Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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 リーーン、リーーン。

 モニターからインターンフォンが鳴った。ピザの出前の人が来ていた。代わりに出てくれと言われて、ダラっとしたニットを着直した。さっきのことで脱げかけていたからだ。

 ガチャ!

 ドアを開けると、如月君が立っていた。俺のことを見て驚いていた。もちろん俺も驚いて、ポカンと見つめ合った。ピザ・マルガリッタと書かれた袋を持ち、同じロゴつきの制服姿をしている。

 バイト先だったのか。普通ならそう思って声を掛けるだろうに、今の自分は言葉を失った。自分が着ているのは、サイズが合っていない、肩が落ちた感じのニットだ。”この部屋の主から借りましたスタイル”だ。友達だとは連想できない。

「あれー?ここ、枝川さんの家だったのか」
「うん……」

 後ろから幸也君が出てきた。二人が軽く挨拶をしながら、ピザの受け取りを済ませた。

「理久、大学でなー。失礼しまーす」
「ありがとう。気をつけてな」

 如月君がエレベーターへ走って行った。ボーっとしていると、風邪をひくぞと、部屋へ連れ戻された。俺は言葉が出てこない。好きだったはずの如月君に見られても兵器だったからだ。恥ずかしいという気持ちの方が浮かんだ。

(好きな子に見られたから?違う。恥ずかしかったからだ。違う。モヤモヤするんだ……)

 また頭の中が理解不能だ。幸也君はというと、食べるセッティングをやっている。手伝おうとすると、ボケていろと言って笑われた。

 ほかほかの湯気が立ったピザ、カップスープ、サラダがテーブルに並べられた。斜め向かいには幸也君が座っている。ラグのうえで胡坐をかいて、幸也君がビールを飲み始めた。どこから見ても大人の人だ。

 彼が飲み物を飲み干すたびに喉元が上下している。自分とは違う骨格をしている。笑いながら見ている番組は”マーリン先生が来た。ザ・ワールド”だ。俺が好きな番組だ。幸也君が付けてくれた。初めて遊びに来た部屋なのに、何回も来ているような錯覚をした。

「如月君は去年の秋に、うちで短期のアルバイトをしたんだ」
「そうだったんだ。俺がここにいるから、びっくりしてたよ」
「仲がいいんだろう?俺のことを隠したかったのかー?」
「話したよ。でも、遊びに来るほど仲が良いとは思っていなかったみたい。こっち、食べていい?ハーフ&ハーフのシーフード」
「いいぞ。何切れでも」
「うん。ああ、美味しいなあー」

 もしもここに来ていなかったら、落ち込んだままだと思う。勇気を出してよかった。こうやって過ごしていたい、これからも。そう口にすると、照れくさそうに笑い返された。なんだか胸が痛くなり、もっと近づきたくなった。しかしその先には進まず、お茶を渡された。

「甘酒は緑茶を飲んでいろ」
「もうすぐ20歳だよー。子ども扱いするなよ。もっとキスしろよーっ」
「もうやらない。どうだ?少しは落ち着けたか?襲ってこないのなら、遊びに行い」
「じゃあ、泊まりに来る!」
「それは却下だ。寝込みを襲われるから。俺は眠りが深いタイプだ」
「今夜は一緒に寝ようね」
「俺はソファーで寝る。ベッドに入って一人で寝ろ」
「なんでだよーー」

 幸也君は答えなかった。ピザがテーブルに落ちそうだ。もっとしっかり食べろと、まるで久弥のように注意をされた。俺は弟のようなものかな?

(追いかけてやる。グイグイ進んでやる……)

 じっと見つめていると、クッションで顔を覆われた。足で蹴飛ばして、バタバタやり合っているうちに、メディアのことや、如月君のことを忘れていた。そして、ベッドに入った後は、ぐっすりと眠ることが出来た。
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