Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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8-1 お互いの新しい一面

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 1月23日、水曜日。午前9時。

 先週の金曜日から大学を休んでいる。ディアドロップのTAKAが、20日に大麻所持の疑いで逮捕されたからだ。報道前だし、IKUもコメントを出していない。本人は容疑を否認しているからだ。

 TAKAが勾留されていることはメディアに知られているため、実家に記者が来ていた。サエキ酒造として、取材をストップするように抗議した。これは最終手段だった。プライベートとは分ける必要があるのに。そうしたのは、かなり近所迷惑になったからだ。おかげで静かになり、両親と俺はホテル暮らしをしなくて済んだ。

 久弥は、都内のホテルに泊まっている。蔵之介君のマンションは迷惑がかかるし、IKUの社長宅は、この年では世話になりたくないからだと言っていた。

 俺は家で過ごしている。ネットでは話が広まっているから、学生から聞かれる可能性が高い。余計なことはしたくない。あと一週間もすれば通えるだろう。

「あ、如月君からだ。藤沢君もだ……」

 休んでいる間、二人から心配されている。久弥がミュージシャンであることを話した。すでに知っていたよと、驚いていなかった。学内では知っている子が多いからだ。電話を掛けてくるときは、その話題は出ない。基礎実験で失敗したとか、教授の笑える発言とか、普段の会話だ。

 今の時間は一時限目だ。どこにいるのかな?返信すると、学食に居ることが分かった。同じテーブルに向かい合い、俺にラインを送って来たことも。学食内ならいいだろうと思い、遠慮なく電話をかけた。藤沢君の方にした。如月君と話すと、恥ずかしくなるからだ。それに、胸が痛く時もある。

「もしもし。二人とも一緒にいるなら意味ないだろー。同じ内容のラインだもん」
「ははは。おかげで退屈しないよ。涼介と二人じゃ、つまらない。ノートの心配はないからね。うちで良かったら、遊びに来るといいのに……」
「もちろん行くよー。大学の近くなら便利だね」
「こらー。理久にはカレシがいるんだぞ。無理を言うなって」
「ホントに?理久君、相手がいるの?」
「ちがう!まだそうなってないよ。友達だから……」

 胸がチクッと痛くなった。如月君が笑っている声が聞こえてきたからだ。

 幸也君のマンションで会った次の日、如月君から電話が掛かってきた。応援するぞと言ってくれた。今では憧れているだけだと分かったのに、今のように胸が痛かった。サラッと受け流された気がしたし、俺のことには関心がないのだと感じたからだ。

(恋愛感情だったのかな?今でも好きなのかな?幸也君のことが好きなのに……)

「理久君ー?何かあった?聞くよ?」
「ううん。何もないよ。太郎がハンカチを隠したんだよー」

 咄嗟に誤魔化した。藤沢君が小さなため息をついた気がした。大人びているのは外見だけではなくて、中身も大人に思える。いつでも聞くよとだけ言われている。口にすると気持ちに迷いが出そうだから、言わないでおく。

(何に迷うのかな?如月君の方が好きだって?違う。そうじゃない。モヤモヤする……)

 ここに久弥がいれば相談できるのに。大変なときだから、様子を聞くぐらいしか電話が出来ない。母が代表して久弥に連絡を取り合っている。こんな時に出すような話題ではない。心配されるのは分かり切っている。やっぱり家族に甘えている。

 今日はこれから、甘酒製造機のことで黒崎製菓へ出かける。気分をリセットできるだろう。それを藤沢君に話すと、よかったねと言って笑っていた。藤沢君は黒崎君とは高校時代からの友達で、黒崎常務に会ったことがあるそうだ。面白い人だから気晴らしになるねと言っていた。またラインを送るよと言い、電話を終えた。さあ、出かけよう。
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