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俺の名前は黒崎圭一。38歳だ。夏樹というパートナーと暮らしている。そして、父ともほとんど同居という関係を築いている。自分の家が友人達の家とは少し違っているようだと気がついたのは、小学校1年生の夏休みのことだった。俺の家は黒崎家といい、黒崎製菓という菓子メーカーの創業者一族であり、社長や役員を歴任してきた。
そんな中、父は社長に就任して仕事に精を出す代わりに、家のことには関心が無かった。外に何人も愛人を持っており、彼女達に会いに行く日々を送っていた。
俺の母も愛人の一人だ。父が本妻と離婚した後で俺が生まれた。本妻は瑛子さんといい、俺のことを親戚の子供のように接してくれていた。そんな中、俺の母が父の再婚相手に選ばれて、この黒崎家に引っ越してきた。6歳の時だった。
俺には5人のお手伝いさん達がついていた。そして、勉強や生活の面倒を父の息子の拓海が見ることになった。俺とは15歳離れた人だ。黒崎家に引っ越してきた時には打ち解けてあり、拓海兄さんと過ごす夏休みはどんなだろうかと楽しみにしていた。母は俺に関心が無い。父は俺のことを拓海兄さんに任せたままだった。
そんな俺は、自分の家は変わっていると思うようになった。学校で拓海兄さんが参観日に来たり面談に来たりするようになり、それは父親と言えなくも無い21歳の青年であり、大学と黒崎製菓の仕事を掛け持ちして忙しくしており、そんな状態で俺の面倒も見るというハードスケジュールをこなしていた。しかし、拓海兄さんはいつも俺に優しくて、この日もケーキを焼いてくれると言っていた。
「お兄ちゃん。何を焼いてくれるのかな?チェリーパイかな?バナナブレッドかな?」
幼いときの俺は甘い物が好きだった。拓海兄さんがケーキを焼く趣味があり、よく食べさせてもらっていた。この日は何を焼くのか内緒にするということで、キッチンに入ってはいけないと言われていた。しかし、好奇心に負けてしまい、キッチンを覗いた。
「お兄ちゃん……。いるいる。良い匂いだな……」
拓海兄さんが俺に背中を向けている。うしろ姿だ。黒いエプロンが背中でリボン結びされている。俺はそのリボンを触るのが好きで、近づきたいと思った。俺は当時拓海兄さんに恋をしていた。かっこよくて優しくて、自分にとってヒーローだと思っていた。いや、憧れという気持ちだったかと思う。今、本人が前にすると吹き出して笑うだろう。彼は俺が高校3年生の時に交通事故で亡くなった。だから、思い出を語り合うことが出来ない。こうして思い出すことでしか会えない。
そんな中、父は社長に就任して仕事に精を出す代わりに、家のことには関心が無かった。外に何人も愛人を持っており、彼女達に会いに行く日々を送っていた。
俺の母も愛人の一人だ。父が本妻と離婚した後で俺が生まれた。本妻は瑛子さんといい、俺のことを親戚の子供のように接してくれていた。そんな中、俺の母が父の再婚相手に選ばれて、この黒崎家に引っ越してきた。6歳の時だった。
俺には5人のお手伝いさん達がついていた。そして、勉強や生活の面倒を父の息子の拓海が見ることになった。俺とは15歳離れた人だ。黒崎家に引っ越してきた時には打ち解けてあり、拓海兄さんと過ごす夏休みはどんなだろうかと楽しみにしていた。母は俺に関心が無い。父は俺のことを拓海兄さんに任せたままだった。
そんな俺は、自分の家は変わっていると思うようになった。学校で拓海兄さんが参観日に来たり面談に来たりするようになり、それは父親と言えなくも無い21歳の青年であり、大学と黒崎製菓の仕事を掛け持ちして忙しくしており、そんな状態で俺の面倒も見るというハードスケジュールをこなしていた。しかし、拓海兄さんはいつも俺に優しくて、この日もケーキを焼いてくれると言っていた。
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