貴方の背中と夏休み~思い出の中で

夏目奈緖

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 俺はキッチンのドアを開けたままで、拓海兄さんのことを見つめた。俺が来ていることに気づいていないのが意外だと思った。いつも気がつくからだ。

「お兄ちゃん……」

 呼んでみたが、一向に気づいてもらえなくて、おかしさと寂しさが襲ってきた。そこで、ドアをパタンを閉めて開けてを繰り返した。来ているよと知らせるためだ。

「圭一。そんなことをしても、お前の姿は見えないんだぞ」
「え?」
「俺には見えないんだ。ケーキを焼き終わるまでな」
「そんな……」

 拓海兄さんからの話に驚き、胸がずきんと痛んだ。見てもらえないことがこんなにも辛いことだとはと思った。そこで、何とかして見てもらえないかと思って、彼のそばに行った。しかし、本当に見えないようで、目すら合わせてもらえなかった。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「見えないなあーーーーー」
「僕はここにいるよ!」

 俺は拓海兄さんの背中にすがりついた。すると、彼の身体が小刻みに揺れ始めた。笑っている。そう気づくまでに時間が掛かり、どうしたのかと心配になった。そして、そんな俺を見て、拓海兄さんが目を合わせてきた。

「はははは!お前、面白いなあ!本気にする奴があるか!真面目すぎるぞ!」
「お兄ちゃん!僕のことが見えるの?」
「ああ、見える。嘘に決まっているじゃ無いか。お前のことが見えないなんて、ない」
「お兄ちゃん……」

 拓海兄さんが優しく笑った。そして、また俺に背中を向けて、ケーキ作りを開始した。今日のケーキはホットケーキというそうだ。

「ホットケーキ?」
「そうだよ。一也君が食べたことがあるって言っていたじゃないか。だから、お前にも焼いてやる。すぐに出来るから、ダイニングで待っていろ」
「うん!見ないっていう約束を破ってごめんなさい」
「いい。本当に面白い奴だなあ。約束は破るためにある物だぞ。ははは」

 拓海兄さんがホットケーキの種をフライパンに流し入れた。火を使っているから危ないから、俺に離れておけと言っているのだと理解した。そして、良い匂いがして来て、出来上がったホットケーキが2皿分、ダイニングテーブルの上に運ばれてきた。それは蜂蜜が掛かったホットケーキであり、じゅわっとした甘さを思い出すことが出来る。
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