優しい力だし、強引な感じもない。妙に嬉しい気分だ。そして、人波を避けて歩き出した。大勢が足早で歩いているのに、ぶつかることなく進んで行った。嬉しくなって笑うと、幸也君から不思議そうな視線を向けられた。

「なんだー?調子に乗るな」
「はああ?なんだよ?ヘコんでいたくせにーーっ」
「人として当然の反応だ。分かったかー?」
「高野豆腐!誤魔化すなよ」
「甘酒!」
「高野豆腐!」

 大きな声で呼び合った。さすがに周りにいる人達から注目された。あたふたしていると、また甘酒と呼ばれて言い返した。それは結局、店へ行くまで続いた。
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